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知的財産権案件における提訴前の行為保全に関する対応

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2023年3月17日

ネット販売が急速に発展していくにつれ、知的財産権侵害行為は影響範囲が広く、伝達スピードが速い等といった特徴が明るみになっており、提訴前の行為保全は侵害行為を抑えるうえで十分かつ効果的な役割を果たすことになる。しかし、不適切な提訴前の行為保全は企業にとって重大な影響をもたらし得る。例えば、電子商取引企業は、618商戦、W11(ダブルイレブン)などのネット通販セールイベントに対応するために大量の品物を仕入れたものの、もしも不適切な提訴前の行為の保全によって商品の通販リンク先を解除することになると、ネット通販セールイベント後の在庫の消化は難しくなり、また、第三者とのライブ配信契約を履行できないなどのために損害賠償を請求される可能性もある。

その為、企業が知的財産権侵害案件の提訴前の行為保全に直面した場合、どのように効果的に対応するかが極めて重要である。直近では、筆者が対応したある案件において、相手当事者からの提訴前の行為保全申立を却下するよう裁判所を説得することに成功し、依頼者に余計な損失がもたらされることを回避しており、本案件及び過去の案件における経験を踏まえながら簡潔に紹介したい。

1.公聴会のために十分な準備を行っておくこと

公聴会は提訴前の行為保全の法定前置手続きではないが、裁判所は提訴前の行為保全の実施についてはやや慎重な姿勢をとっており、提訴前の行為保全措置を実施するかどうかを判断する前に、通常、公聴会を開き、双方の意見を聞いたうえで裁定を下すことになる。従って、企業の公聴会の中での対応の効果は、裁判所が提訴前の行為保全を行うことに同意するかどうかの最終判断に影響する。

また、公聴会には、多かれ少なかれ案件の実体上の問題についても併せて審査することになり、このことは公聴会の結果が提訴前の行為保全を支持するかどうかに影響するだけでなく、案件の裁判の全体的な方向性にも影響し得ることを意味する。したがって、企業は、裁判所からの公聴会の通知を受け取った際には、速やかに案件の状況を整理し、極めて限られた準備期間内に突破口を見つけ出し、十分な準備をしっかりと行い、積極的に対処しなければならない。

2.提訴前の行為保全申立てを審査する際の裁判所の勘案要素

「知的財産紛争の行為保全案件の審査における法律適用の若干事項に関する最高裁判所による規定」(以下「規定」という)によると、裁判所が行為保全申立を審査する際の勘案要素には、次のものが含まれる。

(1)申立人の請求が、要件事実及び法律上の根拠を有するかどうか。これには保護を求める知的財産権の効力が安定しているかどうかを含む。

(2)行為保全措置を実施しないことで、申立人の適法な権益が取り返しの難しい損害を被るかどうか、又は案件の裁決の実施が難しくなるなどの損害が発生するか。

(3)行為保全措置を実施しないことで申立人にもたらされる損害が、行為保全措置を実施することで被申立人にもたらされる損害を超えるか。

(4)行為保全措置を実施することで社会の公共利益を損なうか。

(5)その他勘案すべき要素。

そのうち、要素の1)は、主に申立人の勝訴の可能性の判断に係わってくるものであり、要素の(2)、(3)は主に「民事訴訟法」第104条に規定された提訴前保全の必要条件、即ち、「緊急事態」と「取り返しの難しい損害」に係わってくるものである。要素の(4)は、実務において関係してくる情景が相対的に限りがあることから、以下、主に要素の(1)(2)(3)を中心に分析するが、これらも企業が提訴前の行為保全を対応する際に重点的に考慮すべき着眼点である。

3.要素の(1への対応

知的財産権侵害案件においては、申立人が知的財産権侵害と不正競争を同時に主張することは珍しくない。その為、裁判所は、申立人の勝訴可能性を判断する際には、主に係争中の知的財産権の権利基礎が確信できるかどうか及び知的財産権侵害と不正競争の事実が成立し得るかどうかに関心を払う。勝訴可能性の判断に関わるため、公聴会においては、裁判所が案件の実体問題をある程度審理し且つ判断を下さざるをえない。

まず、企業は申立人が係争中の知的財産権の権利基礎について瑕疵があるかどうかを考慮しなければならない。申立人は通常、係争中の知的財産権の権利証明書類を提出することになり、非知的財産所有者であれば、通常、関連するライセンス文書も提出することになり、企業はその有効性に関心を払う必要がある。例えば、著作権には17項目の法定権利が存在し、そのうち13項目の財産権利は譲渡できるが、著作権者は必ずしもすべての権利を譲受人に供与するとは限らない。もしもその権利基礎に瑕疵があれば、権利者にとって有効な抗弁の鍵となる。

次に、企業は知的財産権侵害の事実が成立するかどうかを考慮しなければならない。権利侵害の疑いある行為に関する知的財産権と係争中の知的財産権は同一であるかどうか、又は実質的に相似しているかどうかを判断しなければならない。また、権利侵害の疑いある行為が申立人が係争中の知的財産権について有している権利の保護範囲に当たるかどうかを判断しなければならない。

また、企業は不正競争の事実が成立するかどうかを考慮しなければならない。インターネット経済の特有性から、双方の間に競争関係があるかどうかを認定する際には、従来の案件と比べ、一層拡大化の傾向がみられる。例えば、ショート動画業務とゲーム業務は従来の意味では競争関係があるとは認定されにくいが、インターネット経済のもとでは、その業務の本質は消費者の注目を奪い、データ通信量を占有することにあり、競争関係が存在すると認定されやすい。しかし、このような傾向があるからこそ、競争関係が存在するかどうかを判断するうえでの境界線はやや曖昧であり、企業は一部の詳細な分野での競争関係を論証し、抗弁の余地を取得することができる。

4.要素の(2)(3)への対応の余地について

前述の通り、この2つの要素は「民事訴訟法」で提訴前の保全について求める「状況が緊急であること」と「取り返しの難しい損害」に関わっている。

「状況が緊急であること」については、「規定」第6条ではそれを6通りの状況[1]に詳細化しているが、知的財産権侵害案件の中で比較的よく見られるのは、「申立人の知的財産権が見本市等の時限性の高い場面で現在まさに侵害されているか又は侵害されようとしている」、「時限性の高い人気番組が侵害されているか、または侵害されようとしている場合」などである。具体的には、618商戦、W11(ダブルイレブン)などのネット通販セールイベント、人気ドラマや番組の放送期間、新製品の通販前後の期間など、販売数、ダウンロード回数、再生回数、アクティブユーザー数などに著しい変化があり、実務においては「状況が緊急であること」と認定されやすい。注意すべきは、「状況が緊急であること」の構成要件として、侵害の結果が「現在発生中又は間もなく」発生することであることが求められ、したがってもしも企業が自己の行為はたしかに権利侵害の行為又は不正競争行為を構成し得ると判断した場合、直ちに停止措置を講じることが「状況が緊急であること」の状態を解消するうえで有益である。

「取り返しの難しい損害」については、「規定」第10条も同じく4通りの状況[2]に詳細化されており、そのうち、申立人ののれん又はその他人身権を侵害するかどうかは、一層直接的かつ簡単であり、例えば、多くのネガティブな報道がなされたかどうか等である。企業はこれらのケースを否定できる状況においては、他の幾つかのケースに一層注意すべきであり、ひとつには、行為を制御することが難しいかどうかは、前述したように、もしも企業が直ちに停止措置を取り決めることができる場合、裁判所は通常、制御不可能という状況は否認することになること、また、かかる市場シェアが明らかに減少することになったかどうかである。このほか、企業は、行為保全措置を実施しないことで申立人にもたらす損害が、保全措置を実施する場合に被申立人にもたらす損害を超えないという視点から、保全措置を実施することには必要性がないことを論証してみることができる。一般的には、申立人は「取り返すことの難しい損害」について、より重い証明責任を負い、企業は申立人の論証を踏まえながら、臨機応変に対処することができる。

企業は提訴前の行為の保全に遭遇した場合、非常に限られた準備期間内で対処する必要があるが、知的財産権侵害案件においては、関連証拠資料はより複雑であることが多く、企業にとっては、さらに厳しい試練である。したがって、企業は迅速に内部の力を動かし、事実を究明し、且つ外部の力を上手く活用して法的次元での対処と支援を強化する必要がある。

(作者:里兆法律事務所  董紅軍、鄭旭斌)

[1] 「知的財産紛争の行為保全事件の審査における法律適用の若干事項に関する最高裁判所による規定」第6条:下記のいずれか1つに該当し、行為保全措置を直ちに実施しなければ、申立人の利益が損なわれる場合、民事訴訟法第100条、第101条に掲げる「状況が緊急であること」に該当すると認定できる。(1)申立人の営業秘密が不法に開示されようとしている場合。(2)申立人の公開権、プライバシー権等の人身権利が侵害されようとしている場合。(3)係争中の知的財産権が不法に処分されようとしている場合。(4)申立人の知的財産権が見本市等の時限性の高い場面において侵害されているか又は侵害されようとしている場合。(5)時限性の高い人気番組が現在侵害されているか又は侵害されようとしている場合。(6)行為保全措置を直ちに実施すべきその他の状況。

[2] 「知的財産紛争の行為保全事件の審査における法律適用の若干事項に関する最高裁判所による規定」第10条:知的財産及び不正競争紛争の行為保全事件において、下記のいずれかに該当する場合、民事訴訟法第101条に掲げる「取り返しの難しい損害」に該当すると認定できる。(1)被申立人の行為が、申立人ののれん又は公開権、プライバシー権等の人身権を侵害し且つ取り戻しの難しい損害がもたらされようとしている場合。(2)被申立人の行為により、侵害行為が深刻化し、また申立人の損害が著しく増加されようとしている場合。(3)被申立人の侵害行為により、申立人のかかる市場シェアが著しく減少する見込みである場合。(4)申立人にその他取り返しの難しい損害をもたらす場合。

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