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ログイン2024年3月27日
「労災保険条例」においては、労災とみなされる3通りの状況が定められ、それには、「勤務時間中及び職場(中国語「工作崗位」)において、突発的病により死亡し、又は48時間以内に救命の甲斐なく死亡した場合」という状況が含まれる。実際のオペレーションにおいては、突発的病によるみなし労災の認定は常に難しい問題であり、使用者、従業員及び労働行政部門は労災認定をめぐって紛争が起こりがちである。このため、本文では、読者の参考に資するため、関連事例を踏まえ、実務上広く受け入れられているみなし労災の認定基準を整理する。
一、「勤務時間」及び「職場」とは
現在、みなし労災の認定をめぐっては、主に「勤務時間」と「職場」の定義が議論の焦点となっている。この2つの概念について、裁判実務における主流の見解を整理し、簡単に説明する。
1.「勤務時間」
「勤務時間」の定義について、国の法律では明確に規定されていないが、一部の地方法規、政策及び各地の高等人民法院が発表した指導的意見に相応の定義があり、参考にすることができる。例えば、以下の通りである。
●北京高等法院が公布した「労災認定行政案件の審理に関する若干事項についての意見(試行)」は、「勤務時間」を「従業員が勤務場所において業務に関連する準備又は片付けの作業に従事するために必要な時間、業務上のニーズによる残業時間、その他業務上のニーズにより勤務中の必要な休憩時間等」と定義している。
●「遼寧省労災保険実施弁法」では、「勤務時間」を「使用者が定めた出勤時間から退勤時間までの間に、従業員が勤務中に正常な生理上の需要を満たす時間、従業員があらかじめ職場につき、業務に必要な準備をする時間及び退社時に片付けの作業を行う時間、並びに使用者が手配した残業時間等」と定義されている。
現在、実務上主流となっている見解は、「勤務時間」とは、従業員が使用者の管理及び統制の下で職務を遂行するすべての時間を指すべきというものである。それには、以下のものが含まれる。
①会社規則に定められた勤務時間。
②労働契約で合意された勤務時間。
③使用者が手配した、又は従業員の自発的な残業時間。
④従業員が勤務中に正常な生理的需要を満たすための時間。例えば、トイレ休憩、食事、昼休みの時間。
⑤通常の業務に必要な準備及び片付けの時間。
2.「職場」
国務院法制弁公室、人力資源社会保障部法規司の説明によると、「職場」とは、従業員が日常的に身を置く業務配置、又は管理職が業務遂行のために割り当てるポジションを指す。「職場」は「勤務場所」とは異なる。「勤務場所」が具体的な物理的空間の概念であるのに対し、「職場」は業務遂行の状態に焦点を当てている。「職場」にいるかどうかを判断するには、従業員が職務又は割り当てられた任務を遂行しているかどうかが重要である。勤務場所で発病した場合であっても、その時点で職務又は任務を遂行していなければ、「職場にいる」という要件は満たさない[1]。
自宅での自発的な残業が「職場」の要件を満たすかどうかについては、「行政裁判における法律適用の若干事項に関する最高人民法院第一巡回法廷による会議議事録」が既に明確にしており、従業員が使用者の利益のために仕事を自宅に持ち帰り、個人の時間を利用し仕事を続ける場合は、「労災保険条例」第15条に規定する「勤務時間及び職場において」に該当すると理解することができる。また、出退勤途中に突発的病が発生した場合、関連判例の検索結果によると、一般的に、裁判機関は、出退勤途中は、勤務時間及び職場という条件を満たしていないと判断している[2]。
二、「突発的病」及び「48時間以内に救命の甲斐なく死亡した」を如何に理解するか
1.「突発的病」の種類
旧労働社会保障部が公布した「労災保険条例の実施における若干事項に関する意見」(労社部函〔2004〕256号、以下「意見」という)第3条によれば、「突発的病」にはあらゆる疾病が含まれ、即ち「疾病」の種類に制限はなく、「勤務時間」及び「職場」において発生した疾病という要件を満たしていれば、業務に起因する疾病であるか個人固有の疾病であるかを問わず、全て認定の対象となる。
2.「病院への直接搬送及び救命処置の実施」は必要条件か
発病後に病院へ直接搬送され、救命処置を行われることがみなし労災の必要条件かどうかについては、実務上論争がある。
一つの見方は、それが必要な条件に該当すると考えるものであり、それは、勤務時間及び職場における発病、救急処置及びその後の死亡は、中断することのない連続した過程であるのに対し、発病後に休みを取り帰宅して休養したり、間隔を空けて治療を受けたりする状況は、この連続した過程を切り離すことになり、突発的病と仕事の関連性を断ち切ることになり得るからである。この観点は、2016年人力資源社会保障部法規司の「労災保険条例第15条第1項を如何に理解するかについての回答書」に基づくものであり、回答書においては「勤務時間、職場、突発的病、病院への直接搬送及び救命処置の実施という4つの要件がいずれも重要で且つ同時性と一貫性を有するという観点から厳密的に理解すべきであり、……勤務時間及び職場において発病し又は体調が悪くなったが、病院に搬送され救命処置が行われずに休養のため帰宅し、48時間以内に死亡した場合は、労災とは見なされない」とされている。
もう一つの見方は、病院への直接搬送及び救命処置の実施という要件は厳しすぎると考え、必要条件とすべきではないというものである。まず、従業員は医学的知識が不足していたり、自身の症状の重さを正しく判断できないために、一時的に休暇をとって休養し、症状を観察することを選ぶかもしれず、次に、個人の体質によって症状の現れ方、悪化のスピードが異なるため、発病後、すべての人に直接病院での救急処置を求めるのは生活の実態にそぐわない。
実務上、裁判機関も後者を優先し、従業員が職場で体調不良を感じ、休暇を取得して帰宅後48時間以内に死亡した場合(治療を受けたかどうかに関わらず)、その過程にほかの大きな要因が介在しない限り、重症化の正常な延長とみなすべきであり、みなし労災を安易に否定すべきではないとしている[3]。
3.「48時間」の制限
「意見」の関連規定によれば、「48時間」の起算点は、医療機関による初診時間を基準としている。「48時間」という時間制限については、労働行政部門と裁判所では基準が異なるかもしれない。実際のオペレーションにおいては、労働部門は通常、規則を厳守し、通常48時間という条件を緩和することはない。しかし、裁判所は、労働者偏重保護の原則に基づき、特に医療機関が48時間以内に救命の甲斐がないと判断したにもかかわらず、家族が救命処置の継続を求めた場合、48時間の制限を打ち破る可能性がある[4]。
三、業務による外出期間中に突発的病で死亡した場合、労災とみなされるか
「労災保険行政事件の審理における若干事項に関する最高人民法院の規定」第5条によれば、「業務による外出期間」には、以下のものが含まれる。
(一)従業員が使用者の指示を受け又は業務上のニーズにより勤務場所以外で職務と関わる活動に従事する期間。
(二)従業員が使用者の指示を受け、学習又は会議のために外出する期間。
(三)従業員の業務上のニーズによるその他の外出活動の期間。
一般的に、従業員が業務により外出している間に、業務に関連する活動(外出業務を遂行するために必要な交通、休憩、食事等を含む)に従事する時間と場所は、「勤務時間」と「職場」とみなされると考えられる。業務による外出の際の往復の移動も、職務を遂行する時間と職場の合理的な継続とみなされる。従って、業務又は使用者から任された学習及び会議のための外出と関係のない個人的な活動に係る時間を除き[5]、業務による外出期間中に「突発的病により死亡し、又は48時間以内に救命の甲斐なく死亡した」場合は、通常、みなし労災に関する規定に従い取扱われる[6]。
四、使用者が催行する行事に参加した際に突発的病により死亡した場合、労災とみなされるか
国務院法制弁公室、最高人民法院、人力資源社会保障部の規定によると、従業員が使用者の催行する行事に参加した際の負傷は、一般的に労災として認定される。しかし、「突発的病」が傷害に当たるかどうかは明確に定められていない。筆者の知る限りでは、裁判機関は通常、行事の性質、目的、使用者による催行と手配の有無、費用の負担、強制性の有無といった要素を考慮する。一般的に、以下のような状況に該当する場合、みなし労災と認定される可能性が高い。
A.業務交流、顧客開発、市場調査等の業務内容に関わるもの。
B.従業員の参加に一定の強制性を有する[7];
C.行事費用を使用者が負担している。
忘年会、食事会、旅行等の使用者が統一手配するチームビルディング行事については、司法実務では、これらの行事は会社の生産と運営に直接関係するものではないが、チームの団結力及び従業員のモチベーションを高めるために会社が行う業務でもあり、業務と一定の関連性があると考えられる傾向がある。従って、従業員がこのような行事活動に参加することは業務による外出に該当する[8]。
注意を払うべき点として、一部の地域の関連規定では、レクリエーション行事が除外されている。例えば、「労災保険関連政策の実施に関する江蘇省人力資源社会保障庁による意見」においては、「使用者が従業員の文化スポーツ行事への参加を手配し又は催行することは、業務上の事由とみなされる。使用者が従業員に対し、仕事という名目で食事、観光旅行、レクリエーション等の行事に参加するよう手配し又は催行したり、本人又は他人の私的利益に関連する行事に従事させたりすることは、業務上の事由とはみなされない」とされている。従って、特別規定が設けられている地域では、同じような事例で裁判所が下す判決は異なる可能性がある[9]。
(作者:里兆法律事務所 董紅軍、沈思明)
[1] (2021)京0111行初396号。
[2] (2021)京0115行初100号、(2020)粤02行終196号、(2022)滬02行終284号。
[3] (2023) 滬03行終119号、(2022)京0105行初11号。
[4] (2019)京0108行初1045号。
[5] (2016)粤7101行初866号、(2021)湘09行終6号。
[6] (2018)晋1024行初17号、(2020)川15行終295号。
[7] (2017)京02行終630号、(2015)深中法行終字第159号。
[8] (2014)麗行初字第5号、(2015)深中法行終字第187号、(2020)遼02行終443号、(2020)粤06行終421号、(2020)陝71行終827号。
[9] (2019)蘇04行終318号、(2020)蘇05行終587号。
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