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ヒト遺伝資源の法的背景とコンプライアンスポイントについての解読

中国ビジネスレポート 法務
邱靖

邱靖

無料

2024年6月12日

はじめに

ヒト遺伝資源は一種の特殊な資源とみなされ、関連機関は中国のヒト遺伝資源を収集・保管・使用および提供する場合、行政許可の取得、届出の完了、または事前報告などの関連行政手続きを遵守しなければならない。国家がバイオセーフティ保護への取り組みを強化するにつれ、中国のヒト遺伝資源の安全に関する法的規制体系は継続的に改善され、「ヒト遺伝資源管理条例(以下「ヒト遺伝条例」という)および「ヒト遺伝資源管理条例実施細則(以下「実施細則」という)が相次いで打ち出された。関連法規は、ヒト遺伝資源の監督と管理を強化するものである。科学研究機関、医療機関、製薬企業および契約研究機関(「CRO(Contract Research Organization)」)が、国際協力、臨床研究、技術ライセンスまたは協力取引の過程において、中国のヒト遺伝資源を外部に提供することに関与する可能性があるという事実に鑑み、本稿は現行法規に基づき、ヒト遺伝資源に関連する活動を行う際のコンプライアンスポイントについて述べる。

本文

Q1: ヒト遺伝資源の定義とは?

A1: ヒト遺伝資源を構成することは、ヒト遺伝資源に関連する規制要件を適用するための前提条件の一つであり、現行規定では、ヒト遺伝資源にはヒト遺伝資源材料とヒト遺伝資源情報が含まれる。ヒト遺伝資源およびその主な意味を下表に示す。

ヒト遺伝資源

定義

ヒト遺伝資源材料

ヒトゲノムや遺伝子などの遺伝物質を含む臓器、組織、細胞などの遺伝材料を指す。

 

実務上、全血、血清、血漿、尿、糞便、血球細胞、脳脊髄液(CSF)、骨髄、骨髄塗抹標本、血液塗抹標本、組織切片等の試料がヒト遺伝資源材料を構成する。

ヒト遺伝資源情報

ヒト遺伝資源材料を用いることにより生成されるヒト遺伝子、ゲノムデータなどの情報資料を指すが、臨床データ、画像データ、タンパク質データと代謝データを含まない。

 

実務上、バイオマーカーデータや遺伝子データがヒト遺伝資源情報を構成する。

従来の法令に比べ、「実施細則」の変更点は、ヒト遺伝資源情報の範囲を細分化し制限したことにあり、臨床データ、画像データ、タンパク質データおよび代謝データなど4種類のデータタイプを中国のヒト遺伝資源情報の範囲から明確に除外した。すなわち、新法令の背景において、上記の情報を提供する際には、法に基づいて行政許可の取得、届出の完了または事前報告の完了および情報のバックアップを提供する必要がない。

Q2: ヒト遺伝資源の主な規制要件は何か。

A2: ヒト遺伝資源の行政管理要件には、主に行政許可の取得、届出の完了、および事前報告実施の3方面が含まれ、その主な内容は以下のとおりである:

行政管理要件

内容

行政許可

1. 採集行政許可;

2. 保存行政許可:ヒト遺伝資源の採集を同時に関わる場合、保存行政許可のみ申請し、採集行政許可を別途申請する必要はない;

3. 国際協力行政許可:所定の採集活動に関わる場合、中国側の医薬機関より採集行政許可の申請を行わなければならない;

4. ヒト遺伝資源材料の出国許可。

*上記の行政許可は、臨床診療、採血・供給サービス、違法犯罪の取締り、興奮剤の検測および葬儀を目的とするヒト遺伝資源の採集・保存および実施される関連活動には適用されない。

届出

所定の条件を満たす国際共同治験については、治験実施前に、使用予定のヒト遺伝資源の種類、数量およびその用途を所轄部門に届出する必要がある。

事前報告

外国側にヒト遺伝資源を提供したり利用を開放する場合は、主管部門に事前報告し、情報のバックアップを提出しなければならない。

 

以下の3つの条件を同時に満たす場合は、別途の事前報告および情報のバックアップを提出する必要はない。

1. 該当する国際科学研究協力が、規定に基づいて行政許可を取得し、または届出を完了していること;

2. 提供行為が実施過程にあり、協力双方が使用することが国際協力契約で定められていること

3. 提供の範囲が、協力によって生じたヒト遺伝資源情報に限定されていること。

注意しなければならないのは、中華人民共和国国務院令第777号により、「中華人民共和国ヒト遺伝資源管理条例」が2024年2月2日の国務院第25回常務会議で採択され、5月1日からヒト遺伝資源の管理業務は科学技術部から国家衛生健康委員会に移管された。

Q3: 外国側の範囲および外国側企業の認定は?

A3: 「生物安全法(バイオセーフティ法)」、「ヒト遺伝条例」および「実施細則」の規制の下で、外国側が中国でヒト遺伝資源に関連する活動に行うことに対する制限が比較的に多く、自身にしても取引相手方にしても、外国側に関連している場合、中国のヒト遺伝資源を利用する状況に応じて、該当する規制を遵守しなければならない。

「実施細則」において、外国側企業の定義について明確に説明されている:
● 国外組織・個人が機関の50%以上の株式、株権、議決権、財産の持分またはその他類似の権益を保有しているまたは間接的に保有している場合;外国企業の個人;
● 国外組織・個人が機関の株式、株権、議決権、財産の持分またはその他類似の権益を保有しているまたは間接的に保有している割合が50%未満であるが、その者が享受する議決権またはその他の権益が当該機関の意思決定、経営などの行為に対して支配的または重大な影響力を行使するのに十分なものである場合;
● 国外組織・個人が投資関係、契約またはその他の取り決めを通じて、当該機関の意思決定、経営などの行為に対して支配的または重要な影響力を行使するのに十分である場合;
● 法律、行政法規、規則に定めるその他の状況。

総じて、「実施細則」は主に3つの「外国側」主体について規定し、それぞれが国外組織、国外の個人、および国外組織・個人によって設立された、または実際に支配されている機関である。注意しなければならないのは、香港・マカオで設立され、内資が事実上の支配をしている機関は、中国の事業体とみなされ、「外国側」には該当しない。

Q4: 外国側がヒト遺伝資源に関連する活動を行う場合の制限は何か。

A4: 外国側が中国において、ヒト遺伝資源に関連する活動を行う場合の制限の種類には、主に禁止されている活動と制限されている活動の2つである:

種類

主体

要件

禁止されている活動

すべての外国側

中国のヒト遺伝資源を採集、保存してはならない。中国のヒト遺伝資源を国外に提供してはならない。

制限されている活動

国外組織、外国側企業

1.      中国の法律、行政法規、および国家の関連規定を遵守し、中国側の全過程および実質的な参加を保証し、法に基づいて権益の共有など、および中国側に対し全面的に開放し生成したデータやバックアップの提供などを含む。

2.      国際科学研究協力は、中国の科学研究機関、高等教育機関、医療機関、企業(以下「中国側企業」という)との協力の方法によってのみ実施することができ、法に基づいて行政許可を取得するか、または届出を行う。

すべての外国側企業

外国側がヒト遺伝資源を受領するまたは使用する前に、事前報告を行い、情報バックアップの提出手続きを行わなければならない。

Q5: 外資系製薬企業がヒト遺伝資源を管理する際のコンプライアンスポイントは?

A5: 上記の関連法規の解釈に基づいて、外資系製薬企業は以下のコンプライアンスポイントに留意しなければならない:

(一) 行政許可または届出事項
製薬企業の治験部門または医学事務部門は、CROや治験機関と治験方案について十分な意思疎通を図り、ヒト遺伝資源(材料または情報データ)の採集、保存、利用、外部提供、生体試料処理などに関与する問題を慎重に研究し、遺漏を防ぐために、承認または届出経路を的確に選択しなければならない。例えば、一部の国際共同研究プロジェクトでは、ヒト遺伝資源情報を外部に提供したり、または使用を開放したりする届出を行わずに、外国側企業のEDCシステムまたはその他データシステムを使用してヒト遺伝資源情報を記録・保存する場合、違反リスクが生じる可能性がある。

(二) 倫理審査
倫理審査の主な目的は、被験者の権益と安全を守ることであり、ヒト遺伝資源に関する倫理審査は、主に「ヒト遺伝条例」、「人に関わる生物医学研究の倫理審査弁法」、医薬品または医療機器のGCPおよび関連ガイドラインの規定に従う。製薬企業は、CROや治験機関/研究者と十分に協議した後、治験におけるヒト遺伝資源の採集、保存、利用、検測、中継輸送、破棄、外部提供の手順と標準操作手順、および各手順の責任分担を明確に規定する必要がある。一方、インフォームドコンセントにはヒト遺伝資源に関する必要な内容が含まれていることにも留意しなければならない。

(三) ヒト遺伝資源に関する契約規定
治験におけるヒト遺伝資源に関する規定は、一般的に中国側・外国側の国際協力契約、治験契約、CROサービス契約などの契約文書に関わる。製薬企業は治験方案に基づいて、ヒト遺伝資源に関する条項の妥当性、完全性、および法定要件への適合性を慎重に審査しなければならない。

終わりに

「実施細則」の正式施行に伴い、中国のヒト遺伝資源管理体系はさらに完備し、明確になり、中国および外国の製薬企業、医療機器企業、医療機関CROなどの機関は、ヒト遺伝資源に関わる国際科学研究協力および国際共同治験などのプロジェクトを実施する過程において、異なる研究開発および協力状況に応じて、ヒト遺伝資源の外部提供に関するコンプライアンスの問題に重点を置き、適切な規制要件に従いつつ、コンプライアンスを基盤とした長期的な発展を積極的に追求し、国際的な新薬市場の活性化を促進し、世界中の患者に喜ばしい知らせをもたらすべく努力する必要がある。

(作者:北京市中倫(上海)法律事務所 邱靖弁護士)

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