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ログイン2025年12月4日
概要
2025年3月17日、ビジネス環境のさらなる最適化を図り、中小企業の適法な権益を守るべく、国務院は「中小企業代金支払保障条例」(以下、「新『条例』」という)を改正し公布した。新「条例」は、2025年6月1日から正式に実施されている。本稿では、新「条例」の適用範囲など、代金支払にあたり、大手企業が新「条例」下で押さえておくべき点を整理している。
本文
2025年6月、自動車業界複数社が、仕入先への支払サイトを60日以内に統一する方針を発表したことを受けて、今般改正され実施されている新「条例」は世間の注目を集めている。実際、国務院が最初に公布した「中小企業代金支払保障条例」(以下「2020年版『条例』」という)は、すでに2020年9月1日から施行されていたが、当時は大手企業に対し、60日の支払サイトを義務付ける旨の規定はなかった。今回の新「条例」では、この点を明確にすべく、2020年版「条例」を改正している。
一、新「条例」の適用範囲
1.適用対象
新「条例」は、機関、政府系事業組織、大手企業が、貨物、工事、サービスの提供を受けるにあたり、中小企業に代金を支払う場合に適用される。なお、紙面の都合により、本稿では、大手企業が支払主体になるケースに焦点をあてて、新「条例」について押さえておくべきポイントを整理している。
2.企業規模の分類基準
新「条例」における「中小企業」とは、国務院が承認した中小企業分類基準に基づき、確定された中型企業、小型企業及び零細企業を指し、「大手企業」とは、中小企業以外の企業を指す。
企業規模の種類について、現在、主な判断基準は、「中小企業分類基準規定」「統計上の大・中・小・零細企業分類弁法(2017)」等があり、主に企業の従業員、営業収入、資産総額などの指標を踏まえて、業種別に企業規模を分類している。企業においては、国務院が設立した企業規模種類テストプラットフォームで自己診断を行うことも可能である。一方、企業の所属業種は、通常、統計部門が年度報告書のデータに基づき確定するものである。
では、親会社が大手企業のグループ企業である場合、グループ内の中小企業を、新「条例」における大手企業に対する要求に準じて管理する必要があるか?新「条例」修正案の意見募集案では、大手企業が支配する子会社は大手企業に準じて、当該規定を適用するとされていたが、新「条例」が正式に公布された時、上記規定が削除され、第十九条で大手企業は、「その100%子会社、又は「大手企業が支配する子会社」に対し、中小企業への代金支払いを遅滞なく行うよう督促しなければならない」との規定が設けられているだけである。
「準用」から「支払いを遅滞なく行うよう督促する」への表現の変更から、新「条例」第十九条に基づき、大手企業の100%子会社、又は大手企業が支配する子会社自体が、大手企業と同様に、規制対象になると解釈するには根拠に乏しいと思われるが、新「条例」第十九条が実際、どのように運用されるかについては、現在、まだ関連事例がないため、今後、各地方部門の運用方針を踏まえて判断する必要がある。
二、新「条例」の主要内容
代金支払について、新「条例」では、支払主体別に、それぞれの支払責任を明確にしている。大手企業を例にとると、主な責任には、以下のものが含まれる。
● 支払期限に関して、契約に定めがない場合、支払期限は60日を超えてはならない。契約に別途定めがある場合、業界ルール、取引慣行などを踏まえ、合理的な支払期限を定め、代金などを速やかに支払わなければならない(自動車企業は、業界ルール、取引慣行などを考慮したうえで、仕入先の支払サイトを調整したのではないかと考えられる)。
● 第三者からの入金を中小企業への支払条件とする、又は第三者からの支払進捗・比率に従い、中小企業に代金を支払う(即ち、「バックツーバック」条項)ことを定めてはならない。
● 検査・検収合格を支払条件とする場合、支払期限は、検査・検収合格日から起算すること。契約において検査・検収の期限を明確かつ合理的に定めておかなければならないなど。
● 商業手形、電子記録債権などの現金以外の手段による支払方法を受け入れるよう中小企業に強要してはならない。
● 商業手形など現金以外の手段による支払方法を利用する場合、契約で明確かつ合理的に定めておくなど。
● 争いのない部分の代金は速やかに支払うこと。
● 遅延利息に関して、契約に定めがある場合には、利率は契約締結時の1年物LPRを下回ってはならない。契約に定めがない場合には、1日あたり0.05%での遅延利息の支払いを義務付ける。
● 企業公示システムを通じて、中小企業向けの支払遅延契約数、金額を毎年公示する。
● 中小企業への代金支払を企業リスクヘッジ及びコンプライアンス管理体系に組み入れるなど。
中小企業への代金支払を遅らせた大手企業に対し、講じられる主な監督管理措置、及びそれに伴う法的責任には、主に以下のものが含まれる。
● 関連監督管理部門から質問状・事情聴取を受け、情状が重い場合、監督通達の対象とする。
● もし中小企業向けの代金支払遅延は、法に依拠し、信用失墜行為と認定された場合、信用失墜の状況は、該当当事者の信用記録に記載される。状況が重い、又は社会に重大な悪影響をもたらした場合、国家企業信用情報公示システムにて公示される可能性があり、そうなれば、財政資金支援、投資プロジェクトの審査、融資、市場参入などにおいて、制限がかかる可能性もある。
● もし企業年度報告書に、中小企業への未払い・遅延支払情報を規定に従い、公示しなかった、又は真実を隠ぺいし、虚偽行為があった場合、市場監督管理部門が法に依拠して処理する。
また、新「条例」では、中小企業は、契約締結時に、中小企業であることを自発的に告知する義務があることを明確に定めているが、大手企業に対しては確認義務を課していないため、もし中小企業が中小企業であることを自発的に告知していなかった場合、契約締結後、新「条例」に基づき遅延利息、60日の支払期限の主張又は苦情申立てなどを行うことが難しくなると考えられる。しかし、「バックツーバック」条項の効力については、新「条例」における禁止規定は、あくまで契約における「バックツーバック」条項を無効として認定するうえでの行政法規上の根拠になるものであり、その観点から、「大手企業と中小企業が第三者からの入金を支払の前提条項とした場合の効力問題に対する最高人民法院による回答」の内容(以下、「関連回答」)を盛り込んだだけであり、無効の判定についてそれ以上の要件は設けられていない。したがって、たとえ中小企業が中小企業に該当する旨の告知義務を履行していなくても、関連回答の規定に基づき、「バックツーバック」条項の無効を主張することは可能である。
三、大手企業の契約締結時の留意点
新「条例」では、支払期限、支払方法などについて、さらに厳しい要件が設けられているため、大手企業のコンプライアンス管理、資金繰りなどに一定の影響をもたらしている。したがって、大手企業においては、新「条例」を重視し、経営戦略を適時調整し、契約条項及び支払が確実に行われる仕組み体制を整え、コンプライアンス経営を確保するとともに、中小企業との良好な協力関係を維持するのが望ましいと考える。
「二、新『条例』の主要内容」における主な責任を踏まえ、大手企業が契約を締結するにあたっての要注意事項:
● 支払条件、支払方法等を総合的に考慮し、支払期限及び起算時点を慎重に評価の上、決めること。
● 現金以外の手段による支払方法(例えば、商業手形、電子記録債権など)を利用する場合、契約で明確に定めておくこと。
● 遅延利息の利率基準及び上限を明確に定めておくこと。
● 自社が中小企業であることを大手企業に告知することを仕入先の法定義務として定めておくこと。もし告知義務を履行しなかった場合、自らの権利を放棄したものとみなし、尚且つ後日主張できないこととする旨の条項を設けておくこと。
● 「バックツーバック」条項などの禁止内容を定めることは避けること(その場合、必要に応じて、「分割払い」「進捗支払い」などの方法で定めるといった対応が考えられる)。
終わりに
新「条例」の施行は、国が、中小企業の権益保護をさらに強化しようとしている姿勢の現れであり、また、その観点から、大手企業を含む支払主体に対し、より厳格なコンプライアンス管理を実施するよう求めている。現在、新「条例」に関連する実施細則が未整備ではある中、新「条例」の運用状況については、各地方部門の運用方針と実務ガイドラインを踏まえて、今後さらに判断を行う必要がある。企業の実務対応について、法的助言を行えるよう、筆者も新「条例」の施行状況を注視する。
(作者:里兆法律事務所 沙晋奕、舒辰)
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