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日系企業の中国における商事仲裁参加からみた改正「仲裁法」

中国ビジネスレポート 法務
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沈偉良

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2026年3月10日

概要

中国で新たに改正された「仲裁法」は2025年9月12日に可決され、2026年3月1日から施行される予定である。改正「仲裁法」施行後、日系企業の中国における商事仲裁活動にも影響が及ぶことが予測される。本稿では、渉外仲裁制度の最適化、仲裁機関及び仲裁人制度の最適化、仲裁に対する人民法院のサポート及び監督の強化など、改正「仲裁法」の主な改正内容を解説する。

本文

2025年9月12日、中華人民共和国第十四期全国人民代表大会常務委員会第十七回会議において、新たに改正された「中華人民共和国仲裁法」(以下、「改正『仲裁法』」という)が可決され、同法は2026年3月1日から施行されることとなった。

現行の「仲裁法」は1995年9月1日から施行され、その後2009年と2017年にそれぞれ一部改正がなされた以来、既に30年以上が経過している。改正「仲裁法」は全8章96条から成り、改正前より16条増えている。本稿では、日系企業が中国で商事仲裁に参加する観点から、改正「仲裁法」の主な改正内容について解説する。

一、 渉外仲裁制度の最適化、国際的に整合性の取れたルールの制定推進

1. 「仲裁委員会」から「仲裁機関」への呼び名の変更

改正「仲裁法」において、「仲裁委員会」は「仲裁機関」に呼び名が変更されている。この変更は、法律用語を国際仲裁の用語に合わせるとともに、中国当局の公的なイメージをなくすことで、リーガルサービス提供者としてのあるべき姿に戻し、中立性と民間性を確保しようとしていることが伺える。一方、仲裁の組織形態の多様化のニーズに適応するものでもある。「仲裁機関」という上位的な法律用語は、現在、中国において「仲裁委員会」とは別に存在する「仲裁センター」、「仲裁院」などの仲裁の組織形態が含まれるとともに、今後も多様化のニーズに対応すべく新たに発生する可能性のある他の組織形態にも対応できるようになっている。

2. 「仲裁地」制度の新設

「仲裁地」は高度な法的な概念であり、法律上、仲裁地によって、仲裁判断の国籍、仲裁の管轄裁判所、仲裁手続の準拠法、仲裁合意の有効性判断のための準拠法が確定されることになる。現行「仲裁法」は主に「仲裁機関の所在地」によって、国内仲裁と外国仲裁を区別しているが、これは「仲裁地」を軸として確定する国際的なルールとは大きく異なっている。改正「仲裁法」は渉外仲裁において仲裁地制度を導入し、国際商事仲裁の一般的なルールとの整合性を図っている。同時に、改正「仲裁法」は「当事者合意→仲裁規則の規定→仲裁機関の確定」という仲裁地の確定ルールを明確にした。

実務上、仲裁地、審問地、仲裁機関所在地は混同されやすい。仲裁地は、抽象的な法的場所であるのに対し、審問地、仲裁機関所在地は実在する場所である。これら三つの場所は完全に一致する場合もあれば、全く異なる場合もある。例えば、当事者が渉外商事紛争について上海国際仲裁センターに仲裁を申し立て、仲裁地を上海とすることに合意し、上海で審問を開催する場合、仲裁地、審問地、仲裁機関所在地はいずれも上海となる。また、他の例として、当事者が渉外商事紛争について香港国際仲裁センターに仲裁を申し立て、仲裁地をシンガポールとすることに合意し、上海で審問を開催する場合、仲裁地、審問地、仲裁機関所在地は三つの異なる場所になる。

3. 特定の渉外紛争を対象とした「特別仲裁」制度の新設

国際仲裁の理論及び実務上、仲裁には一般的に「アドホック仲裁」と「機関仲裁」の二つの形態があると考えられている。現行の「仲裁法」においては、「仲裁委員会」を中心とした、単一の仲裁モデルが構築されている。2016年以降、中国は上海、海南などの自由貿易試験区において、地方法規を通じて特別仲裁を試験的に導入している。改正「仲裁法」で新設された「特別仲裁」制度は、中国の国家レベルの法律において初めて、一種のアドホック仲裁による紛争解決メカニズムを正式に確立したものであり、中国本土でこれまで長年、採用されている単一な仲裁モデルを革新したものである。

改正「仲裁法」における「特別仲裁」制度の内容は、以下の4つの方面に体現される。
1) 適用対象となる事案範囲が限定されており、即ち、渉外海事紛争、または国務院の承認を得て設立された自由貿易試験区、海南自由貿易港、及び国が規定するその他の地域に登記された企業間で発生した渉外紛争に限られること。なお、「国が規定するその他の地域」が何を指すのかについては、さらに明確化される必要がある。
2) 書面による合意、及び仲裁地を中国とすることは必須であること。これは、当該アドホック仲裁判断の法律上の本籍地が中国となり、中国の裁判所が司法審査を行うことを意味する。
3) 選定する仲裁人は、改正「仲裁法」に定める仲裁人の資格要件を満たす者でなければならないこと。
4) アドホック仲裁廷について、届出手続きを行わなければならないこと。つまり、仲裁廷成立後3営業日以内に、当事者の名称、仲裁地、仲裁廷の構成状況、仲裁規則を仲裁協会に届け出なければならない。届出を行わなかった場合、当該アドホック仲裁判断の法的拘束力に影響するかどうかについて、改正「仲裁法」では定めていない。この点、届出は手続き上の要求であり、アドホック仲裁判断の法的拘束力に影響を与える実質的要件ではないが、規定通りに届出を行わなかった場合、裁判所が当該仲裁手続きの適法性審査を行う際の不確実性が増す可能性がある。

二、 仲裁機関及び仲裁人制度の最適化

1. 仲裁機関制度の最適化

改正「仲裁法」は、仲裁機関の性質を「公益性非営利法人」であることを明確にした。また、改正「仲裁法」は国務院に対して仲裁機関の登記管理に関する具体的な方法を制定する権限を付与し、仲裁機関の設立、変更、登記抹消の手続きに関する規定を設け、仲裁機関の内部監督を強化した。

2. 仲裁人制度の最適化

まず、改正「仲裁法」は仲裁人になれる者の範囲を拡大した。改正「仲裁法」は従来の「三八両高」の基準(即ち、法律職業資格を保有し仲裁業務に8年以上従事した者、弁護士・裁判官を8年以上務めた者、法律研究、教育に従事し、かつ高級肩書を有する者、法律知識を有し、経済貿易などの専門業務に従事し、かつ高級肩書または同等の専門水準を有する者)を微調整し、「裁判官を8年以上務めた者」を「裁判官、検察官を8年以上務めた者」に改め、さらに「海事海商、科学技術などの専門業務に従事し、かつ高級肩書または同等の専門水準を有する者」が仲裁人になることが可能である旨の規定を新たに追加した。次に、改正「仲裁法」は議長仲裁人の選定方法を追加し、当事者が各自選定した仲裁人が共同で議長仲裁人を選定することを事前に合意することを可能とした。最後に、改正「仲裁法」は仲裁人の独立性と公正性を確保するために、仲裁人の情報開示要件を新たに追加した。

三、 仲裁に対する人民法院のサポート及び監督の強化

1. 仲裁判断取消しの申請期限の短縮

改正「仲裁法」は、当事者が仲裁判断の取消しを申請する期限を6ヶ月から3ヶ月に短縮した。この調整は、判断が下された後、当事者が速やかに救済権利を行使し、それによって紛争を早期に解決し、仲裁判断の安定性を高めることを目的としている。

2. 仲裁保全及び証拠収集における裁判所の仲裁に対するサポートの強化

改正「仲裁法」は、仲裁保全の内容を財産保全、証拠保全から行為保全にまで拡大するだけでなく、仲裁前保全を追加した。つまり、緊急な場合において、当事者が仲裁を申請する前に直接人民法院に保全を申請することが可能になった。この調整により、民事訴訟法の現行規定との整合性が確保され、仲裁の全過程に対する司法上のサポートと保障が強化されている。なお、現在、中国の司法実務において、訴訟前保全の実施自体かなり難しい状況にあるため、仲裁前保全が具体的にどのように実施されるかについては、改正「仲裁法」施行後の運用状況にさらに注意を払う必要がある。

3. 証拠収集における裁判所の仲裁に対するサポートの強化

証拠調査及び収集に関して、改正「仲裁法」では、必要に応じて、仲裁廷が関係機関に対し、法に基づき協力を要請することが可能であることが明記されている。事案処理の過程において、当事者が独自に証拠を収集できないことがある。しかし、仲裁廷は裁判所のように直接「調査令状」を発することはできない。実務上、多くの仲裁機関は、協力調査依頼書または同種の性質を有する書簡を発行するという弾力的な対応策をとっているが、このような書簡を受領しても、関係機関が協力する可能性は依然として低い状況にある。ここ数年、上海、広東などでは、裁判所による仲裁の証拠調査・収集への支援を推進する(地方レベルの)司法文書注1が相次いで公布されている。しかし、これらの文書は、特定の地域のみに適用されるため、これで対応するには限界があった。改正「仲裁法」によって、法的次元から、仲裁における証拠収集の難しさという問題が解消されたことになる。

4. 外国仲裁判断の執行における司法共助の強化

現行規定では、仲裁判断の承認及び執行の管轄裁判所は、被執行者の住所地及び執行対象財産の所在地にある裁判所に限られるとしている。外国仲裁判断の承認及び執行の申請に関しては、上記二つの場所がいずれも中国国内に存在しない場合、改正「仲裁法」は、当事者が申請者の住所地または仲裁判断の対象となる紛争と適切な関連性のある場所の裁判所に申請することを認めている。これは、中国の国際商事仲裁に対する開放的かつ包容的、友好的な姿勢を示すものである。

今般の「仲裁法」改正は、国際的に整合性の取れたルールの制定を積極的に推し進めると同時に、国際仲裁に友好的な司法環境づくりに注力し、中国における仲裁の信頼性及び国際競争力の向上を図るためのものであると考えられる。

(作者:里兆法律事務所 沈偉良、王思敏)

注1:具体的には、2023年12月1日、上海市高級人民法院が公布した「調査令状の発付による仲裁の証拠調査への協力に関する弁法(試行)」、2025年6月19日、広東省高級人民法院が公布した「調査令状の発付による商事仲裁機関の証拠調査への協力に関する弁法(試行)を指す。

 

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