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機能と品質で戦うな

中国ビジネスレポート マーケティング
森辺 一樹

森辺 一樹

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2013年9月25日

 誤解を恐れず言うが、日本企業はもうそろそろ機能や品質、そして技術にしがみつくのを辞めなければならない。そんなものを振りかざしても勝てる世界はとうの昔に過ぎ去っている現実を直視すべきだ。

 世界はパラダイムシフト(その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、価値観などが劇的に変化すること。)を迎えた。アナログの時代、カセットが中心だった市場では、それを聞くためのデッキとして”ウォークマン”が市場を席巻した。その後、デジタル化の時代を迎え、CDやMDが登場し、この時代も引き続き”ウォークマン”が市場をリードした。しかし、時代は今、ICT(情報通信技術)が主となり、MP3が市場の主役に躍り出た。途端に“ウォークマン”は王者の座から引きずりおろされ、その座を奪ったのが“ipod”だ。”ipod”程度の技術や品質の製品を日本企業が作れないわけがないにも関わらず、なぜ市場は“ipod”に取って変わったのか。

 アナログやデジタルの時代、最も重要視されたのは技術であり、機能であり、品質であった。少々値段が高くても、より技術力が高いものを、より機能が多いものを、より品質が良いものを市場は好んだ。最大のマーケットであった欧米日の先進国市場は、日本企業の高い技術力と品質を大いに歓迎した。しかし、ICTの時代においては、それ以上に重要視されるものが出現した。機能や品質、技術が主役の時代から、ソフトウェアやユーザーエクスペリエンスが主役の時代に突入したのだ。これがまさにパラダイムシフトであり、“ipod”はこの時代の変化に適切に対応した製品だったのだ。
 これは決してミュージック・プレイヤーの世界だけの出来事ではない。今、様々な産業セクターで同じことが起こっている。

 時を同じくして、消費市場も先進国から新興国へとシフトした。ここでも日本企業は機能と品質、そして技術を振りかざし、マーケット争いに出遅れてしまった。そして、この期に及んでまだ技術が重要だと信じている企業は少なく無い。まるで新興国はまだまだデジタルの時代なので、技術が重要だと言わんばかりである。しかし、ICTは瞬時に海を越える。先進国で起こったパラダイムシフトは、新興国でも粗時差無く起きている。そして、新興国は、ソフトウェアやユーザーエクスペリエンスだけでは無く、チャネルやプライス、ブランドといった点での戦略も確りと組み立てなければ勝てない。これらは全て、技術以上に重要視される。

 戦後の日本を支えたのは確かに技術力であった。しかし、もう技術が主となる時代は終わったのだ。仮に技術が必要とされるとすれば、それは中国の高速鉄道事故や粉ミルク事件でも分かる通り、「安心」や「安全」のための技術のみである。日本企業が次の強みを見出すためには、まず、技術にしがみつくのを辞めなければならないと強く感じる。

(2011年7月 執筆)

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