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従業員に労災が生じた場合、使用者は精神的損害に伴う賠償責任を負うか

中国ビジネスレポート 労務・人材
邱 奇峰

邱 奇峰

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2014年8月22日

「労災保険条例」の関連規定によれば、使用者は労災保険に加入しなければならず、自社の全従業員について労災保険料を納付しなければならない。従業員に労災事故が発生した場合、使用者として、従業員に協力して労災待遇に関する保険請求を完了させなければならない。これ以外に、使用者は通常、その他の賠償責任を負う必要はない。ただし、最近広東省で出現した一つの、従業員が労災事故に遭遇した後に使用者に対し精神的損害に伴う賠償責任を負担するように求めた判例は、広く注目を集めた。

【事件の紹介】
原告は被告会社において在職中、日常業務により負傷し、労災に該当するとの認定を受け、五級の障がいが残ったと鑑定された。原告は労災保険に加入しており、その労災待遇の保険請求が完了していたが、本人は依然として裁判所に提訴し、被告会社に対し原告の精神的損害に伴う慰謝料60,000元の支払いを求めた。裁判所の審理では、被告が原告に対し安全生産に関する研修指導を行った事実を証明する証拠がなく、原告に対し相応の労働保護用品などを提供した事実を証明する証拠もないため、被告には当該人身事故が発生した過程において一定の過失が存在し、相応の過失責任を負わなければならないと判断された。原告は既に相応する労災待遇を受け取ってはいるが、それは本人が労災関連法以外のその他の法律規定に従って精神的損害に伴う慰謝料を獲得することの妨げになるものではなく、最終的に、裁判所は被告に対し原告の精神的損害に伴う慰謝料25,000元の支払いを命じた。

【筆者の観点】
精神的損害に伴う賠償とは、権利主体がその人身権益を不法に損なわれ本人が精神的苦痛または精神的損害を受けたために、権利侵害者に対し賠償を求める一つの民事法上の責任を指す。現行の「労災保険条例」の規定によれば、労災待遇項目は基本的に物的損害に伴う賠償金に該当し、精神的損害に伴う賠償金ではなく、また、「労災保険条例」には精神的損害の賠償に関する規定もない。そのため、従業員が相応の労災待遇を得た後に精神的損害に伴う賠償を求めることができるかについては、理論上、常に意見が分かれている。

筆者の見るところ、労災に伴う損害賠償は労働紛争に該当し、従業員が相応する労災待遇を享受した後に、改めて裁判所に対し民事訴訟を提起し精神的損害に伴う賠償を求めることは、理論上、矛盾していないと考える。ただし、現時点では従業員が労災事故に遭遇した後に精神的損害の賠償請求の可否について明確に規定した法令が存在しないため、今後も最高裁判所が関連司法解釈などを公布して明確にするのを待つ必要があると思われる。

なお、広東省内の使用者は重要視しなければならない。広東省高級裁判所、広東省労働人事紛争仲裁委員会が2012年6月に公布した「労働人事紛争事件の審理に伴う若干事項に関する座談会紀要」第五条では、「労働者が生産安全事故に起因して労働災害を受けまたは職業病と診断された場合、労働者またはその近しい親族が労災保険待遇を享受した後も、最高裁判所の「民事権利侵害における精神的損害の賠償責任確定に伴う若干事項に関する解釈」の規定に基づき裁判所へ使用者が精神的損害に伴う賠償責任を負担するよう訴える場合は、支持されるべきである。」としており、上述の判例も司法の実務において上記紀要が既に実施されていることを示している。このため、筆者は、広東省内の使用者は従業員の労働保護または職業危害の防護を強化し、自己の過失を避けまたは減らすことで、精神的損害に伴う賠償を負担するリスクを相応に回避しまたは低減することが望ましいと考える。なお、精神的損害に伴う賠償に関する訴訟の時効は1年であることに注意が必要である。

広東省以外のその他の地区については、現時点では相応する地方規定が存在せず、類似の司法判例も確認されていない。現在、これらの地区の裁判所は労災状況における精神的損害に伴う賠償に対し、通常、支持しない態度である。ただし、将来的に広東省の取扱方法を参照するかについては、現時点では確定しておらず、これについては、筆者も引き続き注目していく。

(里兆法律事務所が2014年6月13日付で作成)

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