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ログイン2020年10月15日
これまでの二回のコラムの中で、信用状の特徴と、信用状統一規則の概要について説明してきましたが、今回は信用状を使用した貿易取引の流れについてご説明させて頂きます。
Q 信用状を利用した輸出入取引は書類の流れが複雑で分かりづらいのですが、どの様な流れなのか、また留意点・特徴について教えて下さい。
A 以下に売買契約の締結からどの様に取引が行われるのか、取引例をご説明致します。下記は一覧払(at sight)決済を例に、全体の流れを図示しています。
解説
① 輸入者と輸出者の間で、売買契約を締結します。
② 輸入者は取引銀行に信用状の開設を依頼します。
③ ②に基づき、信用状発行銀行は信用状を発行し、通知銀行に通知します。
④ 通知銀行は、発行銀行から受領した信用状を輸出者に通知します(⇒輸出者は、受領した信用状が、①で締結した売買契約の内容と合致しているか、詳しく確認する必要あり)。
⑤ 輸出者は、信用状を受領後、商品を船積し、引き換えに船荷証券(Bill of Lading (B/L))を受領します。船会社は海上輸送を行ないます。
⑥ 輸出者は、信用状に記載してある必要書類を取りまとめ、輸出手形の買取銀行に書類を持ち込み、買取の依頼を行ないます。
⑦ 輸出手形買取銀行は、信用状の内容と持ち込まれた書類が一致しているかを確認した上で、買取を実行し、買取の代り金を輸出者に支払います(⇒輸入者が支払をする前に輸出者が資金を受領していることに留意)。
⑧ 買取銀行は、買取を行った輸出手形・B/Lおよびその他関連書類を、発行銀行に送付します。
⑨ ⑧の書類を受け取った発行銀行は、買取銀行に輸出手形代り金の支払(補償)を行ないます。
⑩ 発行銀行は、書類が到着したことを輸入者に通知し、輸入手形の決済を依頼します。
⑪ 輸入者は、輸入手形の決済に応じ、代金を支払います(⇒輸入者は、信用状発行からこの段階まで資金負担は無し)。
⑫ 発行銀行は、⑪と引き換えにB/L等の書類を輸入者に渡します(⇒輸入者が決済に応じてから発行銀行はB/Lを渡していることに留意)。
⑬ 輸入者は船会社にB/L等を呈示します。
⑭ 船会社は貨物を輸入者に引き渡します(⇒輸入者は上記で受領したB/Lを船会社に呈示して商品を受け取っている)。
*船荷証券(Bill of Lading (B/L)) 船荷証券とは、商品の船積を行なった後に船会社より引き換えに発行される受取証であり、有価証券です。この書類を呈示することにより、輸入者は船会社より商品を受領することが出来ます。 |
Q 信用状を使用した輸出入取引の主なメリット・デメリットを教えて下さい。
A これについては、輸入者・輸出者のそれぞれの視点からお話します。
(1) 輸入者
メリット |
デメリット |
● 銀行の信用力により輸出者に輸出に応じてもらえるので、代金を前払する必要がない ● 輸出側では、輸出の買取の依頼時に、買取銀行が書類の内容についてチェックするので、一定の取引の確実性を期待できる ● 銀行の信用力を利用するので、価格・決済条件に関し有利な条件を期待できる |
● 信用状開設から輸入決済まで、銀行を経由した取引となるため、書類の受領に時間を要する ● 仮に貨物の内容に問題があったとしても、信用状の内容に合致した書類が提示されれば、輸入者は決済に応じなければならない ● 送金による決済に比べて銀行に支払う手数料が高い |
(2) 輸出者
メリット |
デメリット |
● 信用状により輸入者の決済のリスクを銀行のリスクとして補完できる ● 船積してから輸入者が代金の決済を行なう前に、銀行が買取することにより資金回収を迅速に行なうことができる ● 信用状に合致した書類を買取銀行に呈示すれば、資金回収ができる |
● 銀行から信用状を受領してから船積を行ない、資金決済のための買取を依頼するため、手続きが煩雑になる ● 送金による決済に比べて、銀行に支払う手数料が高い ● 輸出の決済までの期間の金利を一部負担する必要がある |
このように、信用状を使用した輸出入取引にはメリット・デメリットがありますが、当事者は売買契約の内容、金額、手数料、決済にかかるリスクや手間等を総合的に判断して、信用状を使用した決済とするのか否かについて検討する必要があります。
信用状を使用した取引は、現在では相対的には利用割合は低くなってはいますが、取引開始の初期段階においては、輸入者の信用力を補完する意味でも利用されるケースは多いです。また、発展途上国向けの取引においては、輸入者の信用リスクを金融機関が補完する仕組みを輸出者が好む場合が多く、敢えて信用状を利用するケースが多くなっています。
Coffee Break 元銀行マンのつぶやき~ディスクレの取り扱いにはご用心!
信用状取引を行なう上で、信用状と書類との不一致、すなわちディスクレパンシー(略してディスクレ)が生じるケースがあります。これは古くて新しい課題なのですが、定期的な輸出入取引を行なう中で、いつもと全く同じ内容で信用状や書類を作成したにもかかわらず、ディスクレを指摘されるケースがあります。これが生じる理由の一つに、海外の一流銀行が事務取扱センターを自国ではなく、アジアの海外に集中しており、毎回変わるチェッカーの解釈により判断が異なることがあります。取引の内容を説明することで、解消することもあります。
輸出と輸入で立場は異なりますが、信用状の取引をする銀行については、このような事象を始め取引上問題が生じた場合、迅速かつ丁寧に対応してもらえるところを選択したいところです。
なお、次回は送金取引のメカニズムについて解説します。
本コラムは、 お客様の参考としていただくべく現在の法令や実務慣行等を勘案し正確性を期して作成していますが、その内容の正確性等について執筆者は保証するものではなく、いかなる損害賠償にも応じかねます。
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