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ロシアのウクライナへの侵攻と国際決済システムについて

国際ビジネスレポート 外為・貿易実務
甲良 親弘

甲良 親弘

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2022年3月2日

 2022年2月、ロシア軍がウクライナに軍事侵攻するという前例のない暴挙が発生してしまいました。両国間にて停戦交渉等行われているものの、今後どう推移か予断を許しません。国際社会は非難の声を上げ様々な対抗・制裁措置を打ち出しております。その中で、SWIFT(スイフト)による送金網からの排除が実施されておりますが、普段一般の方々には余り目に触れることのないこの国際的なシステムに関する取り扱いがにわかに注目されています。一方でロシアがSWIFTから排除されている間、同国独自のシステムSPSFという支払システムを使用する、または中国が持つCIPSという仕組みを使って決済する等の報道もされています。
 本日はSWIFTの特徴や役割、ロシアのSPFCや中国のCIPSという仕組みの概要を説明するとともに、SWIFTからロシアが排除される影響についてコメントさせていただきます。

1.SWIFT

 (1) 概要

 SWIFT(スイフト)とは、国際銀行間通信協会(Society of Worldwide Interbank Financial Telecommunications)のことです。日本でもそのまま「スイフト」と呼ばれることが多くなっています。スイフトはベルギー法に基づく協同組合として設立されており、加盟する金融機関によって所有されています。本社はベルギーのブリュッセル近郊のラ・フルペに所在しています。元々は銀行のみがメンバーでしたが、近年は金融情報に関する情報のやり取り全般を目指すようになり、金融機関銀行のみならず証券会社、投資顧問会社、証券決済機関、一般事業法人も加盟の対象とするなど、加盟者数は金融機関においては11,000以上、事業法人も200以上と活動領域を拡大しています。日本からは約270の金融機関等の法人が参加しています。

 (2) 提供するサービス

 スイフトは顧客送金、銀行間資金決済、外国為替決済、貿易関連、証券決済等国際的な金融取引のメッセージをやり取りしています。スイフトはあくまで金融情報のメッセージをやり取りするプラットフォームであり、決済自体を行なう機関ではありません。スイフトでやり取りされたメッセージは、認証された(authenticated)データとして取り扱われ、各金融機関等の意思を表わすものとして実際の取引・決済に使用されており、世界中を網羅した重要なインフラとなっています。
 加盟する銀行・企業等はBIC (Bank Identification Code)という各社に固有のコードをスイフトから付与されます。二者間で利用する前にRMA(Relationship Management Application)という電?をコルレス先から受け取る、コルレス先に送るためのSWIFT独?の仕組みにより認証を行った上で使用します。

 (3) 決済の仕組み

 海外に送金をする場合には、日本国内の日銀ネットワークや全銀ネットワークに相当するものがありませんので、コルレス銀行(Correspondent Bank)といわれる仲介をつかさどる銀行を経由して資金をやりとりすることとなります。例えば、下図の様なケースで米ドルを日本からアメリカに送金をしたい時は、日本の銀行がアメリカの銀行に例えばUS$10,000-送金するという連絡を行い(1.)、合わせて取引のあるコルレス銀行に対して、A銀行がコルレス銀行に有する米ドル口座から引き出しを行い(2.)、B銀行にある口座に入金する指示を行います。コルレス銀行はその連絡を受け入金手続きを行いB銀行にその旨連絡をします(3.)。


2.ロシアSPSF

 ロシアが2014年にクリミア半島に侵攻した以降、スイフトからの脱退を恐れたロシアが、スイフトの代替とすべく独自にロシア中央銀行が設立した決済情報をやりとりするシステムです。ロシア語でSistema peredachi finansovykh soobscheniy (英語ではSystem for Transfer of Financial Messages)と呼ばれており、その頭文字をとりSPFSと呼ばれています。現在ロシア国内の銀行及び法人400社が加盟しています。参加者の大半はロシア国内の銀行等ですが、2020年末現在、ロシア国外の23の銀行が参加しているといわれており、アルメニア、ベラルーシ、ドイツ、カザフスタン及びスイスの金融機関が参加しているとのことです。ロシア政府はトルコやイランとSPFS拡大に向け話を進めたり、2019年以降は中国、インド、イランとのSPFSとのリンクに合意したり、ユーラシア経済連合(参加国 ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスおよびロシア)と同国間の決済システムとSPFSのリンクを図ろうと試みている模様です。

3.中国CIPS

 中国は中国人民銀行が2015年に人民元の国際銀行間決済システム(Cross-Border Interbank Payment System; CIPS)を導入しています。中国や欧米の大手金融機関のほか、日本勢もメガバンクの中国現地法人を中心に同システムに参加しています。本システムを利用し中継銀を介さず直接人民銀と決済が可能です。現在直接参加行は75行、間接参加行は1205行(含む中国国内銀行)となっている模様です。

4.ロシアがSWIFTから排除される影響

 ロシアへのウクライナ侵攻後、米国始めEU、日本等の主要各国がスイフトからの遮断を発表しています。国により遮断される銀行は異なっていますが、スイフトによる送金や為替情報のやりとりが出来なくなるということは、国際的な取引を行う銀行及びユーザーにとり大打撃であることは間違いありません。理屈上はスイフトを利用せず他の手段にて情報をやりとりすることも可能ではありますが、手順が定まっていない中でこの手段を採ることも急には上手くいかないと考えます。一部の銀行がまだスイフトから遮断されていないとのことですが、情勢の進展が見られなければ次の手段として遮断銀行は増えると推測されます。
 決済メッセージのやりとりを、スイフト以外のロシアのSPFSや中国のCIPSを経由する方法もありますが、参加者が限定的であり、また、CIPSは人民元の決済に使用される仕組みであり、スイフトによる決済メッセージのやりとりを完全に代替することは出来ないと考えます。
 各国中央銀行はロシアが各国に保有する外貨の凍結を行ったり、国際的なカード会社・送金業者もロシア関連ビジネスを停止し始めており、その他考えられる様々な方法による経済制裁を科していく中で、その効果が上がっていくものと思われます。

執筆者 甲良親弘氏登壇セミナー 2022年4月13日、20日開催
輸出入取引におけるリスクマネジメント手法及び信用状(L/C)・保証状(Bond)の活用手法

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