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無固定期間労働契約の締結及び調整における複数問題に関して

中国ビジネスレポート 労務・人材
邱 奇峰

邱 奇峰

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2019年7月10日

「労働契約法」に定める無固定期間労働契約及び労働契約の書面変更制度が原因で、企業の人事管理では柔軟性に欠けており、企業の経営効率及び従業員への奨励に大きな影響を与えた。また実務取扱において、企業がこれらの問題を解消する方法にも限りがあり、取扱上の難点もやや多い。よって、本稿では、無固定期間労働契約の締結及び調整における複数の難題を分析し、検討する。

一、無固定期間労働契約の締結における複数問題

1.締結を強制される状況

「労働契約法」第14条によると、無固定期間労働契約の締結を強制される状況は以下の通りである。
1)従業員が会社で勤続満10年以上であり、しかも労働契約の更新を申し出たか、又は更新に同意した場合。
2)固定期間労働契約を連続して2回締結しており、且つ従業員に「労働契約法」第三十九条及び第四十条第一号、第二号規定の状況がなく、従業員が労働契約の更新を申し出たか又は更新に同意した場合。
3)会社が初めて労働契約制度を実施し、又は国有企業を再編して労働契約を新たに締結する時に、従業員が会社で勤続満10年以上、且つ法定の定年退職年齢まで残り10年未満であり、従業員が労働契約の更新を申し出たか又は更新に同意した場合。

特に注意すべき事項:
1)固定期間労働契約を連続して2回締結した後、従業員は無固定期間労働契約の更新を申し出た場合、企業には更新しないという選択権があるのか。
●北京、江蘇、広東などの全国ほとんどの地域では、従業員が固定期間労働契約を2回連続して締結し、且つ従業員に「労働契約法」第三十九条及び第四十条第一号、第二号規定の状況がない場合、従業員が労働契約の更新を申し出たか、又は更新に同意すれば、企業が従業員と無固定期間労働契約を締結しなければならず、企業には選択権はない。
●上海はこれらと違い、従業員が固定期間労働契約を2回連続して締結したとしても、企業は労働契約を更新せずに、期間満了をもって終了することを選択できる。
2)労働契約期限満了後の法定延期期間(例えば、医療期間、「三期」により延期となる場合等)を「勤続10年」に計上すべきなのか。
●上海においては、【滬高法[2009]73号】「労働契約法適用の若干問題に関する意見」第四条の規定により、法定延期はあくまでも従業員の特別な状況を配慮し、契約終了時間を相応に延長したことに過ぎず、契約を終了できないというわけではなく、当該期間を「連続10年」に計上することによって無固定期間労働契約の締結になるわけにはいかない。よって、法定の延期事由が消滅した場合、当然契約も終了することになる。
●江蘇においては、【蘇高法審委[2009]47号】「労働紛争事案審理に関する指導意見」第9条によれば、労働契約期限満了後、法定延期事由により従業員が勤続満10年となり、従業員が無固定期間労働契約の締結を申し出た場合、これを支持しなければならない。
●広東においては、【粤高法[2012]284号】「労働人事紛争事案審理の若干問題に関する広東省高級人民法院、広東省労働人事紛争仲裁委員会の座談会紀要」第18条によれば、労働契約期限満了後、法定延期事由により従業員が勤続満10年となり、従業員が無固定期間労働契約の締結を申し出た場合、これを支持しなければならない。

2.回避行為はなかなか実効がない

1)もとの労働契約期限を延長——「固定期間労働契約の2回連続締結」を回避——という対策の効果は時間的制約を受ける

例えば、「江蘇省労働契約条例」第17条では、「使用者と労働者が協議の上、労働契約期限の延長に合意し、その期間が累計して6ヶ月を超えた場合、双方は連続して労働契約を締結したとみなす」と規定している。従い、原則上、もとの労働契約期限の延長は、6ヶ月以内のみの場合、「固定期間労働契約の2回連続締結」を回避できるが、一旦6ヶ月を超えた場合は、直接「固定期間労働契約の2回連続締結」とみなされてしまう。

2)従業員と契約する時、会社名を変更したり、あるいは旧会社を抹消し新会社を設立したりして、新会社が従業員と新たに労働契約を締結するが、新会社の経営内容及び従業員の勤務場所、勤務内容に実質的な変化がない——「固定期間労働契約の2回連続締結」を回避——といった対策は、全体的にみて、否定的な態度である

江蘇では明確な規定がないものの、北京(※1)、広東(※2)における司法意見からみる限り、全体的にみて否定的な態度であり、このような回避行為を推奨しない。

3.回避のポイントは二回目の固定期間労働契約を更新するかどうかにある

上海以外のほとんどの地域では、無固定期間労働契約の締結に係る政策は非常に厳しいものであり、通常、回避行為もなかなか実効を発揮できない。例えば、よく見られる締結強制条件である「従業員が固定期間労働契約を2回連続して締結した」ことからみて、従業員との無固定期間労働契約の締結を回避するためには、「二回目の固定期間労働契約」の更新の時、従業員に対する評価を真剣に行い、「二回目の固定期間労働契約」を更新するかどうかを慎重に決めるしかない。さもなければ、「二回目の固定期間労働契約」を更新すると、ある意味では即ち、三回目以降はかならず無固定期間労働契約になってしまう。

二、無固定期間労働契約の調整(職務/報酬など)における複数問題

1.法に依拠した変更の方法

「労働契約法」第35条では「使用者と労働者が協議して合意した場合、労働契約で約定した内容を変更することができる」と規定している。また、「労働契約法」によると、双方が協議し労働契約の変更について合意することは基本的なルールである。但し、一方的な労働契約内容変更に関しては、法律上ではいくつかのケースも認められているが、かなり限られている。具体的には以下の通りである。
1)「労働契約法」第40条に基づくと、従業員が「業務に堪えない」ことを証明できた前提において、企業は従業員の職務と報酬を一方的に適切な変更を実施できる。
2)「労働契約法」第40条に基づくと、従業員が医療期間満了後、もとの持ち場に戻れない場合、企業は従業員の職務と報酬を一方的に適切な変更を実施できる。
3)企業が法に依拠して制定した規則制度では、「規律に違反した従業員に対し、降格・減給処分を実施する」旨の条項を設けた場合、従業員に係る紀律違反行為があることを証明できた前提において、従業員に対し、降格・減給を一方的に行うことができる。

なお、実務取扱において、企業は自社の労働規則制度又は双方の書面約定に基づいて従業員の職務・報酬を変更する権限があることは、司法機構(※3)も通常を認めるが、但し企業はその合理性について証明しなければならない。いわゆる合理性とは、通常、以下のものをいう。
●変更は制度又は契約に基づくものであること。
●変更前後の職務は一定の関連性があり、従業員に対する侮辱にならないこと。
●報酬に対する不利な変更ではない、又は不利な変更であっても客観的で合理的に解釈されること。

2.「職務任命」を活用し、無固定期間労働契約における職務・報酬の定期的な変更を実現する

1)職務任命の定義
●契約期限と職務任命期限を分離する。例えば、契約期限は無固定であるが職務任命期限は固定期間にし、例えば1年とする。
●個別の職務任命協議書を締結し、任命期限、考課要求及び考課方法、考課要求に達成しない時企業が引き続き任命せず、従業員の職務・報酬を変更することができる旨を明記する。
●職務任命の実施対象となる従業員は考課で要求に達成していない場合、職務任命期間満了後、企業は従業員の職務・報酬を変更することができる。

2)職務任命の法律根拠
●双方が協議の上合意した場合、労働契約を変更することができるので、職務任命協議書の締結は、双方の事前の合意とみなされる。
●「労働契約法」第40条では、従業員が「業務に堪えない」ことを証明できた前提において、企業は一方的に従業員の職務と報酬を適切に変更することができるとされている。従い、職務任命協議書では、「考課要求の未達成」が「業務に堪えない」ことに該当すると明記しておけば、「労働契約法」第40条の規定に従い、一方的に職務と報酬を変更することができる。

3)職務任命の実施
●職務任命の実施対象を選定し、通常は管理職とする。
●任命期間、考課要求及び考課方法、考課要求に達成しない時企業が引き続き任命せず、従業員の職務・報酬を変更することができるなどの内容を明記した職務任命協議書を締結する。
●職務任命の実施及び履行の過程において、考課の要求を踏まえ、各方面において考課のための証拠をを集めることで、必要に応じて、考課に使用する。
●考課の結果によって、任命を継続するか、又は職務・報酬を変更するかを決める。

(里兆法律事務所が2018年7月16日付で作成)

(※1)「北京市高級人民法院、北京市労働紛争仲裁委員会による労働紛争事案の法律適用問題に関する討論会議事録(二)」
37、使用者には無固定期間労働契約の締結及び勤続年数の連続計算を回避する状況がある場合、どのように処理するのか?
使用者は「労働契約法」第十四条に規定する以下の行為を回避する場合、労働者が締結した固定期間労働契約及び勤続年数の回数をなおも連続して計算しなければならない。
(一)労働者の勤務年数を少なめに計算するために、労働者との労働契約を解除又は終了してから労働契約を新たに締結するように労働者を強制する。
(二)関連会社を設立することによって、労働者と契約する都度使用者名称を替える。
(三)労働契約の終了期間のみを変更し、使用者が合理的に解釈することができない。
(四)旧組織を抹消し新組織を設立するという方法により、改めて労働者を新組織へ招へいし、且つ組織の経営内容及び労働者の勤務場所、勤務内容のいずれも実質的な変化がない場合。
(五)その他誠実と公平原則に著しく反する回避行為。

(※2)「労働紛争調停仲裁法、労働契約法の適用に伴う若干問題に関する広東省高級人民法院、広東省労働紛争仲裁委員会による指導意見」
第二十二条 使用者が「労働契約法」第十四条に定める以下の行為を悪意に回避する場合、無効行為と認定するものとし、労働者の勤務年数及び締結した固定期間労働契約の回数を連続して計算しなければならない。
(一)労働者の「勤務年数をゼロにする」ために、労働者を辞職させてから、労働契約を新たに締結することを強制する。
(二)関連企業を設立することによって、労働者と契約する都度使用者名称を替える。
(三)不法な労務派遣を通じる。
(四)その他誠実・公平原則に著しく反する回避行為。
「労働契約法」実施前、使用者は本業と副業の徹底した分離、副業の所有制改革、劣位企業の閉鎖撤退、及び余剰人員の手配などに関する国又は省の規定に基づき、労働契約解除手続を行い、かつ法により経済補償金を支払っている場合、勤務年数は連続して計算しない。

(※3) 例:
「当面のマクロ経済情勢において労働紛争事案を適切に審理することに関する江蘇省高級人民法院による指導意見」
二、(二)労働契約紛争事案を適切に審理し、公平、誠実な労働力市場の秩序を構築、維持することに力を入れ、労使関係の調和を図る。
3、労働契約の変更により引き起こされたトラブルを審理するにあたり、労働者の生存権を十分に守ることを堅持する前提において、法により使用者の雇用自主権を守る必要がある。使用者はその労働規則制度又は双方の書面約定に従い労働者の勤務内容及び賃金報酬を変更することができる。紛争が生じた場合、使用者は労働者の勤務内容及び賃金報酬を変更した適法性及び合理性について証明責任を負う。
「広東省高級人民法院、広東省労働人事紛争仲裁委員会による労働人事紛争事案の審理の若干問題に関する座談会紀要」
22、使用者が労働者の持ち場を変更するとき、以下の状況に該当した場合、使用者が雇用自主権を適法に行使したとみなす。労働者は使用者がみだりにその持ち場を変更したことを理由に、労働契約の解除を要求し、使用者に対して経済補償金の支払を請求する場合、これを支持しない。
(一)労働者の持ち場を変更したことは、使用者の生産・経営上の必要のためである。
(二)持ち場を変更した後、労働者の賃金水準ともとの持ち場と基本的に等しい。
(三)侮辱的、懲罰的なものではない。
(四)その他法律法規に違反する状況はない。
使用者が労働者の持ち場を変更し、かつ前項に定める情況に該当せずに、労働者が一年を超えても異議を明確的に申し入れていないが、その後、「労働契約法」第三十八条第一項第(一)号に基づいて、労働契約の解除を要求し、使用者に対して経済補償金の支払を要求する場合、これを支持しない。

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