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ログイン2011年6月1日
筆者が中国で生活し、旅行などに行って気付いたのは、中国にはトイレ屋という職業がある、ということです。今回は、中国で出会ったトイレ屋の人たちとそのたくましさについての現場体験記です。
初めて筆者がトイレ屋という職業に気付いたのは、新疆ウイグル自治区トルファンを旅していたときのことでした。トイレ屋は少数民族の居住地域だけでなく、たとえば、世界遺産である山西省にある平遥古城などの他の漢族の居住地域でも同様にあります。今回は、トイレ屋商売とそのたくましさについての現場体験記です。
1.トイレ屋
(1)トルファンのトイレ屋
ウルムチ・トルファン・敦煌を何度もエンストを起こしそうになるおんぼろ車とシルクロード鉄道で回る旅に出ていたときのことです。
トルファンは新疆ウイグル自治区にあるイスラム色の強い町です。日本人には西遊記に登場する火焔山の舞台、と言った方が分かりやすいかも知れません。
筆者はカレーズ(中国語では、坎児井kanrjingと言いますが、現地のウイグル族の発音は少々違います)見学に行っていました。カレーズとは砂漠地域の下にある地下水・オアシスのことです。筆者は、学生時代には、この地下水のことを地理の授業で、「カナート」として勉強していましたので、「カナート」と言った方が分かりやすいかも知れません。カレーズとはペルシャ語でウイグル現地の言葉であり、カナートとはアラビア語のようです。
観光客に慣れたカレーズ民族園で、民族衣装を着て商売をしていたウイグル族に手を捕まれ離されないという強引な客引きに筆者は遭っていました。筆者が、その客引きを強引に断り、「小気xiaoqi」(「けち」という意味)と罵られながら外へ出てきたときのことです(「小気xiaoqi」とは、日本人を貶すときの典型的な言葉)。
気前の良い、日本から来た観光客と異なり、「お前は中国人か?」と国籍は中国人であるはずのウイグル族から言われていた筆者、見た目が新疆の少数民族のようで、漢族から新疆人と言われていた友人(日本人)と典型的日本人社長のような見た目の友人の3人組は、日本人社長に付いて来た漢族と新疆人のように思われていたのかも知れません。
タイヤがパンクしたとのことで、筆者たちが起用していたウイグル族である運転手は、筆者たちがカレーズ見学をしている間にタイヤ修理に向かっており、まだ戻って来ていませんでした。そこで、筆者が、駐車場の目の前にあるトイレに入り、出てきたときの話です。
出てきたところで、筆者は1元を要求されました。よく見れば、そこはお土産物屋が経営しているトイレ屋であり、利用料1元(約12円)と書かれ、トイレの入り口には管理人室のようなものがあるところでした。このような民間のトイレ屋の他に、公共のトイレと思しき場所にもなぜか管理人室があり、トイレ掃除をしながら、トイレ利用料を徴収している家族がいる場所が中国には多くあります。
観光客にお土産物を売るかたわら、トイレも貸しお金を徴収するというたくましい商売魂です。
(2)山西省のトイレ屋
山西省にある世界遺産である平遥古城や以前は山西省屈指の商業資本家の私邸で、現在は民俗博物館となっている喬家大院にも、民間のトイレ屋がありました。そこでは、自分の家にあるトイレを大きく作り、利用料(競争相手のあるトイレは、5角程度=約6円)を払う客に使わせているところでした(ただし商売上手なため、中国人か外国人か、また、中国語が話せるか否か等で、値段を変えてきます)。無料のトイレに比べて、多少はきれいだと言えるところが多いように感じました。
このように観光客相手のトイレ屋が観光地には多くありました。
2.たくましさ
(1)北京のトイレ屋家族
数多くあるトイレ屋の中でも筆者の印象に最も残っているのが、当時筆者が住んでいた北京のマンション近くにあるトイレ屋です。当然、観光地ではなく、どちらかと言えば、居住地域・オフィス街と言える場所に存在しているトイレでした。
そこの近くには地下鉄の駅があるため、徒歩が好きな筆者は頻繁に前を歩いて通っていたのですが、トイレの横で洗濯物がいつも干されていることに気付きました。そこはタクシー運転手の休憩所代わりにもなっている普通のトイレだったのですが、管理人室の中に父親・母親・小学校低学年ぐらいの女の子の3人が住んでいたのです。
管理人室のドアが開けられているときには、管理人室の中が丸見えだったのですが、布団が敷かれていた他、生活用品が置かれ、生活臭がしていました。
この女の子はいつもそこで遊んでいたり、トイレ掃除をしていたりしており、推測するに小学校にも行っていないようにも思われました。
(2)小中学校への入学
中国では、その地域の小中学校に入学するには、その地域の戸籍保有者である必要があります。北京の小中学校に入学するには、北京の戸籍を保有することが必要です。
たとえば、農村戸籍保有者が北京に、長期にわたり住んでいたとしても、その子女は通常、北京の小中学校には入学できません。もし、北京の小中学校に入学したい場合には、高額の助成金(寄付金)を支払う必要があるのです。
日本でも有名私立小中学校に入学すれば、在学中多くの寄付を求められることもあるようですが、それは自己(家族)の自由意思により、公立やそのような制度のない私立を選択していないに過ぎず、中国における事情とは全く異なります。中国では当該都市の小中学校に普通に進学することすら、農村戸籍保有者の子女には認められてはいないのです。
(3)たくましさ
筆者はこの家族から、少なくとも現在の日本人にはないたくましさを感じ取りました。女の子はいつも明るく遊んだり、トイレ掃除をしたりしており、タクシー運転手のアイドルのようでした。
通りを挟んだ目の前は、アメリカ系やドイツ系の高級ホテル、その他高級デパートなどがあり、近くには日系企業が多く入っているビルもある場所で、このようにたくましく生活をしていたのです。
北京は中国の首都です。しかし、北京の戸籍を有しない農村から出てきた人には、社会保険・居住関係・就職・学校入学等様々な点で、大きな制約があります(詳細は、「奥北CIAの中国現場実務Q&A Vol.12 戸籍制度」をご参照ください)。
発展していく中国の中で、貧富の差は極端に大きく、格差社会と言われることも多い昨今の日本と比べても、その貧富の差は、日本の比ではないものがあります。その中で、人のせいにすることもなく、政府に頼ることもできず、全て自己責任でたくましく生きる家族がいるのが現在の中国です。中国の強烈なパワーを感じ取る経験でした。
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