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【コラム】中国現場体験記(60) 発票を利用した不正いろいろ

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2013年1月23日

中国で利用されている発票とは、請求書の性質も有した領収証のことを指します。
今回は、中国人の発票の利用方法と彼らの金銭感覚について紹介します。

なお、以下に記載する事案に類似したことは、コンプライアンス研修が盛んな日本の企業内においても耳にすることがありますので、是非参考にして下さい。

1.接待費枠
筆者が接待側として、北京の飲食店での会食に参加した時の話です。そのときの接待費枠を仮に2,000人民元としておきます。
席に着くと、早々に服務員(ウェートレス)から聞かれました。
「今日の接待費はいくら?」
 その日のコース料理はいくらのものにするか、ということを聞いているのではありません。いくら会社からお金を引っ張り出せるのか、という趣旨で聞いてきたのです。このようにお金のことをずばり聞かれるのは中国では珍しいことではありません。中国人従業員は日常的に、各自の給与明細を見せ合い、「誰が多い。それはどうしてか?」等々話し合っているほどです。
  
少々、「露骨だな」とは思ったものの、筆者は正直に答えました。
「最大に使っても、2,000人民元。それ以上だと、自費だよ」
 すると、その中国人服務員からこう言われたのです。
「1,500人民元だけ使えばいいよ。2,000人民元分の発票を渡すから」
 実際に使う金は1,500人民元であるものの、会社には2,000人民元を請求し、差額の500元を山分けしようという誘いでした。もちろん、即座に断りました。
「日本人の多くはそういうことを言うと嫌うと思うよ。そもそも、私の職種を考えてよ」
「あなた、馬鹿ね!」
「・・・・・」

2.発票収集
中国人の中には発票を収集している人が少なからずいます。切手収集家のようなコレクターという意味ではありません。
「その発票くれない?」
 筆者も中国において、しばしば言われてきました。彼らの意図は、それら発票を根拠として会社に経費を請求するためでした。特にタクシー代、食事代などの発票を収集していました。

 また、筆者がよく利用していたカルフール(フランス系のスーパーマーケット)の前では、老婆たちが客に声を掛け、買い物をした際に受け取った発票をせがんでいました。その目的は、発票に付いているスクラッチクジだと思われます。筆者も、発票をもらうとすぐコインで擦っていました。もしかすると別の目的もあったのかも知れませんが、食料品や日用品の発票(レシート)をもらって、老婆たちが何に使おうとしていたのかは不明のままです。

3.発票の品定め
中国の路上では、発票の束を持った男性と、それを品定めしている客の組み合わせをしばしば見かけます。何の“品定め”なのかは詳細不明だったものの、金額、日付、項目(食費、娯楽、体育等々)などを見繕うことによって、自分にあった発票を選んでいるのではないか、と推測しています。

4.タクシー運転手も
 山東省にある泰山に行った時の話です。泰山は世界遺産であり、封禅の儀式が行われる山として名高く、道教の聖地である五つの山(=五岳)の中でも最も有名な山です。中国人であれば死ぬまでに一度は登りたいと憧れる聖山です。日本人にとっての富士山のような存在かも知れません。

 このときは時間を節約すべく、北京からは列車で向かわず、最寄りの済南空港まで飛行機を使いました。夕方の便で出発したものの、離陸が遅れたため、済南空港到着時には最終バスもなくなっていました。目の前にはお約束通り、白タク化しているタクシー運転手たちが待ち構えていました。値段などすべてが交渉により決まる方式です。
 筆者は、旅行代理店の中国人従業員に電話を掛け、済南空港から泰山の最寄りのホテルまでの所要時間と大体のタクシー代を聞いていました。目安として聞いていた額よりもはるかに多額を吹っかけてくるタクシー運転手と激しい交渉を行ったにもかかわらず、どうにも埒が明かなかったことからタクシーメーターを倒してもらったうえで、その額を支払うこととしました。
  
タクシーは一路、泰山に向けて走り始めました。高速道路をしばらく走るとタクシーは右に曲がっていく道と真っ直ぐに行く道との分岐点にある安全地帯に止まりました。どうしたのかといぶかりながら待っていると、後ろから来た別のタクシーが横に止まり窓が開きました。すると、隣のタクシー運転手が発票の束を渡してきたのです。特に運転手が電話を掛けた様子もなかったので、一体どこから現れたのか不思議でいっぱいでした。

 タクシーは迷いに迷い、ようやく泰山近辺のホテル前に到着しました。すると、このタクシー運転手は必死になってまくし立ててきたのです。
「金を多めにくれ!どうせ後で会社に請求できるのだろう?こちらも多めに発票を渡してあげるから」
  
もちろん即座に断りました。このときは休日を利用した個人旅行であり、そもそも会社に請求できる筋合いのものではありませんでしたが、それでもこういうことを言われたのです。中国では個人旅行まで、出張旅費として会社に請求するという実態が垣間見えるような経験でした。

5.中国人の感覚と日本人の感覚
言わずもがなですが、筆者はすべての中国人がこういう不正をしている、と言っているわけではありません。中国では発票という独自の書類を利用した不正がある、という事例の紹介に過ぎません。そもそも、似通った事案は日本企業でもあり、日本企業や日本人のみが誠実だというわけではありません。中国ほどではないにしても、五十歩百歩の部分があるのは確かです。

しかしながら、筆者に発票を利用した不正を持ちかけてきた多くの人には、罪の意識や後ろめたい気持ちがほとんど見受けられなかったことも事実です。

「あなたは馬鹿だ!会社の金は引き出せるだけ引き出すのが当然の権利だ!」
筆者が断ったとき言われた忘れられない言葉です。

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