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人事労務は経営者の仕事:現地法人の人事制度が『ゾンビ化』していませんか。

中国ビジネスレポート コラム
小島 庄司

小島 庄司

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2014年4月25日

コラム概要

人事制度の存在意義は「人と組織の成長と通じて事業発展に貢献すること」。この目的を見失ったまま、手間暇掛けて維持・運営し続ける制度は『ゾンビ化』しています。就業規則と並ぶ人事労務の必須ツール=人事制度の役割と制度づくりの観点を理解して、制度を蘇らせてください。
【2,654字】

マレーシア機の事件(事故)や韓国船の事故など、アジアで痛ましい話が続きました。海外に住んで仕事をしていると国際線を使った移動は避けられませんので、報道には現実感があり他人事とは思えません。せめて、こういう事故を機に少しでも安全対策が向上することを願っています。

このマレーシア機事件で『ゾンビプレーン』という言葉が注目を集めました。操縦者不在で飛び続ける状態を指すそうです。ゾンビの意味を考えれば心が痛みますが、それだけシビアな状態だということを示してもいます。

もともとゾンビとは恐怖映画などに出てくる、死んでいるはずなのに自己意思もなく歩き回る存在。転じて、事実上倒産している状態なのに借金などによって生き残ってしまっている企業を『ゾンビ企業』と言ったりします。

実は、現地法人の人事制度にもゾンビはたくさん存在します。

・日本本社の制度を持ってきて導入したが、現地の実情にあわないので活用していない。
・人事制度はあるが、制度通りに運用すると経営者の感覚とズレが生じるため、鉛筆を舐めて調整している。
・何年も前に外部に頼んで人事制度をつくったが、事業環境や組織の変化で実情と乖離したため置いてある。
・いちおう運用しているが、人事制度が社員の成長を促すなんてことはないねぇ。

これら、実は全部『ゾンビ制度』です。人事制度の存在意義は、「人と組織の成長を通じて事業発展に貢献すること」。この機能が発揮できなくなったのに、手間暇かけて制度を運用しているとしたら、口は悪いですが、まさにゾンビ状態。運用に割く経営者、管理者、人事部門の労力がもったいないです。

●人事制度は、就業規則と並ぶ組織づくりの二大ツール

前回、就業規則は中国の労務管理の必須ツールであり、これがないと話にならないと書きました。人事制度は、これと並び人事管理の必須ツールです。

2007年までの中国では、正直なところ就業規則も人事制度もほとんど不要でした。つまりツールを駆使しなくても組織を管理でき、事業で収益を上げることができたのです。社員に問題があればいつでもクビにできましたし、労務派遣を使うことで業務の繁閑に応じいつでも作業者を増減することができました。最低賃金の上昇はごく小幅だったためコストは抑制できていて、募集をかければ1000人近い応募者が門前に列をなすような時代だったのです。

その後、労働契約法や労働仲裁に関わる法律の整備などで労務問題に火がつき、就業規則の活用が焦点となりました。

一年ごとの固定契約で毎年打ち切りが可能だった労働契約は、無固定期限化により終了という選択肢が消滅。都市化と情報化で自己意識の高まった社員たちが待遇改善を求めてストライキやサボタージュを起こす。以前と違い労働者の矛先転化を恐れる政府は会社側の主張を支持してくれない。細心の注意と手順を踏まなければ問題社員を辞めさせることができず、逆に訴えられて高額の賠償金支払いを命じられる。派遣社員といえども、通知一つで来月から大幅増減することは難しい……という時代に突入したのです。

そして、コスト上昇や競争激化、多くの現地法人が設立から10年を迎えて『組織の老化』が進んでいることを受けて、人事制度の活用が焦点となり始めています。

2000年代半ばから『大昇給時代』に入り、社会保険や残業基数なども含めて人件費が大幅上昇。外資が優位に立てた時代が終わり国内企業も交えた市場・人材獲得競争が激化、生産性向上や人材確保の抜本的対策が必要。業績伸張速度が鈍る中で優秀な人材を処遇するためには、健全な新陳代謝の促進が不可避……という時代に入ろうとしています。

なお、私の感覚ですが、ASEANではまだ中国ほど労務管理が重要ではありません。これは国民気質や国の政策の違いによるところが大きいように思います。しかし、都市化や情報化が進み、労働者の自己意識が高まれば必ず同じ道を辿ります。中国で手を焼いた課題は、間もなく他の国でも目の前に現れます(インドネシアの昇給ストなどはすでに現出。腰を据えて環境づくりをやらないと、あれを克服するのは厳しいですよね……)。

一方、人事制度を活用した人事管理はASEANでもすでに必要です。特に、組織の保守化や新陳代謝の阻害など『組織の老化』が顕在化してきている経営10年超の現地法人では不可欠。10年、20年と同じ商売を同じやり方で続けて利益を出せる企業はまず存在せず、継続的な自己変革と、新たな挑戦によって事業利益を確保し続ける必要がありますが、これは仕組みを使って意図して『組織の新陳代謝と活性化』を仕掛け続けない限り困難だからです。

●性悪説の就業規則、性善説の人事制度

いざと言うとき、社員を解雇したり毅然と処分したりするためのツールが就業規則。言葉を換えれば、「社員として置いておけるかを峻別する」ために使うのが就業規則だとすると、人事制度は、「社員として迎えた以上、すべての社員の成長を刺激し支援する」ための環境づくりに使います。ですから、就業規則で社員のやる気を刺激したり、人事制度で社員の処罰や反省を行ったりするのは、間違いではありませんが、あまり効果的な方法とは言えません。

それぞれの役割が異なるため、整備の観点も異なります。どんな人もいるし、どんな言動も起こり得る。それでも毅然と対応して会社と社員全体の利益を守るために性悪説でつくるのが就業規則。能力や成長速度は千差万別、1を聞いて10を知る社員もいれば10を聞いて1を学ぶ社員もいるけれど、学ぶことのできない人間は存在しない。社員と組織の成長のために性善説でつくるのが人事制度。正反対の観点が必要になります。

さて、今回のテーマは人事制度に対する問題提起でした。

皆さんの現地法人では、上記のような狙いや観点で人事制度を運用していますか。評価時に評価者から面倒だと不満が上がったり、給与改訂時に経営者から溜め息が上がったり、役職と処遇に見合う自覚もアウトプットもない幹部を前に腹が立ったりしていませんか。少なくとも、制度の維持と運用にかけている手間や時間はペイしていますか。

制度があるから運用しているけれど、人事制度で社員の意欲が上がったり、組織が成長したりすることなんて、まぁ難しいよね……というのであれば、その制度は残念ながらゾンビ化しています。担当者が一人で運用するならまだしも、人事制度の運用には経営者・管理者・人事部門の手間と時間が掛かります。

どうせ運用するなら目的に焦点をあわせて。制度を蘇らせましょう。

ではまた次回!

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