先頃、多くの企業から、外商投資企業の子会社、支社、事務所などの拠点形態の選択に関する問合せを受けた。また一部の企業は、支社、事務所と駐在員事務所を混淆しやすい。以下、筆者は中国法の規定に基づき、これまでの実務取扱経験を踏まえ、この4つの拠点形態について、全面的で簡潔に(紙面の限り)比較し、分析を行い、外商投資企業または外国企業の参考に供する。
機構の性質/経営範囲
拠点形態
機構の性質
経営範囲
子会社
中国法人
●子会社の営業許可証に記載する。
支社
中国法人の分支機構
●原則上、経営的支社は、本社の経営範囲を超えない業務を行うことができ、非経営的支社は、本社の経営範囲内の連絡、コンサルティングなどの業務を取り扱うことができる。
●ご注意頂きたいこととしては、省(区、市)を跨いて支社を設立する場合、実務取扱においては、一部の地方政府部門は地方税収の増額などを実現するために、現地で経営的支社を設立することを求め、非経営的支社の設立を喜ばない、ひいては一定の障碍を設ける可能性がある。
事務所
中国法人の分支機構
●中国法人の経営範囲内の連絡、コンサルティングなどの業務を取り扱うことができる。
●営利的活動を取り扱うことができない。
駐在員事務所
外国法人の分支機構
●外国企業の製品または役務に関連する市場調査、展示、宣伝活動、および外国企業製品の販売、役務提供、国内仕入、国内投資に関する連絡活動を取り扱うことができる。
●営利的活動を取り扱うことができない。
備考:
事務所または駐在員事務所が営利的活動に従事する場合、違法所得を没収し、営利的活動の従事を目的として使用された財物を没収し、過料に処する可能性がある。情状が重大である場合、外国企業駐在員事務所登記証(駐在員事務所)を取り上げられるなどの行政処罰を受ける恐れもある。
独立した法人格に関する事項
拠点形態
独立した法人格を有するかどうか
独立した法人格に関する事項
子会社
○
●自己の名義にて提訴、応訴することができるかどうか:○
●独立して対外的に責任を負うことができるかどうか:○
支社
×
●自己の名義にて提訴、応訴することができるかどうか:○(独立した法人格を有していないが)
●独立して対外的に責任を負うことができるかどうか:?(本社が負担する。勿論、支社がまず責任を負うことができれば、不足の部分については、本社が連帯責任を負う)
事務所
×
●自己の名義にて提訴、応訴することができるかどうか:×
●独立して対外的に責任を負うことができるかどうか:×(中国法人が負担する)
駐在員事務所
×
●自己の名義にて提訴、応訴することができるかどうか:×
●独立して対外的に責任を負うことができるかどうか:×(外国法人が負担する)
備考:
「○」は、「その通り」、「できる」、「ある」などの肯定的な意味であり、「×」は、「そうではない」、「できない」、「ない」などの否定的な意味である。以下同じ。
設立/変更/抹消/年度検査手続きの概要
拠点形態
設立/変更/抹消/年度検査
子会社
●設立/変更/抹消:通常、関連部門(商務部門など)の事前審査許可が必要であり、工商部門登記手続きを行い、営業許可証を取得/抹消しなければならない。
●年度検査を受ける必要あるかどうか:○
支社
●設立/変更/抹消:通常、関連部門による事前審査許可が必要ではない(制限類投資プロジェクトを除く)。工商部門登記手続きを行い、営業許可証を取得/抹消する必要がある。
●年度検査を受ける必要あるかどうか:○
事務所
●設立/変更/抹消:関連部門による事前審査許可を必要としない。工商部門登記手続きを行う必要はなく、営業許可証を取得することができないし、取得する必要もない。
●年度検査を受ける必要あるかどうか:×
駐在員事務所
●設立/変更/抹消:通常、関連部門による事前審査許可が必要ではない。工商部門登記手続きを行い、外国企業駐在員事務所登記証を取得/抹消する必要がある。
●年度検査を受ける必要あるかどうか:×(年度検査を受ける必要がないが、工商部門に年度報告を提出する必要がある。)
備考:
ここにいう設立、変更、抹消、年度検査の手続は、主に商務部門および工商部門の手続をいう。紙面に限りがあるため、今回は、税務、税関、外貨などのその他の部門に関する手続をまとめていない。
運営資金/執務場所の賃貸/銀行口座の開設
拠点形態
運営資金/執務場所の賃貸/銀行口座の開設
子会社
●運営資金:○(一定金額の登録資本金を払い込む必要がある。投資総額と登録資本金の差額につき、国外の株主またはその他の機構から貸付を受けることができる)
●自己の名義にて執務場所を賃貸することができるかどうか:○
●自己の名義にて銀行口座を開設することができるかどうか:○
支社
●運営資金:本社から送金する(登録資本金にかかわらない)。
自己の名義にて執務場所を賃貸することができるかどうか:○
●自己の名義にて銀行口座を開設することができるかどうか:○
事務所
●運営資金:運営資金がなく、諸費用は、本社が直接に支払う。
●自己の名義にて執務場所を賃貸することができるかどうか:?
●自己の名義にて銀行口座を開設することができるかどうか:?
駐在員事務所
●運営資金:外国法人から送金する。
●自己の名義にて執務場所を賃貸することができるかどうか:○
●自己の名義にて銀行口座を開設することができるかどうか:○
従業員雇用
拠点形態
直接に従業員を雇用することができるかどうか
労務派遣機構を通じて従業員を雇用することができるかどうか
備考
子会社
○
○
―
支社
○
○
実践において、従業員が支社で勤務するが、本社と労働契約を締結する状況もある。
事務所
×
×
中国法人が直接に従業員を雇用し、または中国法人が労務派遣機構を通じて従業員を雇用するものとする。
駐在員事務所
×
○
必ず労務派遣機構を通じて従業員を雇用しなければならない。
組織機構/対外的な代表
拠点形態
組織機構/対外的な代表
子会社
組織機構:「会社法」および三資企業法においては、明確な規定がある。原則上、株主会(株主)【中外合弁経営企業は株主会(株主)を設置しなくてもよい】、董事会(執行董事)、監事会(監事)、経営管理機構(総経理など)を設置する必要がある。
●対外的な代表:法定代表者
支社
●組織機構:法律上、明確な要求はない。実際の状況に応じて設置することができる。通常、マネジャー、財務責任者などが含まれている(その具体的な権限は本社が確定する)。
●対外的な代表:通常、「責任者」をいう。
事務所
●組織機構:法律上、明確な要求はない。実際の状況に応じて設置することができる。
●対外的な代表:通常、「責任者」をいう。
駐在員事務所
●組織機構:法律上、明確な要求はない。実際の状況に応じて設置することができる。
●対外的な代表:首席代表。
租税
拠点形態
納税義務があるかどうか
考えられ得る主な税種および納付方法
子会社
○
●企業所得税
●流通税(増値税、営業税、消費税など)
●通関申告と関税:自己の名義にて通関申告を行い、且つ関税を納付することができる。
●備考:独立法人としては、法定条件を満たす場合、係る租税優遇政策を享受できる可能性がある。独立採算と個別納税申告を行うものとし、親会社と互いに損益を補填することはできない。
支社
○
●企業所得税:やや複雑である。通常、登録地で仮納付し、年度終了後、本社が集計計算して清算を行う。本社が直接にまとめて納付することもできる。
●流通税(増値税、営業税、消費税など):やや複雑である。通常、登録地で独立納付する。本社と支社が同じ省(区、市)にある場合、税務部門の審査許可を経たうえ、本社がその登録地で増値税をまとめて納付することもできる。
●通関申告と関税:本社の名義にて通関申告を行い、且つ関税を納付するものとする。
●備考:非独立法人であり、通常、単独で係る租税優遇政策を享受することができない(外資R&Dセンターなどを除く)。非独立採算(収益と原価はいずれも本社に計上し、本社と互いに損益を補填することができる)または独立採算のいずれかの形式を採用することができる。
事務所
×
独立採算を行わない。税務登記を行わない。
駐在員事務所
○
●企業所得税:税務部門に査定された納税方式にて納付する(通常、事実に基づき申告納税する、経費の支出に基づき収入を換算する、収入総額に基づき課税所得額を査定する、という3つの課税方式がある)。
●流通税(増値税、営業税など)
●通関申告と関税:自己の名義にて通関申告を行い、且つ関税を納付することができる。
上述を踏まえ、外商投資企業の子会社、支社、事務所および駐在員事務所は、機構の性質/経営範囲、独立した法人格の関連事項、設立/変更/抹消/年度検査手続きの概要、運営資金/執務場所の賃貸/銀行口座の開設、従業員雇用、組織機構/対外的な代表、および租税などの方面において、様々な違いがあり、外商投資企業または外国企業は、実際の必要に応じて、係る拠点形態の商業目的および運営コストなどの要素を総合的に考慮し、最適な拠点形態を選択することができる。
(2012年2月6日里兆法律事務所 作成)