「会社法」[1]第十章、「法に則った外商投資企業の解散および清算作業に関する商務部弁公庁の指導意見」[2]および「外商投資企業の解散に伴う抹消登記管理関連問題に関する国家工商行政管理総局、商務部の通知」[3]などの法律規定によれば、外商投資企業は意思決定機関(董事会、株主会或いは株主大会)の決議に基づき、経営期間満了前に終了し普通清算手続に入ることが可能である。
筆者は中国法の規定、政府の実務要求に基づき、これまでの実務経験に照らし、外商投資企業の経営繰上げ終了に伴う普通清算手順について、ご参考まで以下のとおり表にまとめて簡潔に説明する(各地の手順はほぼ同じではあるが、異なる点もあり、事前に所在地の関連政府部門へ確認するのがよい)。
備考:
【内部】とは、外商投資企業内部(仲介機関への依頼を含む)で行う手続を指す。
【政府】とは、外商投資企業が各政府部門にて行う手続を指す。
【対外】とは、外商投資企業が外部の主体(他の企業、非政府部門など)に対し行う手続を指す。
1.【内部】意思決定機関の決議、清算チーム構成員の確定
・外商投資企業の意思決定機関が、実際の経営上の必要に基づいて、企業の経営を繰上げ終了する決議を行い、清算チーム構成員を確定した上、各投資者(株主)が経営の繰上げ終了に関する協議書などに署名する。
・留意点として、少なからぬ外商投資企業が清算手続の開始前に当該企業の董事、高級管理職(総経理、財務総監など)を交代させ、これにより当該人員がその他の企業で職務に就く際に不利益を被らないようにしていることである(普通清算を終えた企業の董事、高級管理職がその他の企業で職務に就く資格について、通常、中国では制約を設けていないが、その他の国、その他の地域では関連制約が存在する可能性はある。前述の任命資格の制約の他、清算企業の責任者であったことが評判にかかわることを避けるなどの配慮もあると思われる)。
2.【内部】資産および債権債務の処理、従業員の再配置
・外商投資企業(弁護士事務所、会計士事務所などの仲介機関に委託することもできる)は企業の各種資産(たとえば、在庫、固定資産、無形 資産など)の現金化(現金、銀行預金などに変える)、債権の回収ならびに債務の弁済、従業員の合理的再配置(たとえば、従業員の関連企業への移籍、経済補償金の支払いを通じた労働契約の解除など)を行う。
・留意点として、手順的には、本項作業は本表第7項の段階で完了すればよい。なお、実際によく見られるのは、企業の財務状況、労働関係を整理し、清算手続における不確定要素(たとえば債務超過などにより普通清算を行うことができなくなる、或いは集団的労使紛争が発生し清算の進行に影響が出るなど)を除くため、外商投資企業は往々にして、政府手続の開始前に当該作業を完了し、これにより以後の清算手続を速やかに完了させることができる。
・留意点として、従業員の再配置問題は、清算作業の難題の一つであり、実際には少なからぬ企業が清算を確定する半年前(時には更に前)より従業員の再配置問題について検討している。理論上では、企業は「労働契約法」[4]第44条第5項(雇用主の繰上げ解散決定)に基づき一方的に労働契約を終了することができるのだが、企業は相応する証明資料を提示しなければならない。
実務においては、ある地域の労働仲裁廷、裁判所では「意思決定機関の経営の繰上げ終了に関する決議」を当該証明と認可するが、別の地域では意思決定機関の決議は変更、取り消しが可能と判断し、商務部門の経営の繰上げ終了に同意する旨の回答書を当該証明とするように要求する所もある。
この場合、従業員の再配置問題を事前に行うことは不可能となり、より複雑なものとなる。
3.【政府】商務部門の審査許可
・外商投0資企業は商務部門の要求に基づき、各種申請資料を準備し、商務部門の審査許可後、経営の繰上げ終了に同意する旨の回答書を取得する(理論上では、遅くとも回答書発行の日より15日以内に清算チームを設置する。また、前述のとおり、実務においては、往々にして上記第1項の段階で清算チーム構成員を確定し清算チームが設置されるが、事前に清算チームを設置している場合でも、通常は回答書発行の日が清算チーム設置の日となる)。
・実務において通常は回答書発行の日を清算開始日とする。なお、現在の実務および理論においては、清算開始日の確定については異なる見解がある。回答書発行の日には不確定性が存在することにより、実務においては意思決定機関の決議において自ら清算開始日を確定する状況もある。
また、留意点として、通常では自ら確定する清算開始日は回答書発行の日より遅れることはできず、この他、清算に関する会計監査を行う会計士とも自ら確定した清算開始日について協議する必要があり、その了承を得なければならない。
4.【政府】工商部門への届出(清算チーム構成員の届出)
・外商投資企業は工商部門の要求に基づき、清算チーム構成員、清算チーム責任者名簿を工商部門へ届け出る。これらの届出の済んだ清算チーム構成員は、企業を代表して普通清算の各種作業を完了させる。
5.【対外】債権申告、清算公告
・外商投資企業は清算チーム設置の日より10日以内に既知の債権者に書面通知を行った上、60日以内に新聞全国紙或いは現地省、市の地方紙(慎重を期すため、商務部門に現地で認められるメディアを確認することが考えられる。上海地区では「文匯報」、「解放日報」が認められている)において企業清算および債権申告に関する公告を掲載する。
6.【内部】清算開始日における会計監査報告書、清算方案の作成
・外商投資企業は会計士事務所に依頼して清算開始日における外商投資企業の資産、営業状況などについて会計監査を行い、会計監査報告書を発行する。清算チームが清算方案を作成し、当該企業の意思決定機関は署名確認を行う。
7.【政府】税務登記の抹消
・通常では、本段階の作業が最も複雑と思われ、不確定要素が多い。本段階は通常三つの作業を含み、
①税務登記抹消(申請)作業、②税務現場検査(査察)作業、③税務登記抹消(発票税金清算)作業である。
・留意点として、上記三つの作業のうち、とくに税務現場検査(査察)作業において、税務機関は通常、企業の過去3年間(実状に応じて更に遡 る場合もある)の財務会計、納税状況を検査する。検査で問題があった場合、追徴課税され、場合によっては行政処罰を科せられることも考えられる。
また、実務において、一部の税務機関は当該外商投資企業の過去の税務処理の適法性の証明として、当該外商投資企業に対し 税理士事務所の発行する税務監査報告書、会計士事務所の発行する会計監査報告書を求めるものと思われる。
前述の仲介機関の報告書を取得した場合、通常、税務登記の抹消手続は支障なく行われるものと判断する。
8.【政府】税関登記の抹消
・外商投資企業は税関部門の要求に基づき、各種申請資料を準備し、輸出入における関税およびその他の税金の清算を完了する。これには保税免税業務の処理なども含まれる。
・留意点として、たとえ外商投資企業自らは税関登記を行っていなかったとしても、商務部門の発行した経営の繰上げ終了に同意する旨の回答書を持参して、現地の管轄税関へ確認申請を行わなければならない。現地の管轄税関は当該企業が税関登記を行っていないことを確認した上で、当該企業に税関事項が存在しない旨の証明書を発行する。
9.【政府】外貨登記の抹消
・外商投資企業は外貨部門の要求に基づき、各種申請資料を準備し、外国株主が清算を通じて得た資金の外貨購入・支払いの国外送金手続を完了し、外貨登記などの抹消作業を行う。
・留意点として、通常、前述第8、9項の手続は平行して進められるが、本項手続は前述第8項の手続の完了後に行わなければならない。また、本項手続の完了後、当該企業は外貨の受取り支払い手続ができなくなるため、清算所得の分配および国外送金手続は本段階で完了しなければならない。
10.【内部】清算報告書、清算終了日における会計監査報告書の作成
・外商投資企業は、資産および債権債務の処理、従業員の再配置作業を完了し、税務、税関、外貨(清算所得の分配なども含む)などの抹消手続を終えた時点で、前述作業の完了の日を清算終了日とすることができる。この場合、外商投資企業は弁護士事務所、会計士事務所などの仲介機関の協力の下、清算報告書、清算終了日における会計監査報告書を作成することが可能となる。
清算報告書、清算終了日における会計監査報告書は当該企業の意思決定機関の署名確認を得なければならない。
・留意点として、清算報告書においては従業員の再配置状況、税務および税関の処理状況、外貨処理(清算所得の分配なども含む)の状況を明記しなければならない。これらは後続手続を行う際の政府部門(商務、工商部門)の重点確認事項となる。
11.【政府】商務部門の批准証書の返上(届出)
・外商投資企業は商務部門の要求に基づき、各種申請資料を準備する。資料が全て整い次第、商務部門に批准証書を返上する。
・留意点として、本段階での提出資料の重点は清算報告書、清算終了日における会計監査報告書、税務登記抹消証明、税関登記抹消証明、外貨登記抹消証明、清算公告証明などである。
12.【政府】工商登記の抹消
・外商投資企業は工商部門の要求に基づき、各種申請資料を準備する。資料が全て整い次第、工商部門に営業許可証を返上する。
・留意点として、本段階での提出資料の重点は清算報告書、商務部門が批准証書抹消に同意した旨の文書などである。
13.【政府】各種政府登記の抹消
・工商登記の抹消後に各種政府登記の抹消手続を行うことができる。通常、本段階の手続は簡単であり、具体的には財政、統計、品質監督 (組織機構コード)、社会保険、住宅積立金、その他(たとえば、関連行政許可)の抹消手続が含まれる。また、社会保険、住宅積立金以外の各種政府登記に関する手続は、通常、現地を管轄する行政サービスセンターの各業務窓口で同時に行うことができる。
14.【対外】【内部】銀行口座(人民元口座)の解約、社印の廃棄、保管資料の保存
・開設銀行(人民元口座)にて銀行口座解約手続を行う。
・中国法の社印の廃棄、保管資料の保存の手続に関する規定は甚だ不明確であり、各地域によって異なる要求が出されるものと思われる。実務における通常の方法は、企業が自ら社印の廃棄を行い(元の印章に傷、部分破損を加え、元の完全であった社印と明確に区別する)、保存する保管資料と併せて株主、関連企業或いは資料保管機関に引渡して保管する。
15.【対外】企業終了の公告
・上記各種手続の完了後、新聞全国紙或いは現地省、市の地方紙において当該企業が終了した旨の公告を出す。
・留意点として、慎重を期すために、理論上では法律の規定に則り本項手続を行わなければならないが、本項手続は政府部門が実際に監督を行うものではないため、実際に本項手続を行わなかったとしても、通常は法的リスクがない。
外商投資企業の経営繰上げ終了に伴う普通清算の流れは、企業内部での経営方針の決定、業務処理、財務会計処理、法務処理、政府手続などを含む一つの総合的な作業である。特に労務、税務、税関、外貨手続は、通常、手順が煩雑で、多くの不確定要素を伴う。
このため、外商投資企業の経営繰上げ終了に伴う各種手続を支障なく進めるためにも、弁護士事務所、会計士事務所などの仲介機関に依頼して処理に協力させる、更には依頼した仲介機関が主導して行うことが考えられる。
[1]http://www.gov.cn/ziliao/flfg/2005-10/28/content_85478.htm
[2]http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/b/f/200808/20080805749738.html
[3]http://www.saic.gov.cn/zcfg/xzgzjgfxwj/xxb/200911/t20091116_72511.html
[4]http://www.molss.gov.cn/gb/zt/2007-09/29/content_198892.htm