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非渉外契約における国外の仲裁機関と仲裁規則の選択の可否について

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2013年11月15日

中国の「契約法」、「仲裁法」などの関連法律規定によれば、契約当事者に外国企業が含まれ、または契約にその他の渉外要素[1]が存在する状況で、契約紛争が生じた場合、当事者双方は通常、国外仲裁機関への仲裁申し立てを選択することができる。実務において、外商投資企業(性質上は中国企業に該当する)がその他の中国企業と渉外要素の存在しない契約(以下、「非渉外契約」という)を締結した場合、その外国株主、高級管理職などは、中国の司法制度、仲裁制度に対する理解不足または不信感から、紛争を国外仲裁機関に申し立て、当該国外仲裁機関が自らの仲裁規則または国際的に通用している仲裁規則(以下、「国外仲裁規則」と総称する)に基づき仲裁を行うとの取決めを契約に盛り込むように望む場合が多い。本文ではこのような状況において、契約当事者双方が国外仲裁機関および国外仲裁規則を選択することの可否について、簡潔な分析を行う。

一、非渉外契約における国外仲裁機関選択の可否について
現在、中国法は本問題について明確な規定を設けていない[2]、特に「仲裁法」では「非渉外契約において国外仲裁機関を選択する」ことを仲裁協議書が無効となる状況の一つとしていない[3]。このため、理論上では、民商法分野における「法律で禁じられていない限りは自由意志で決められる」という原則に従い、法律で禁止されていない以上、仲裁協議書が形式および内容において「仲裁法」の要求を満たしさえすれば、たとえ当該契約に渉外要素が存在しないとしても、当該仲裁協議書は合法、有効であると見なされるべきであり、契約当事者双方はそれに基づき国外仲裁機関へ仲裁を申し立てることができる。
しかしながら、実務において中国の裁判所は通常、以下の理由に基づき、この種の仲裁協議書を無効と認定する傾向がある[4]

・「仲裁法」では「非渉外契約において国外仲裁機関を選択する」ことを仲裁協議書が無効となる状況の一つとしていないが、渉外民商事法律関係と非渉外民商事法律関係の仲裁手順は、実際には分けて取り扱われている。非渉外民商事法律関係に対しては、「仲裁法」前六章の規定が適用され、渉外民商事法律関係に対しては、「仲裁法」第七章の規定が適用される。よって、非渉外の民商事法律関係に対しては、「仲裁法」第二章第十条に基づいて仲裁機関を選択しなければならない。当該条項によれば、「仲裁委員会は直轄市および省、自治区人民政府が所在する市において設立することができ、また、必要に応じてその他の区を設置した市において設立することもでき、行政区の区分レベル毎に設立するものではない。仲裁委員会は、前項で定める市の人民政府が関係部門と商会を組織して統一的に立ち上げる。仲裁委員会の設立は、省、自治区、直轄市の司法行政部門にて登記されなければならない。」と規定されている。これより、中国法は非渉外民商事法律関係における仲裁機関の選択権について中国仲裁機関の範囲のみに限定していることが分かる

・「民事訴訟法」第271条および「契約法」第128条はいずれも、渉外法律関係にある当事者だけが仲裁協議書に基づいて中国仲裁機関または国外仲裁機関に対し仲裁を申し立てることができると強調しているが、「非渉外法律関係」については類似規定を設けていない。このため、関連立法の精神は非渉外法律関係にある当事者は「その他の仲裁機関」に対し仲裁を申し立てることはできないことにある、と合理的に推断することができる。

事実、最高人民法院も以前2004年に「渉外商事海事裁判実務問題の解答(一)」を公布しており、その中の第83条では、「……渉外経済貿易、運輸、海事において生じた紛争については、当事者は締結した契約における仲裁合意または事後に合意した書面による仲裁協議書を通じて、中国仲裁機関またはその他の仲裁機関に仲裁を申し立てることができる。ただし、法律では国内当事者が渉外要素の存在しない紛争を外国の仲裁に付託することを認めていない。このため、国内当事者がその渉外要素の存在しない契約または財産権益紛争を外国仲裁機関による仲裁に付託するまたは外国で臨時仲裁を行うと取り決めた場合、人民法院は関連仲裁協議書を無効と認定しなければならない。」と規定している。当該解答は正式な効力を具備した法律規定ではないが、末端裁判所の関連事件審理への指導に対し重要な指導的価値がある。

上述の司法実践の状況に基づき、たとえ国外仲裁機関が非渉外契約当事者双方の付託した紛争を受理し、仲裁判断を下したとしても、事後に当事者の一方が当該仲裁判断を不服として、中国の裁判所に対し当該仲裁判断の取り消しまたは当該仲裁判断の不執行を申し立てた場合、中国の裁判所が当該契約は有効な仲裁協議書を具備していないとして、当該申し立てを支持する可能性も大きい。これは当該仲裁判断を執行不能にし、双方は改めて国内仲裁機関による仲裁または訴訟という手順を通じて、双方の紛争を解決しなければならず、更には、コスト、時間など多くの面で当事者に大きな損失を生じさせるものと思われる。以上から、非渉外契約については通常、国外仲裁機関を選択することは好ましくないと、筆者は考える[5]


二、非渉外契約における国外仲裁規則選択の可否について
上記の通り、中国の裁判所が非渉外契約において中国国外の仲裁機関による仲裁を選択することを支持しないというのであれば、中国国内の仲裁機関が国外の仲裁規則を適用して仲裁を行うことを認めるか否か。これについて、中国の関連法は禁じていない。実務において、中国国際経済貿易仲裁委員会(「CIETAC」)[6]、上海国際経済貿易仲裁委員会(「SHIAC」。前身はCIETAC上海分会である)[7]などを含む中国の仲裁機関は、通常、いずれも認めている。よって、非渉外契約において国外仲裁規則に基づく仲裁を選択することは、実行可能であると、筆者は考える

実務において、中国仲裁機関による国外仲裁規則に基づく仲裁を選択した場合、以下の点に留意する必要がある。

国外仲裁規則は通常、その対応する国外仲裁機関に合わせて制定されているため、中国仲裁機関が完全に適用することはできない可能性がある。例えば、「国際商会仲裁規則」(2012年)では、国際商会仲裁院の仲裁廷が仲裁判断を当事者に対し発布する前に、必ず仲裁判断書(案)を国際商会仲裁院へ提出し審査、許可を受けることを要求しており、これは中国仲裁機関の仲裁実務において、明らかに実行不能である。このような状況において、中国仲裁機関は通常、国外仲裁規則の一部、更には全ての適用を排除し、本機関の仲裁規則または当事者が別途取り決めた仲裁規則を採用するように求める[8]

国外仲裁規則の一部の規定は中国法に抵触し、それに基づいて下された仲裁判断は中国において実行不能になる可能性がある。例えば、「国際連合国際商取引法委員会の仲裁規則」(2010年改正)(「UNCITRAL規則」)によれば、仲裁廷は係争物に対し保全措置を講じることができる。ところが、中国法によれば、仲裁廷は当事者の財産保全に関する申請を人民法院に提出することができるのみであり、裁判所が保全措置を講じる。
よって、中国仲裁機関がUNCITRAL規則に基づき財産保全の決定を下した場合、当該決定は実際には実行不能となる。

中国仲裁機関の仲裁規則と比べ、国外仲裁規則を選択することはむしろ当事者にとって不利になる可能性がある。例えば、UNCITRAL規則は仲裁廷の下す仲裁判断の期限について規定を設けていないが、CIETACの定める仲裁規則では仲裁廷は仲裁廷が構成されてから6ヶ月以内に仲裁判断を下さなければならないと規定されている(国内仲裁は更に短く、4ヶ月である)。よって、CIETACの仲裁規則と比べ、UNCITRAL規則を選択することは、むしろ仲裁手順の遅延を生じやすく、当事者の速やかな紛争解決の妨げとなるおそれがある。

実際には、筆者の知るところ、中国経済および社会の発展における絶え間ない国際化に伴い、中国の比較的規模の大きな仲裁機関も徐々に国際化を進めており、その仲裁規則制定の際には、国際的に権威として認められる仲裁機関の仲裁規則を参考とすることに留意し、その先進的な部分を取り入れ、且つ自己の中国での仲裁経験に照らすことで、現地の特徴を体現している。よって、その仲裁規則は現在に至るまでにほぼ整備され、合理的なものとなっているため、国内企業(外商投資企業を含む)が中国国内で仲裁を行う際に求められる内容を基本的に満たすことができる。このような状況下で、中国国内の仲裁機関による国外仲裁規則を適用した仲裁を選択することの実質的意義はあまりない

以上をまとめると、中国の現在の司法環境では、非渉外契約における仲裁協議書について、当事者双方にある程度の自主権があるとしても、総合的に考慮すれば、当事者双方が国内仲裁機関によるその仲裁規則に基づいた仲裁を選択することが、最も確実で、有効な方法であることは疑いない。

(里兆法律事務所が2013年7月9日付で作成)

[1]最高人民法院の「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に伴う若干問題に関する意見」第304条によれは、渉外要素とは通常、以下の状況のいずれかを指す。
・当事者の一方または双方が外国人、無国籍人、外国企業または組織である。
・当事者間の民事法律関係の成立、変更、終了の法的事実が外国で発生した。
・対象物が外国にある。
[2]最高人民法院が発布した「人民法院の渉外仲裁および外国仲裁案件の処理に関する最高人民法院の若干規定(意見募集案)」において、「国内当事者が渉外要素の存在しない紛争を国外仲裁と取り決める」ことを仲裁協議書無効状況の一つとしていたが、当該規定は最終的に正式公布された司法解釈となっていない。
[3]「仲裁法」第17条 以下の状況のいずれかに該当する場合、仲裁協議書は無効である。
(一)取り決めた仲裁事項が法律で定める仲裁範囲を超えている場合。
(二)民事行為能力のない者または民事行為能力を制限された者が締結した仲裁協議書。
(三)当事者の一方が強迫により、相手方に仲裁協議書を締結させた場合。
[4]例えば、江蘇某社の仲裁判断効力確認申し立て事件において、江蘇省南通市中級人民法院は当該事件が「国内商事紛争であり、双方で取り決めた関連紛争を外国仲裁機関の仲裁に付託するという条項は法律規定に違反しているため、無効と確認されるべきである」ことを理由に、仲裁協議書無効と確認した。後に江蘇省高級人民法院は最高人民法院へ指示を仰ぎ、最終的に原審を維持した。
[5]もちろん、当事者が国外において執行に供する財産を有しており、且つ直接国外の裁判所などの機関を通じて執行可能である場合(仲裁機関の所在地と財産の所在地が一致し、または両者がいずれも関連国際条約の締結国であるなど)、たとえ中国の裁判所に異なる見解があるとしても、通常は当該仲裁判断の国外における執行に影響しない。
[6]CIETAC規則第四条第(三)項:「当事者が、紛争を仲裁委員会の仲裁に付託するが本規則の関連内容に変更を加えると取り決め、またはその他の仲裁規則を適用すると取り決めている場合、その取決めに従う。」
[7]SHIAC規則第四条第(二)項:「当事者が、紛争を本委員会の仲裁に付託するがその他の仲裁規則を適用すると取り決め、または本規則の関連内容に変更を加えると取り決めている場合、その取決めに従う。」
[8]例えば、CIETAC規則第四条第(三)項:「当事者が、紛争を仲裁委員会の仲裁に付託するが本規則の関連内容に変更を加えると取り決め、またはその他の仲裁規則を適用すると取り決めている場合、その取決めに従う。ただし、その取決めが実行不能であり、または仲裁手順適用法の強行規定に抵触する場合は除く。」

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