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債権回収リスクの予防と対応について

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2014年1月28日

債権回収(売掛金回収ともいう)は、企業の対外取引において必然的に発生する問題である。企業が商業活動を行い、その最も直接的な目的は営利である。このため、如何にして売掛金の安全および回収可能性を保障し、不良債権、貸倒金とならないようにするかは、企業の直接の利益にかかわる問題である。

債権回収は単独で存在するものではなく、リスクの予防、リスクへの対応と解決を含む一つの複雑な系統的工程である。本文では中国の現行有効な法律法規に基づき、筆者のこれまでの実務経験に照らして、債権回収リスクの予防と対応方法について簡潔に説明する。

債権回収リスクが生まれる段階
筆者のこれまでの実務経験に照らせば、債権回収リスクは主として以下の段階で生まれる。
1.    取引先の選択 ― 経済力及び信用度の低い取引先を選択した。
2.    契約交渉/締結 ― 契約における権利義務の取り決めが不明確であり、または遺漏がある。
3.    契約の履行 ― 厳格に履行せず、関連証拠の保存にも留意していない。
4.    満期代金の受け取り ― 債権管理を疎かにしており、支払督促の努力が足りない。
5.    代金の受け取り失敗 ― 危機的状況での処理方法が不適切で、債権が回収不能となる。


債権回収リスクの予防
債権回収の過程において、事前の予防が最も基本、最も重要であり、しかも最もコストが低いとも言える。多くの状況において、積極的にリスクに対応し有効に解決できるかは、債権回収リスクの事前予防が十分であったかによって決まる。一般的に、債権回収リスクの予防においては、以下の点に留意する必要がある。

1.    取引先の選択
1)    取引先の経済力信用度に対する調査と評価を行う
・取引先の基本状況、資産力を調査し、企業の成り立ち、存続の合法性、および資産、所有権の瑕疵を分析する。
・信用度の高い提携先を選ぶ。
・取引先の具体的な信用状況に基づき、支払い方式、期限および金額を確定する。
・定期的に取引先の資金動向および弁済能力を確認し、随時その契約履行能力を確認する。
2)    取引先に対する信用格付けを行い、相手方の違約リスクの大小を評価する。
・業務往来における取引先の契約履行状況を確認し、取引先の契約履行状況などに基づいて取引先信用記録を構築し、個別に支払い方法、期限、金額を設定する。

2.    担保の設定
1)    担保方式には以下のものを含むが、これらに限らない。
・手付金
・銀行保証状
・質権設定(持分、基金持分、売掛金、銀行預金証書、手形、債券、知的財産権など)
・抵当権設定(不動産、設備、車両、原材料、製品、建設中の工事など)
・所有権の留保
2)   取引先が提供する上記担保の他にも、その法定代表人、実際の支配者または関連会社が提供する保証担保、抵当権設定担保などが考えられる。

3.    契約書類の設計
契約書類の設計は債権回収リスクの予防について極めて重要な作用をもたらす。周密慎重な契約書は契約当事者双方の契約履行行為について明確な指針を示すことを可能にし、契約履行過程における不確定要素を減少させ、双方の契約履行に伴う紛争の可能性を引き下げることができる。また、各当事者の契約に基づく利益の請求においても確かな根拠を与えることになる。一般的には、以下の契約条項に留意する必要がある。

条項 実務上の留意点
1)   所有権の留保に関する条項 ・当方は対象物の所有権を、取引先が支払いを完了するまで留保するが、対象物の破損、滅失のリスクは引き渡しの時点で取引先に移転する。
2)   担保条項 ・前述の分析を参考に設定する。
3)   契約対象、品質に関する条項 ・具体的な権利義務に関する条項を明確に取り決める。明確に取り決めることができない場合は確定基準を取り決める必要がある。
・当方の最も重要視する事項(例えば支払い期日など)については、特段の取り決めを行った上で、比較的厳格な違約責任を設定する。
・当方が契約義務を完全に履行済みであることを示す証憑を速やかに取得する(例えば、商品受領書、検収報告書など)。
4)   支払い期日、方法、金額に関する条項   
5)   商品の受領、検収、異議申し立てなどに関する条項   
6)   相手方の信用度に変化が生じた場合の告知義務 ・契約履行過程において、取引先に例えば重大資産の処分、合併分割、持分譲渡などの債務履行に影響する行為が生じた場合は、速やかに告知しなければならない。
7)   違約責任、及び解約に関する条項 ・明確な違約金または損失計算の方法を設定する。
・また、重大な契約違反を契約解除条項と関連付けることを提案する。
8)   紛争解決条項 ・当方の重要視する事項に照らし、有利な紛争解決方式を選択する。例えば、仲裁は一審制であるためより手早いように見えるが、実務においては、保全、執行などの段階(通常は、やはり裁判所を通じて処理する必要がある)を総合的に考慮すれば、仲裁が必ずしも訴訟と比べて手早いとは限らない。
・訴訟方式を選択するのであれば、財産保全、訴訟、執行などの段階、および訴訟コスト(出張コストなども含むが、これに限らない)などの要素を総合的に考
慮し、相対的に当方の有利となる管轄裁判所を選択する。
9)   準拠法 ・通常は中国法を適用する。外国法を適用する場合も、広く使用されており、または当方が把握している法律をできる限り選択する。

4.    契約の履行
・契約の履行過程においては、取引先の状況変化に随時注意しなければならず、商品の出荷・発送、帳簿の照合などの管理を強化し、取引先が代金支払い能力を失う恐れがあるなどの状況が判明した場合は、直ちに不安の抗弁権を行使し、商品供給を停止した上で、書面により告知する。
・契約の履行過程においては、商品供給の証憑、検収の証憑などの保管にも留意しなければならない。

債権回収リスクへの対応
債権回収のリスクが実際に生じ、債権の実現は既に困難な状況に陥った場合、この危機を如何に対応、解決し、企業の利益を保障するかは、債権回収のもう一つの段階において解決しなければならない問題である。債権回収リスクの対応は、一般的に非訴訟/仲裁方式と訴訟/仲裁方式に分かれるが、筆者はそれぞれについて以下の通り検討する。

・非訴訟/仲裁方式

方式 実務上の留意点
協議交渉 ・最も経済的で手早い解決方法であり、訴訟/仲裁という持久戦を回避することができる。
・協議の過程においては、書面にて債権を確認し、書面にて弁済計画などを確認することに留意する。
・必要であれば、録音などの方法を通じた証拠収集に留意する。
書簡督促 ・目的は主として訴訟時効の中断、当方の論理観点の形成、部分的事実の固定などである。
・会社書簡で効果がない場合、弁護士書簡を検討することを提案する。筆者のこれまでの実務経験によれば、多くの状況で、弁護士書簡は多かれ少なかれ効果を
上げている。

留意点として、非訴訟/仲裁方式と訴訟/仲裁方式は完全に分かれたものではなく、協議交渉および書簡督促の過程においても、訴訟/仲裁方式のための準備、特に関連する証拠固めなどの作業を進める必要がある。

・訴訟/仲裁方式

要点 実務上の留意点 備考
証拠固めと保全 ・債権の確立に関する証拠(例えば、契約書、購入書、金銭借用書、債務弁済承諾書、録音録画など)、債務履行に関する証拠(例えば、商品出荷・発送証憑、発票、債務履行に関するメールのやり取りなど)、損失に関する証拠(例えば写真、鑑定結論、録音録画など)などを含む。 ・大部分の証拠は、通常、契約履行過程において収集が完了しているべきである。訴訟/仲裁段階においては、主として各証拠の関連性から漏れがないかを確認し、不足部分を補填する。
財産の確認と保全 ・保全する財産の対象は通常、次のものが含まれる。銀行口座、賃貸料、不動産(土地、建物)、設備、在庫、車両、持分、株券、債券、基金、売掛金など。
・保全前には関連資産状況について調査を行う必要がある。
 ・財産保全に関する担保については、裁判所毎に要求が異なるため、実際に問い合わせて確認することを提案する。
・保全する財産は債務者自身の財産のみに限らず、担保人の財産も可能である。
・その他の裁判所が先んじて保全および執行を行うことがないよう、速やかに保全の申し立てを行う。
訴訟時効期間 ・定期的、遅延なく催告督促を行い、債権を主張することで、時効を中断する。
・債権の主張に関する証拠を保存する。例えば、催告書簡、関連する覚書または議事録、録音録画などである。
訴訟時効を過ぎた債権に関する処理は以下の通りである。
a)    債務者が自発的に弁済するように努める。
b)    債務者と債権者が弁済に合意するように努めるなど。
取消権 取引先がその満期債権を放棄し、あるいは財産を無償譲渡し、または取引先が明らかに不合理な低価格で財産を譲渡したことが判明した場合、速やかに(関連事実を知った、または知るべき日から1年以内)取消権を主張しなければならない。
代位権 取引先が自己の満期債権の行使を怠り、当方の債権の実現に影響を及ぼす恐れがあることが判明した場合、速やかに(満期債権が2年の訴訟時効期間を過ぎることを回避する)代位権を行使する必要がある。
執行 法定期限内(法律文書の定める履行期間の最終日から起算して2年以内)において、できる限り早期に強制執行を申し立てることを提案する。 ・通常、執行の過程は長いため、適時に保全更新の申立てを行い、保全期限切れを回避する。
・法に則り被執行人の追加を試みる。
・被執行人およびその法定代表人に対する出国制限、高額消費制限、拘留などの強制措置の適用を申し立て、相手方に圧力をかける。
・被執行人の経営状況を常に把握し、相手方の逐電などが速やかに知らされなかったという状況を避ける。
・執行申立人が複数の場合は、その他の執行申立人の優先権または債権の確認、および適時の異議申し立てなどに留意する。
・相対的に複雑な執行案件については、必要に応じて、その他の執行申立人と協力、情報共有などを行う。

以上は債権回収リスクの予防と対応に関する一般的な分析であるが、実際には、個別案件の多くが往々にして特段の状況、複雑さを伴う。よって、やはり個々の案件の状況に照らし、個別の予防および対応措置を検討する必要がある。

(里兆法律事務所が2013年6月21日付で作成)

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