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施行後2年を迎えての外国人の中国社会保険加入制度の貫徹状況について

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2014年2月12日

2011年7月1日から実施された「社会保険法」第97条によれば、「外国人が中国国内で就業する場合、本法の規定を準用して社会保険に加入する」と定められている。本条項は国の法律の次元から外国人の中国社会保険加入という法律制度を初めて確立した。それでは、2年が経過し、外国人の中国社会保険加入制度は貫徹されているのであろうか。現在の立法の現状、実際の実施状況、今後予想される動向はどうであろうか。本問題について、本文では、以下の通り概要をまとめて紹介する。

立法の現状

1. 国の関連法令、政策
全国の社会保険管理作業の責を負う中央行政部門として、中国人的資源社会保障部(以下、「人社部」という)は「中国国内で就業する外国人の社会保険加入暫定弁法」を発布し、2011年10月15日から正式に施行されている。本暫定弁法は外国人の中国社会保険加入の具体的な枠組みを確定したものであり、要点は以下の通りである。

1) 中国の社会保険に加入しなければならない外国人の範囲を確定した。中国において適法に就労している外国人(例えば、法に従って「外国人就業証」、「外国専
門家証」などの就労証書を取得した非中国国籍の人員)。
2) 外国人のために中国社会保険料を納付する雇用主の範囲を確定した。法に従って外国人を採用している雇用主(中国国内で法に従って設立された企業、事業組
織、社会団体、民営非企業組織、基金会、法律事務所、会計事務所などの組織が含まれる)、および外国企業が中国において法に従って設立した分支機構、駐在
員事務所(便宜上、以下、「雇用主」と総称する)。
3) 外国人が中国の社会保険に加入する具体的な項目を確定した。法に従って中国の社会保険加入資格を有する外国人は、原則として中国の従業員基本養老保険、従
業員基本医療保険、労災保険、失業保険および生育保険などの五つの社会保険に加入しなければならず、外国人の雇用主および本人が規定に照らして社会保険料
を納付しなければならない。
4) 外国人が中国の社会保険に加入する際の手続きの流れを確定した。雇用主は外国人就労証書手続きを行った日から30日以内に外国人のために社会保険登記手続きを行う。
5) 外国人の社会保険口座の処理方法を確定した。外国人が規定の退職年金を受取る年齢(筆者の理解するところ、ここで言う「年齢」とは中国で定められた法定定年年齢、つまり、一般的に男性満六十歳、女性従業員満五十歳または女性幹部満五十五歳である)に達する前に中国を離れる場合、社会保険口座を残しておくことができる。また、外国人は社会保険関係の終了を申請して社会保険個人口座における残高全額を受け取ることもできる。
6) その他。例えば、中国と社会保険に関する二国間または多国間協定を締結している国の国籍を有する人員が中国国内において就労する場合、その社会保険加入の方法は協定の取決めに従って取り扱う。

2. 地方政府が制定した関係地方政策
外国人就労数が相対的に集中する都市は、国の法令、政策が発布された後、速やかに現地の政策を発布している。更に、一部の都市では国の法令、政策が発布される前に、現地の実情に基づき、外国人の中国の社会保険加入に関する現地政策を先行して制定し、外国人が現地にて社会保険に加入する具体的な取扱方法を規範化している。これについて、概要を以下の通り表にまとめた。

都市 関係政策名称 発布/施行日
北京 「北京市で就労する外国人の社会保険加入作業の更なる遂行に伴う関連問題に関する通知」 2011年12月20日
上海 「上海で就労する外国籍人員、国外の永住(長期滞在)権を取得した人員および台湾・香港・マカオの住民の都市従業員社会保険加入に伴う若干問題に関する通知」 2009年10月10日
広州 「広州市で就労する外国人の社会保険加入関連事項に関する通告」 2012年11月27日
深セン 「深セン経済特区企業従業員社会養老保険条例」 1999年1月1日から施行。2006年7月26日に改正。
「『深セン経済特区企業従業員社会養老保険条例』実施規定」 2002年9月1日から施行。2006年12月8日改正。
重慶 「重慶で就労する外国人の社会保険加入に関する実施意見」 2012年1月18日
無錫 「市区で就労する外国人の社会保険加入に伴う業務取扱問題に関する通知」 2012年2月16日
蘇州 「蘇州市で就労する外国人の社会保険加入作業の遂行に関する通知」 2012年1月18日

筆者が把握する限りでは、現在、国が外国人の中国社会保険加入に関する法令、政策を発布していることに鑑み、これまでに現地政策を制定済みの都市は、関係規定と国の発布した法令、政策が一致しない場合、原則として国の発布した関係法令、政策を実施する傾向がある。

3. 社会保険に関する二国間協定
1) 中国政府はドイツ政府と関連条約を締結しており、社会保険項目の一部を相互に免除している。「中独社会保険協定の実施に関する通知」(2001年7月12日締結)に基づき、ドイツ国籍を有する外国人が中国において法に従って就労する期間について、その申請ならびに中国の社会保険機構の審査認可を経て、中国における法定養老保険、失業保険の納付義務を免除することができる。

2) 中国政府は韓国政府と関連条約を締結しており、社会保険項目の一部を相互に免除している。「中韓社会保険協定および議定書の実施に関する通知」(2012年10月29日締結)に基づき、韓国国籍を有する外国人が中国において法に則り就労する期間について、その申請ならびに中国の社会保険機構の審査認可を経て、中国における従業員基本養老保険、失業保険の納付義務を免除することができ、また暫定的に従業員基本医療保険の納付義務を免除することができる。

上記規定は中国と関連国とが締結した二国間協定に基づき発布されたもので、その効力は前述の1.、2.部分で挙げた法令、政策より強い。ただし、たとえ相互に社会保険を免除する関連協定を締結しているとしても、通常では、関係外国人が中国で加入する社会保険の一部保険項目が免除されるだけであり、その他の保険項目は依然として納付しなければならない(例えば、ドイツ人は依然として医療保険、労災保険、生育保険に加入しなければならず、韓国人は依然として労災保険、生育保険に加入しなければならない)。

実施状況

1. 各地で実施の度合い、厳格さは異なる
筆者が各方面より入手した情報によれば、現在、中央から地方まで外国人の中国における社会保険加入に関する法令、政策などが制定されてはいるが、各地方政
府の外国人の中国社会保険への加入促進に臨む姿勢、推進への力の入れ具合などの状況は同じではない。これについて筆者は以下の表にまとめた。

地方政府の態度および実施状況 具体都市(例)
推進に力を入れており、実施は厳格である  北京、広州、深セン、無錫
推進に力を入れておらず、実施は緩い 上海、蘇州

筆者が関係地方政府社会保険機構と意見交換を行った結果によれば、各地の主な相違は以下の通りである。

1) 推進に力を入れている都市は、将来的にも関係雇用主が厳格に国の法律、政策および現地地方政府の制定した地方政策を実施しているかの重点監督を継続し、実施に消極的な雇用主に対し法に従って追納命令、罰金などを含む関連処罰措置を講じる可能性を排除しない方針である。

2) 推進に力を入れていない都市は、現時点では関係外商投資企業および外国人の自発的な社会保険登記申告を主とし、積極的に監督、検査を行うなどの強硬な実施手段を採らない方向である。

3) 実施に力を入れている都市は、外国人の中国社会保険加入割合が相対的に高く、実施に力を入れていない都市は、外国人の中国社会保険加入割合が相対的に低い。例えば、無錫市の関係社会保険機構によれば、無錫市で法に従って就労している外国人の約80%は法に従って中国の社会保険に加入済みであり、蘇州市の関係社会保険機構の概算によれば、蘇州市で法に従って就労している外国人の関係割合は約2%だけである。

2. 考えられる原因分析
外国人の中国社会保険加入問題に関する上記実施状況について、考えられる原因として主に以下のものがあると筆者は推測する。

1) 中国社会保険の法律制度の確立は晩く、運用の面で成熟しておらず、加えて保障レベルも高くないため、吸引力に欠けている。

A. いくつかの先進国(例えば、ドイツでは早くも十九世紀末には現代社会保険制度の確立に着手している)と比べ、中国の社会保険制度の形成時期は晩く、運用は未だ成熟していないため、一部の外国人からは中国社会保険制度に対する十分な認識と信頼を得られていない。

B. いくつかの先進国(例えば、ドイツ、ギリシャなど)と比べ、中国の社会保険制度の保障レベルは相対的に低い(養老保険を例に挙げれば、中国の現在の社会保険制度によれば、定年者が受給する養老保険金のその在職期間の賃金水準における割合の平均、即ち養老金の所得代替率は約49%にとどまるが、前述の先進国の関係割合は最高で約95%(例えば、ギリシャ)に達するため、外国人を引きつける吸引力に欠けている。

C. 中国の社会保険は現時点では未だ全国レベルの統一管理が実現されておらず、地方間の社会保険体制の多くは未だ相互リンクを実現していない。これは外国人が社会保険を享受する際に不便である(例えば、深センで法に従って就労し、医療保険を納付している外国人が北京で診察を受けた場合、北京の医療機関において自己の深センの医療保険カードを使用して医療費を支払うことができない)。

2) 社会保険への加入は外商投資企業の外国人雇用のコストを増加させ、また多くの外国人自身も中国社会保険への加入を重視していない。

A. 法に従って外国人を雇用している外商投資企業にとっては、外国人の中国社会保険への加入がその労務コストを増加させたことは疑いない。このため、多くの外商投資企業は外国人の中国社会保険加入に対する姿勢は積極的ではない。更には、多くの外商投資企業は商工会議所などの組織を通じて中国の社会保険機構との交渉を望んでおり、関連政策実施の猶予を希望している。

B. 中国で法に従って就労している一部の外国人にとっては、中国での就労は個人の職業発展の一段階でしかなく、最終目標ではないため、これらの外国人が中国で社会保険に加入する意識は高くない。この他、一部の外国人は中国に派遣されている期間において、本国で関連社会保険に加入し、または派遣企業から一定の保障を与えられている(例えば、派遣企業が従業員のために「国際医療保険」を付保するなど)ことも、中国での社会保険加入への積極性を弱めている。

3) 一部の地方政府は現地の投資環境、経済発展などの要素を考慮し、姿勢、力の入れ具合が緩い。

外国人の中国社会保険への加入は原則として関係外商投資企業の労務コストを引き上げ、外国人が中国で就労する期間の経済負担を増大させる。このため、外商投資企業および外国人が相対的に集中する一部の都市(例えば、上海、蘇州)は、前述の状況が現地経済の持続的発展などに不利となる可能性を考慮し、実際の実施にあたり、外国人の中国社会保険への加入を推進する姿勢、力の入れ具合が緩い。


今後考えられる動向

外国人の中国社会保険加入の実施状況は未だ思わしくないと言えども、関連する法令が公布済みであり、外国人が就労国の社会保険に加入する制度は国際慣例に合致していることから、筆者は以下のように推測する。

1) 今後、国および地方政府は実施に向けた力を更に強化し、外国人の中国社会保険加入の進展を推進し、現在の各地方政府の実施に向けた力の入れ具合がばらつく状況を徐々に改善する。
2) ただし、外国人の社会保険制度加入を推進する過程において、地方政府、雇用主、外国人などの各主体間の利益関係を調整し解決する必要があり、難度は高い。よって、真に全面的に本制度が徹底されるまでにはいまだ長い道のりがある。
この他、外国人の中国社会保険制度加入の実施は、外国人の国籍国の利益にも係る。現在、ドイツと韓国の他、中国政府は日本など十数ヶ国の国々と社会保険相互免除協定締結の協議作業を行っている(ただし、現時点では明確なタイムスケジュールはない)。今後、関係国の国籍を有するより多くの外国人が、中国で法に従って就労する期間において、前述のドイツ人、韓国人のような関連社会保険納付免除の待遇を得られる望みがあると筆者は予想する。

今後中国政府が関連二国間社会保険協定に基づき、より広い範囲で、より多くの外商投資企業に対し社会保険の相互免除措置を実施するまでは、おそらく多くの外商投資企業が長い期間において自社が雇用する外国人の法に従った中国社会保険納付に伴う労務コストの増加という局面をやむを得ず受け入れることになる。
これについて、関係企業が検討可能な対応措置は以下の通りである。
1) 自社の外国人の雇用方式を調整し、自社の一部職務、作業任務については、国外からの短期出張による外国人の中国への派遣、リモート解決、更には雇用の現地化比率を上げるなどの方法を通じて完了し、中国で就労する方式での外国人の雇用を減少させる。
2) 自社で雇用する外国人の賃金基準、賃金構成を調整して、社会保険納付基数水準をある程度引き下げることで、社会保険納付金額の合理的な引き下げ効果を得る。ただし、前述の措置は外国人の賃金報酬に係るため、敏感な問題であり、実際の取り扱いにおいては慎重に行わなければならない。
3) 自社が所属する商工会議所、業界協会などの機関、ルートを通じて、関係社会保険機構と協議、調整を行い、自社への外国人中国社会保険加入政策実施について一定期間の猶予を勝ち取る。
4) 自社国外親会社およびその本国の商工会議所、業界協会などの機関、ルートを通じて、本国政府と中国政府が社会保険相互免除に関する二国間協定の協議、締結作業を速やかに実施、推進するように促す。
5) その他。

以上をまとめると、現在の状況から見て、中国にて外国人の中国社会保険加入という制度を徐々に徹底していくことことは、そう容易い作業ではない。今後の実施過程において、如何にして各者の利益を調整し、本法律制度をより速やかに推進させるかということも、各方面に残された一つの重要課題である。今後、筆者もまた継続的に関連法令、政策の変動および実務における新たな動向に留意し、引き続き本テーマについて検討していく。

(里兆法律事務所が2013年7月5日付で作成)

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