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昨今の独占禁止法執行についての回顧と対応策に関する評価分析

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2014年11月7日

記事概要

企業が独占禁止法の「レッドゾーン」を把握し、独占的行為に対する未然の予防および問題が生じた際の対応能力を高めることで、損失を最小限に抑えることを目的とし、本稿では、独占的行為の種類に応じて、最近の独占禁止法違反事件に対する分析を行う。

概要:
昨今、中国独占禁止法執行機関は一連の独占禁止法違反事件を取り締まっており、なかでも日本企業12社に下された計12,354億人民元あまりの制裁金通知書は、中国の独禁法違反による制裁金額の記録を新たに更新した。いかにして独禁法違反による制裁を回避するかは企業の注目を集めるものとなっており、本文では、企業が独占禁止法の「レッドゾーン」を把握し、独占的行為に対する未然の予防および問題が生じた際の対応能力を高めることで、損失を最小限に抑えることを目的として、独占的行為の種類に応じて、最近の独占禁止法違反事件に対する分析を行う。

全文:
中国「独占禁止法」[1]の公布施行から既に6年が経過しているが、ここ数年、個々の大きな事件において、独占禁止法の威力には目を見張るものがある。白酒の再販価格規制の事件から、液晶パネルの独禁法違反事件、更に上海黄金価格の独禁法違反事件、粉ミルク価格の独禁法違反事件を経て、独占禁止法執行機関が発行する制裁金支払通知書の金額は回を追うごとに記録を更新している。先頃、国家発展改革委員会が日本のA社など12の部品、ベアリング企業の価格カルテルに対し下した計12,354億元(人民元、以下同じ)の制裁金通知書は、独禁法違反制裁金額を新たに更新するものであった。昨今の独占禁止法執行を振り返れば、赤峰煙草の独禁法違反事件、赤峰花火の独禁法違反事件、B自動車会社の再販価格規制事件、C自動車会社の代理店独占契約事件およびD、E自動車部品の独禁法違反事件などの一連の関連事件が思い出される。独禁法違反による制裁は金額が一般的に高いだけでなく、企業の市場における地位、商業上の信用にも往々にして大きな影響を及ぼすため、本文では、企業の独占的行為に対する未然の予防と問題が生じた際の対応能力を高めることを目的として、最近の事件を体系的に整理した。

中国「独占禁止法」および中国の具体的な独占禁止法執行体制によれば、独占的行為は以下の三つに分けられる。

独占的行為の種類 主管機構(独占禁止法執行機関)
①独占的協定(水平型協定と垂直型協定が含まれる)
①、②において価格に関する独占的行為(価格独占行為)については、国家発展改革委員会が取り締まる。
②市場における支配的な地位の濫用 
③    事業者集中 国家商務部

昨今の独占禁止法執行は主に①、②の独占的行為に集中している。筆者は独占的行為に関する上記分類に基づき、前述した最近の事件について分類分析を行い、関連事業者がいかにして独占禁止法の「レッドゾーン」に踏み入れたかを検討してみる。

一、独占禁止法の「レッドゾーン」

(一)水平型独占的協定
水平型協定は「カルテル」とも呼ばれ、よく見られる市場の寡占行為である。たとえば、今回の自動車業界12社の部品およびベアリングメーカーが制裁を受けた理由は、水平型協定に合意し実施したことにある。この他、湖北省の物価局が先頃、C自動車会社の代理店4社に対して行った制裁および内蒙古で取締りを受けた赤峰花火の独禁法違反事件は、いずれも水平型協定に該当する。

「独占的協定」について、「独占禁止法」における定義は「競争を排除し、制限するための協定、決定あるいはその他の協調的行為」とされている。独占的協定に合意した事業者の間が同一の経済レベルにあり、相互に競争関係が存在する場合、当該協定は直ちに「水平型独占的協定」と呼ばれる。例えば、自動車部品を製造する企業8社、自動車ベアリングを製造する企業4社、C社の自動車の取次販売を行う販売店4社の間などは、いずれも水平型経済的次元において競争関係がある。それらの間で合意した商品価格に関する協定(値上げ、値下げあるいは現状維持を問わず)は容易に水平型協定を構成し制裁を受ける。例えば、最近制裁を受けた日本のベアリング企業4社については、定期、不定期に各種の「研究会」または「輸出定例会」を開催して、中国市場の工業用ベアリングと自動車用ベアリングの値上げ時期、上げ幅、生産販売量および値下げの実施状況などの微妙な情報について相互に意見交換を行っていたことに起因している。

価格以外でも、商品の生産または販売量の制限、販売または仕入市場の分割、共同での取引排斥に関する協定があり、「独占禁止法」第十三条の規定によれば、やはり水平型協定に該当する。

(二) 垂直型独占的協定
水平型協定と異なり、経済レベルの異なる事業者間(相互の間の大多数は供給業者と仕入業者の関係)で締結した独占的協定は垂直型協定と呼ばれ、その主な表現形式は、「第三者への商品再販価格の固定又は再販時の最低価格の制限」である。昨年制裁金額の合計が4.49億元となったマオタイ五粮液事件は正に垂直型協定に該当し、最近調査を受けたB自動車会社の独禁法違反事件においては、B社が完成車再販価格を制限し、4S店の部品および保守費用を制限した行為は、独占禁止法で禁じる垂直型独占的協定行為を構成している。

上述の各種独占的行為に対し、「独占禁止法」に定められた法的責任は、違法行為の停止、違法所得の没収の上、全年度売上高の1%以上10%以下の過料である。注意すべきは、ここでの制裁金額を計算する基数は「売上高」であり、営業利益または純利益ではないことである。このため、利益率の低い業種にとっては、一度の独禁法違反による制裁により年間の営業成果がふいになることも十分に考えられる。

(三)市場における支配的な地位の濫用
内蒙古工商行政管理内工商処罰字[2014]002号の処罰決定書は、「市場における支配的な地位を濫用して、正当な理由なく商品の抱合せ販売を行った」ことを理由に内蒙古自治区のタバコ会社である赤峰市のある会社(以下「赤峰煙草公司」という)を処罰した。当該事件において、赤峰煙草公司は法律で付与された煙草の独占経営という独占的地位を利用して川下の取次販売店に対する商品供給過程において、一般的なタバコと人気のあるタバコとをセットにして販売し、市場の自由競争秩序を破壊した。

この種の事件において、企業が「市場における支配的な地位の濫用」を構成していると独占禁止法執行機関が認定するには、三つの段階を経る必要がある。

第一に、企業が市場における支配的な地位、即ち「独占禁止法」第十七条で定める「関連市場において商品価格、数量またはその他の取引条件をコントロールでき、またはその他の事業者の関連市場への参入を阻害し、影響を及ぼすことのできる能力を備える市場地位」にあることで、企業の関連市場における市場占有率の大小が判定の重要要素となる。赤峰煙草独禁法違反事件において、赤峰煙草公司は法律のタバコ専売権に関する規定に基づき、現地で100%の市場占有率を有していたため、市場における支配的な地位にあると認定された。

第二に、企業が市場における支配的な地位の濫用と認定される行為、即ち「独占禁止法」第十七条で定める7種の行為を行っていることである。これらの行為の認定はやや客観的であり、法執行機関は主に把握した各種事実、証拠を通じて認定を行う。例えば上述の事件において赤峰煙草公司が一般的なタバコと人気のあるタバコとをセットにして販売した行為は、「独占禁止法」第十七条第五項の「正当な理由なく商品の抱合せ販売を行い、または取引の際にその他の不合理な取引条件を付加する」という禁止規定に違反している。

第三に、企業のこの種の行為に合理的な理由がない場合にはじめて「濫用」と認定される。上述のセット販売を例にすれば、一般的なタバコと人気のあるタバコとをセットにすることは、例えば「製品本来の性能を高めるに有利」または「商業慣例に適う」などの合理的な理由に欠けており、このため「濫用」行為と認定された。

二、企業はいかにして「レッドゾーンに踏み入れる」ことを防ぐか

中国の独占禁止法執行状況を振り返れば、企業が独占禁止の制裁決定を受けた後で、「独占禁止法」第五十三条の規定に基づき、行政不服審査または訴訟を通じて「決定を覆した」前例は未だ存在しない。このため、独占禁止の制裁により生じる重大な損失を回避するためには、企業は現在のところ主として「未然の予防」と「問題が生じた中での対応」の二つの面から対応を強化しなければならない。

(一)未然の予防:独占禁止へのコンプライアンスを重視強化する
未然に予防するとの観点から、企業は独占禁止に関するコンプライアンス作業を重視しなければならない。独占禁止法立法の技術的専門性が高く、市場経営行為の様々な面にかかわり、加えてその公布施行からの時間は浅く、実際に取締りを行った事件は少ないため、多くの企業は独占禁止法律制度に対する認識の度合いは会社法などの伝統的な法律には及ばない。このような状況では、企業は往往にして日常経営において独占禁止に関するコンプライアンスを疎かにしてしまうため、一度独占禁止法執行機関の調査を受ければ、独禁法違反による制裁金を科せられる結果を回避できないようである。

このため、独占禁止コンプライアンス作業の実施は抜本的な対策として、市場事業者である企業から十分に重視されるべきである。企業の一方的な経済行為であるかを問わず、例えば価格の制定、取引条件の設定、抱合せ販売は、やはり企業とその他の市場事業者双方間の経済行為であり、例えば各種の協調的行動を内容とする契約あるいはその他の市場競争状況に関する取決めについては、いずれも合意前に独占禁止に関するコンプライアンス作業を行い、独占禁止法のリスクを事前に判別し回避するべきである。過程および事後における処理と比べ、未然の予防はコストが低いだけでなく、効率も高く、効果も良好である。

(二) 問題が生じた中での対応:各種関連制度の運用に注意する
企業が既に独占禁止法執行機関による調査を受けている状況においても、積極的な策をもって対応し、これによる損失をできる限り抑える必要がある。このような状況においては第一に一つの原則を定めなければならず、独占禁止法執行機関に対し積極的に協力する態度を示す必要はあるとしても、自己に不利となる事実を過度に開示することは望ましくない。この他、調査を受けてから制裁決定が下されるまでの間、企業は「減免制度」、「承諾制度」および「弁明権」などの制度方法または権利を利用して損失を最小限に抑えるよう注意しなければならない。

減免制度とは、「独占禁止法」第四十六条第二項の規定によれば、「事業者が自発的に独占禁止法執行機関に対し独占的協定の合意に関する関連状況を報告し、併せて重要証拠を提供した場合、独占禁止法執行機関は情状を酌量し当該事業者に対する制裁を軽減または免除することができる」ことを指す。この度発展改革委員会が日本企業12社に対し下した制裁において、ある企業は正に「第一に自発的に独占的協定の合意に関する関連状況を報告し、併せて重要証拠を提供した」企業であったため、制裁を免除された。「第二に自発的に独占的協定の合意に関する関連状況を報告し、併せて重要証拠を提供した」企業、およびその他の違法状況が相対的に軽い企業についても、発展改革委員会は情状酌量の上、軽めの制裁を行っている。

承諾制度とは、「独占禁止法」第四十五条の規定によれば、事業者が一定期間内に具体的な措置を講じて独占的行為の疑いがある状況を除去することを承諾した前提において、独占禁止法執行機関は調査の中止を決定できることを指す。事業者が承諾を履行した場合、独占禁止法執行機関は調査の終了を決定することができる。

弁明権とは、「行政処罰法」第三十一条、第三十二条によれば、当事者が法に従って享受する行政機関に対し説明と弁明を行う権利を指す。上述の日本企業12社の独禁法違反事件において、A社は書面の説明弁明資料を提出し、「以前提出した前年度売上高データにおいては、二つの合弁会社の売上高が全て計上されていたが、会計準則に基づき、合弁会社のA社に帰属する権益に照らして売上高を部分的に修正する」ように求めた。発展改革委員会は上記弁明が法律の規定に合致していると判断した上で採用し、A社に対する制裁金を2,904億元へと減額調整した。

まとめ:
筆者の推測では、今後の中国における独占禁止法執行への注力は緩むことはないと思われ、いかにして自らの経営行為を規範化し、遭遇するかもしれない独占禁止調査に対応するかは、全ての企業が留意すべき問題であると考える。企業は関連法律制度を把握し、専門家を招聘して独占禁止に関する業務研修を行うことで、経営過程における独占禁止に対する意識を強化し、これにより独占禁止に関する潜在問題を取り除き、正常なビジネス運営に影響を及ぼさないとの目的の達成を目指す必要がある。

(里兆法律事務所が2014年8月29日付で作成)

[1]中国「独占禁止法」http://www.gov.cn/flfg/2007-08/30/content_732591.htm

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