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「国外仲裁機関による仲裁を選択し、管轄地を中国国内とする」仲裁条項は有効であるか(連載その一/全二回)

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2015年7月1日

近年、一部の中国国内企業が国外企業と締結した渉外契約においては、国外仲裁機関(例えば香港国際仲裁センター、シンガポール国際仲裁センター、国際商業会議所仲裁裁判所など)の高い知名度および透明度、および取引条件を追及する公平さ、合理性などの要因により、紛争解決条項で「国外仲裁機関による仲裁」を選択する傾向がある。しかしながら、多くの国外仲裁機関が中国国内に常設機構を設けておらず、中国国外における仲裁は「言語の問題、時間と労力を費やす」などの問題に直面するため、一部の渉外契約においては仲裁条項で「国外仲裁機関による仲裁を選択するが、管轄地は中国国内とする」と取り決めているが、これは国外仲裁機関を中国国内に招聘して特定事件について臨時仲裁(即ち、一般的に言われる「国外機関臨時仲裁」)を行うに等しい。当該仲裁条項は中国国内において有効であるのかどうか、その仲裁判断は中国国内において承認および執行を得られるのかといった質問に回答するにあたり、まずは国外仲裁に関する概念から説明する。

一、国外機関臨時仲裁とは何か

「国外機関臨時仲裁」は「国外仲裁」と「臨時仲裁」の結合である。「国外仲裁」、「臨時仲裁」などの概念について、中国法は未だ明確な規定を設けていない。「国外仲裁」とは通常、「仲裁地または仲裁廷の組織地が中国国外である仲裁」を指し、「臨時仲裁」とは通常、「国外仲裁機関の仲裁規則に基づいて臨時に仲裁廷を組織し行われる仲裁[1]」を指す。二者を合わせた「国外機関臨時仲裁」は通常、国外仲裁機関が中国国内において臨時に組織した仲裁廷で行われる仲裁と理解することができる。

二、国外機関臨時仲裁を選択した仲裁条項は有効であるか

中国で常設機構を設けていない国外仲裁機関による中国国内での仲裁(即ち、上述の「国外機構臨時仲裁」)を選択した仲裁合意は有効であるか、そこで下される仲裁判断は中国国内において承認および執行を得られるかについて、中国には明確な法的根拠がなく、このため常に論争のある話題となっており、司法界および学術界ではこれに対し異なる観点が存在する。異なる観点および理由を下表に簡単に整理する。

判断基準 反対:国外仲裁機関は中国国内において仲裁を行うことはできず、その仲裁判断は中国において承認および執行を得られない 賛 成:国外仲裁機関は中国国内において仲裁を行うことができ、その仲裁判断は中国において承認および執行を得られる
中国における登記の有無
常設機構の有無
中国「仲裁法
第10条の規定によれば、仲裁委員会は、直轄市および省、自治区の人民政府所在地の市および区を設けている市の人民政府が、関連部門および商会に統一的に設置させるもので、且つ省級司法行政部門に登録しなければならない。現在の法律の枠組みにおいては、国外仲裁機関は中国「仲裁法」で定める仲裁機関ではない。
「仲裁法」第10条で定める「仲裁委員会」は一種の常設仲裁機関であり、その主な機能は仲裁規則の制定、仲裁規則実施の監督、仲裁機関の日常業務管理などとなり、仲裁判断を下すことはしない。よって、中国国内における事件受理などの仲裁機関の日常業務について言えば、「仲裁法」第10条に基づき、中国国内で統一的に設置し、法に従って登記された常設機構が行えるのみである。ただし、国外仲裁機関の臨時仲裁は中国国内において仲裁判断を下すというだけであり、その事件の受理は国外で完了しているため、国外仲裁機関は実行可能であり、「仲裁法」第10条に違反しない。
「法で禁じられていなければ実行可能」の原則を適用できるか 国外仲裁機関の中国における商業仲裁活動の実施、商業仲裁業務の提供は、「法で禁じられていなければ実行可能」の原則を適用しない。何故なら、仲裁は国の司法主権にかかわるもので、特殊性を備えており、政府の特別許可を得なければならない専門業務であって、禁じられていなければ実行できるような業種ではない。 中国の仲裁立法は列挙する方法で明文規定を設けることはできない。「法で禁じられていなければ実行可能」の原則」によれば、国外仲裁機関は中国において仲裁を行うことができる。

「司法主権」については、中国法は本来、渉外紛争を国外仲裁機関による仲裁に付託することを認めており[2]、国外仲裁機関が中国において臨時仲裁を行うことは、仲裁地の変更(国外から中国国内への変更)であるに過ぎず、国外仲裁機関の事件受理範囲を拡大するものではなく、中国仲裁機関の管轄範囲を縮小するものでもない。よって、中国の司法主権を破壊するという問題は存在しない。

中国の仲裁市場は対外的に開放されているか 「サービスの貿易に関する一般協定」(「GATS」)が、サービス貿易の開放に対し採用しているのは「ポジティブリスト」方式であり、即ち、一国がある項目のサービスを自らの譲許表に公に組み入れない限り、当該項目のサービスは対外的に開放されない。これによれば、中国の仲裁市場は対外的に開放されておらず、国外仲裁機関は中国国内で仲裁サービスを提供できないと理解できる。また、仮に中国がGATSの下で仲裁市場の開放に同意したとしても、WTO協定は自動執行の効力を具備していないため、本譲許は中国による国内法の改正を通じて実施される必要があり、法改正が行なわれるまでは、国外仲裁機関は中国にて仲裁サービスを提供することができない。 仲裁は市場が開放されているかの問題にかかわらない。何故なら、国際商事仲裁の実務において、仲裁は当事者の自由意思による紛争解決の方法であるからである(仲裁を行う仲裁機関の国籍、仲裁廷を構成する仲裁人、仲裁が行われる場所、使用される言語、適用される仲裁規則および法律などは、いずれも当事者が取り決めることができる)。中国は「ニューヨーク条約」における外国仲裁判断の承認および執行に関する国際法の義務を負っており、当該外国仲裁判断には機関仲裁の判断も、臨時仲裁の判断も含まれるべきである。

(里兆法律事務所が2015年5月15日付で作成)

[1]「臨時仲裁」と相対する概念は「機関仲裁」であり、例えば国外仲裁機関がそれが中国国内に設立した常設機構を通じて行う仲裁である。
[2]「民事訴訟法」第271条:渉外経済貿易、運輸および海事において生じた紛争については、当事者が契約書に仲裁条項を設け、または事後に書面にて仲裁合意に合意しており、中華人民共和国渉外仲裁機関またはその他の仲裁機関による仲裁に付託した場合、当事者は人民法院に提訴してはならない。

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