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「国外仲裁機関による仲裁を選択し、管轄地を中国国内とする」仲裁条項は有効であるか(連載の二/全二回)

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2015年7月7日

・(連載の一/全二回)はこちら

一、 典型事例およびその分析

「安徽省龍利得包装印刷有限公司とBP Agnati S.R.L.とが仲裁合意の効力確認を申し立てた事件」(以下、「龍利得事件」という)が発生するまでは、法律に明確な規定が設けられていなかったため、中国の仲裁司法界と裁判所は国外仲裁機関が中国国内において仲裁を行えるかの問題について、長期にわたり激烈な論争を展開していた。

龍利得事件の発生後、合肥市中級人民法院、安徽省高級人民法院それぞれの審査を経た後、最高人民法院へ提出され最終討論が行われた。最高人民法院は2013年3月25日に「回答書簡」の形式で、初めて正式に「国外仲裁機関による仲裁で、管轄地を中国国内と選択する」仲裁条項が有効であることを認めた。本事件の影響力は巨大であり、2014年度影響力の大きな十大仲裁事件に選出され、「渉外商事海事審判指導」第26編において公布された。筆者は縁あって龍利得事件の前期審理作業に参加し、当該事件を把握しており、背景を以下のとおり簡潔に紹介する。

【基本背景】

申立人安徽省龍利得包装印刷有限公司(以下「龍利得」という)は被申立人BP Agnati S.R.L(以下「Agnati」という)および江蘇蘇美達国際技術貿易有限公司と2010年10月28日に契約番号BPAC049/10の「販売契約」を締結した。当該契約第10.1条では「本契約に起因して生じ、または本契約に関連する紛争は、国際商業会議所仲裁裁判所に申し立てた上、国際商業会議所仲裁裁判所の規則に基づき、当該規則に従って指定する一名または複数名の仲裁人により最終的に仲裁を行うものとする。管轄地は中国上海で、仲裁は英語で行う。」と取り決めていた。

合肥市中級人民法院は審査後に、国際商業会議所仲裁裁判所は中国仲裁法で定める仲裁機関に合致しないため、紛争をその仲裁に付託すると取り決めた仲裁合意は有効な仲裁条項ではないと判断し、本件は「中華人民共和国仲裁法」第18条の規定に従わなければならないとして、仲裁合意条項無効を確認する仲裁判断が下された。

安徽省高級人民法院は当該問題について、合議廷での討論を経た後に二つの意見を形成した。

・多数意見では、本件仲裁合意条項は有効であると判断した。本件「販売契約」第10.1条の取決めについて、「仲裁法」第16条では、「仲裁合意には、契約書に定める仲裁条項およびその他の書面方式で紛争発生前または紛争発生後になされた仲裁申立の合意を含む。仲裁合意には、次の各号に掲げる内容を含めなければならない。(一)仲裁申立の意思表示、(二)仲裁に付する事項、(三)選定する仲裁委員会。」と定められている。本件「販売契約」が双方当事者の真実の意思表示であることから、適法有效であり、本件仲裁条項は、仲裁申立の意思表示および取り決めた仲裁に付する事項を具備した上、明確で具体的な仲裁機関を選定していることから、有効な仲裁条項である。よって、龍利得が当該仲裁条項無効の確認を申し立てた理由は成立しない。原審裁判所が、国際商業会議所仲裁裁判所などの国外仲裁機関は中国国内において仲裁活動に従事できないことを理由に本件仲裁条項の無効を確認したことは誤りであり、法律根拠に欠けている。

・少数の者は反対意見である。「仲裁法」第10条の規定によれば、仲裁委員会の設置は、省、自治区、直轄市の司法行政部門に登録しなければならない。中国における仲裁は行政機関の特別許可を受けて初めて提供可能となる専門業務であり、中国政府は国外に対し中国の仲裁市場を開放しておらず、このため国外仲裁機関は法により中国国内で仲裁を行うことはできない。また、「ニューヨーク条約」は仲裁を臨時仲裁と機関仲裁に区分していること、「仲裁法」は中国国内における機関仲裁実施に関する制度を確立していること、国際商業会議所仲裁裁判所は中国において常設機構を設けていないことがら、本件「販売契約」で定めた国際商業会議所仲裁裁判所が仲裁を行うとの条項は「仲裁法」の規定に違反しているため、無効条項に該当する。

上記二つの異なる意見に対し、最高人民法院はその「申立人安徽省龍利得包装印刷有限公司と被申立人BP Agnati S.R.Lとの仲裁合意効力の確認を申し立てた事件についての指示伺いに関する回答書簡」(以下、「回答書簡」という)において、安徽省高級人民法院合議廷の多数者の意見を支持し、「仲裁法」第16条の規定に基づき、本件仲裁合意では仲裁申立の意思表示があり、仲裁事項を取り決めた上、明確で具体的な仲裁機関を選定していることから、有効と認定するべきとした。


【解決が待たれる法律問題】

筆者の見るところ、龍利得事件は国外機関の臨時仲裁の有効性を初めて明確にし、中国国内の仲裁業務市場の更なる開放を宣告したもので、国外仲裁機関が中国国内において行う臨時仲裁に関し主な法律上の障害を取り除いた。これはより多くの中国国内企業がその渉外契約において「国外機関臨時仲裁」による紛争解決方式を採用するに有利となり、中国国内企業の紛争解決の利便を図るもので、延いては中国国内企業の更なる国際商業競争への参加を促進するものとなる。

ただし、「回答書簡」は仲裁合意の有効性を明確にしただけで、その他のいくつかの重要な法律問題については更なる確認を行っていない。それには以下の内容が含まれる。
・国外仲裁機関の中国国内における仲裁判断を「内国仲裁判断」と認定すべきか(即ち、中国国内の仲裁判断であり、中国において「仲裁法」などの法律規定に従って直接承認および執行が可能である)、それとも「非内国仲裁判断」[1]と認定すべきか。「非内国仲裁判断」と認定された場合、中国における執行の可否および方法はどのようであるか。
・国外仲裁機関が中国国内において仲裁を行う場合、国外仲裁機関の定める仲裁規則が適用されるが、当該規則をどのようにして中国の関連法および司法制度とリンクさせるか。
・「仲裁法」第58条によれば、仲裁判断取消の申立は仲裁機関所在地の中級人民法院が管轄するが、国外仲裁機関が下した仲裁判断に関する取消申立の管轄については規定がなく、当事者が国外仲裁機関の下した仲裁判断の取消を申し立てる必要がある場合、どのように裁判所を選択すべきか。それとも、現行法の下では当該仲裁判断の取消を申し立てることはできないのか。仲裁地裁判所が管轄権を有すると仮定すれば、仲裁地を取り決める際に特定の中級人民法院の管轄区まで明確にしなかった場合は、依然として管轄不明の問題が存在するものと思われる 。

上記問題は中国国内の仲裁法および司法実務で更に明確にされるのを待たなければならないが、今後は1994年「仲裁法」を改正し、中国の仲裁法を国際的に主流な実務処理により近づかせる必要があると思われるため、筆者も引き続き注目していく。

このほか、筆者の見るところ、本文で検討した「国外機構臨時仲裁」は国外仲裁機関が中国国内において臨時仲裁判断を下す状況であり、国外仲裁機関が中国国外で下した臨時仲裁判断の中国における承認と執行については、2015年2月4日に施行された「最高人民法院の『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する解釈」第545条に規定があり、即ち、「民事訴訟法」第283条に基づき、当事者が直接被申立人住所地またはその財産の所在地の中級人民法院に申し立て、人民法院が国際条約または互恵の原則に照らして処理することに注意が必要である。

(里兆法律事務所が2015年5月15日付で作成)

[1]「非内国仲裁判断」とは、「ニューヨーク条約」における概念であり、本国国内で下されるが本国法によれば本国国内の仲裁判断と認定されない仲裁判断を指す。「ニューヨーク条約」によれば、「非内国仲裁判断」は「ニューヨーク条約」の規定に従って承認および執行を行うことができるが、中国全国人民代表大会常務委員会の「中国の『外国仲裁判断の承認および執行に関する条約』への加入に関する決定」において、中国は相手方加入国領土内で下された仲裁判断の承認および執行を行うのみであると規定しており、即ち「非内国仲裁判断」を「ニューヨーク条約」に基づき承認および執行する範囲に組入れていない。しかしながら、中国法も「非内国仲裁判断」の承認および執行を禁じていないことから、「非内国仲裁判断」の承認および執行の可否およびその方法は、中国の法律と司法において依然として不明確である。

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