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ログイン2015年7月30日
2015年3月30日、上海市人的資源社会保障局は、これまでの慣例通り、本年度実施の最低賃金基準(即ち、2,020元/月、18元/時間)を公布したが、1993年より始まった最低賃金基準制度が実施されてから、上海の最低賃金基準は連続して22年間、上昇を維持している。上海以外の他の地域では、各自で実施している最低賃金基準に金額的な違いがあるものの、いずれも上海と相似する上昇傾向を維持している。実際に、最低賃金基準制度が推進されてからは、中国各地区の最低賃金基準は長年に亘りいずれも全国的に持続的上昇傾向を維持している。
以下、最低賃金基準に関する問題について、分析し検討する。
最低賃金基準の概念とは
1. 最低賃金基準の定義:「最低賃金規定」第3条にて、「最低賃金基準とは、労働者が法定の労働時間又は法に依拠して締結した労働契約に約定する労働時間内に正常な労働を提供したことを前提として、使用者が法に依拠して支払うべき最低限の労働報酬を指す」旨が明確に規定されている。本定義によると、以下の通りである。
1) 従業員が最低賃金基準を獲得する前提は、法定の労働時間又は法に依拠して締結した労働契約に約定する労働時間内に正常な労働を提供することである。
2)
従業員が正常な労働を提供しなかった場合、同従業員が正常な労働を提供しなかった原因の如何に応じて、法に照らし対処しなければならず、特段の規定がない場合、最低賃金基準による制限を受けない。例えば、従業員が私用休暇を取得した場合又は無断欠勤した場合であれば、賃金を支払わなくてもよいとされ、従業員が病気休暇を取得する場合は、一部地区(北京、江蘇、広東など)では最低賃金基準の80%を支払うだけでよいと規定されている。
2. 最低賃金基準の範囲:賃金項目は比較的広範であるため、法律で最低賃金基準の範囲を画定する際には、消去法(即ち、一部の賃金項目を除外し、残りの賃金項目を最低賃金基準の範囲内に組み込んで一括して計上すること)が使用されるが、これについて関係規定に基づき、関係地区の状況を例にとりながら以下に説明する。
都市 | 最低賃金基準に計上しない項目 |
国家 | ・勤務時間が延長された部分の賃金。 ・遅番、夜勤、高温、低温、坑内、有毒有害などの特別な作業環境、条件下での手当て。 ・法律、法規および国家規定の労働者福利待遇など。 |
上海 | ・勤務時間が延長された部分の労働報酬 ・遅番、夜勤、高温、低温、有毒有害などの特別な作業環境、条件下での手当て。 ・個人が法に依拠して納付する社会保険料及び住宅積立金。 ・食事手当て、出・退勤の交通費手当て、住宅手当て。 |
江蘇 | ・時間外労働の賃金。 ・遅番、夜勤、高温、低温、坑内、有毒有害などの特別な作業環境、条件下の手当て。 ・個人が最低限度額に基づき預け入れる住宅積立金。 ・法律、法規および国家規定の労働者福利待遇など。 |
北京 | ・時間外労働賃金。 ・遅番、夜勤、高温、低温、坑内、有毒有害などの特別な作業環境、条件下の手当て。 ・個人が納付すべき各社会保険料及び住宅積立金。 ・国家及び本市規定に基づき、最低賃金基準に計上しないその他収入。 |
通常の理解では、最低賃金基準に計上しないことが定められている項目が多い地区では、最低賃金基準の金額のほか、係る項目に対応するコストも企業が別途負担しなければならないため、企業が支払うべき労働コストは、同地区にて公布されている最低賃金基準の金額よりも若干高くなる。具体的には、表【1】にいう上海、北京などが挙げられる。反対に、表【1】の江蘇などの最低賃金基準では、個人が納付すべき社会保険料が除外されていない(即ち、江蘇においては、個人が納付すべき社会保険料が最低賃金基準に計上される)ため、この部分も最低賃金基準を構成するものではあるが、実際には企業は負担せずに済み、同市で公布されている最低賃金基準金額よりも、企業が支払う労働コストはやや低くなる。
最低賃金基準の傾向的判断
関係データを研究する限りでは、全国的に見ても、最低賃金基準は年を追うごとに持続的に上昇している。
1. 最低賃金基準は全国レベルで持続的に上昇している。代表的な一線都市の中からいくつかサンプルデータを抜き出し下表にて比較してみる。
都市・金額 \ 年度 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 |
北京 | 800 | 800 | 960 | 1,160 | 1,260 | 1,400 | 1,560 | 1,720 |
深セン | 特区外900 特区内1,0001 |
1,100 | 1,320 | 1,500 | 1,600 | 1,808 | 2,030 | |
上海 | 960 | 960 | 1,120 | 1,280 | 1,450 | 1,620 | 1,820 | 2,020 |
2008年下半期から発生した金融危機による影響を受けつつも、表【2】では、翌年度(2009年度)実施の最低賃金基準を下方調整した都市はなく、深センなどでは若干引き上げている。
2.最低賃金基準の上昇幅も全国的に拡大が加速化している。各地区で実施している最低賃金基準が全国的に年々上昇しているほか、最低賃金基準の上昇幅そのものの拡大も加速化している。関係データを例にとり、下表に整理する。
年度 | 当年度の金額(RMB) | 上昇幅(RMB) | 年度 | 当年度の金額(RMB) | 上昇幅(RMB) | 年度 | 当年度の金額(RMB) | 上昇幅(RMB) |
1993 | 210 | – | 2003 | 570 | +45 | 2013 | 1,620 | +170 |
1994 | 220 | +10 | 2004 | 635 | +65 | 2014 | 1,820 | +200 |
1995 | 270 | +50 | 2005 | 690 | +55 | 2015 | 2,020 | +200 |
上表は、異なる時期において、上海の最低賃金基準の上昇幅そのものも全国的に拡大しており、また拡大ペースが年々加速化していることを示している。
上記データから、最低賃金基準が年々上昇する傾向は全国的に今後も持続して行くと思われ、短期間で比較的大きな変化が生じることはないと予測されるが、その主な原因は以下の通りである。
1.中国政府は、経済や社会面で、相対的に強い立場にあり、政府は企業の賃金分配制度などの企業の自主経営管理権について直接干渉することはないものの、労働報酬の市場での初回分配時の比率が保証され、それが更に拡大し、従業員が経済発展の恩恵を受けられるよう、政府は通常、最低賃金基準を主要な調整ツールにしている。
2.中国国務院の「所得分配制度改革推進に関する若干意見」(国発[2013]6号)では、所得分配にあたり、「高所得者所得の抑制、中間所得層の拡大、低所得者の所得引上げ」の基本指導原則を実施し、中国政府の今後の目標は、最低賃金基準を社会平均賃金の40%を下回らないものにすることである旨が明確に言及されていることから、各地区の最低賃金基準は今後においても大きな上昇の余地があると言える。
最低賃金基準の上昇ペース加速化による企業への影響
最低賃金基準が年々上昇することは、企業に非常に重要な影響を及ぼすことを否定できず、企業の労働コストを直接引き上げていることは、その典型である。
1.最低賃金基準の上昇は、企業が従業員に支払う賃金水準が強制的に引き上げられたに等しく、企業は最低基準金額を下回る賃金基準での金額交渉能力を喪失し、企業は最低賃金基準を上回る金額で従業員と賃金基準を約定するしかなく、特に最低賃金基準を正常な出勤賃金としている企業にもたらされる影響は最も顕著であり、労働コストの大幅上昇が直接生じることになる。
2.時間外労働賃金の計算基数が最低賃金基準を下回ってはならないとなれば、最低賃金基準の上昇により時間外労働賃金の計算基数の最低基準が上昇することにもなり、特に最低賃金基準を時間外労働賃金の計算基数に設定している企業にもたらされる影響は最も顕著であり、時間外労働賃金の大幅上昇が直接生じることになる。
3.病気休暇賃金が最低賃金基準の80%を下回らないとの規定を行っている地区(北京、江蘇、広東など)では、最低賃金基準の上昇に伴い、病気休暇賃金の上昇が直接生じることになるが、これは、「仮病を使って病気休暇を取得する」現象の増加を間接的に招いてしまい、企業による労働管理の難易度が高まることになる。
4.企業で操業・生産停止が生じた場合、操業・生産停止期間が1賃金支払周期を超えた後の賃金支払周期内において、従業員が労働を提供した場合、企業は通常、最低賃金基準を下回らない金額の賃金を従業員に支払うが、従業員が労働を提供していない場合、企業は通常、一定割合の最低賃金基準(北京は70%、江蘇は80%など)の金額を支払うため、最低賃金基準の上昇により、企業の操業・生産停止段階のコスト上昇を直接に招くことにもなる。
5.その他:従業員の労働契約解除又は終了前12ヶ月間の平均賃金が最低賃金基準を下回る場合、経済補償金は最低賃金基準に基づき計算する。労災に遭った職員の有給休職期間の賃金は最低賃金基準を下回ってはならないなど。
現状から見ると、最低賃金基準の上昇による企業労働コストの上昇は、ほぼ免れることはできないものであり、企業もこれに向き合い且つ受け入れざるを得ない。例えば、最低賃金基準値に応じて、報酬賃金を調整し、最低賃金基準値が相対的に更に低い地域を探して投資を行い、労働生産性を向上させ、職員数を削減し、管理水準を強化し、資源を合理的に利用し、コスト節約を行うことなどは、最低賃金基準ライン上ギリギリで運営している企業が現在直面し検討すべき課題であると言える。
(里兆法律事務所が2015年6月15日付で作成)
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