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ログイン2020年8月31日
2019年4月28日、最高人民法院が「『中華人民共和国会社法』適用の若干事項に関する規定(五)」(以下「『司法解釈五』」という)を公布した。当該司法解釈は、関連取引の司法審査及び救済方法、董事役職の任意解任及びそれに伴う補償、会社の利益分配期限、有限責任公司株主の重大な対立解決メカニズム等を定めており、本稿では、その重点内容を読み解く。
■手続きが適法であることは、関連取引の損害賠償請求に抗弁するには不十分である
「司法解釈五」が公布されるまでは、損害を被った会社は通常、「会社法」第21条に基づき、関連関係を利用して会社の利益を損なった支配株主、実質的支配者、董事、監事、高級管理職を相手取り損害賠償の訴えを起こすか、又は損害を被った会社が提訴を怠った場合には、会社の株主が「会社法」第151条の規定に従い株主代表訴訟を提起することができる。もしも会社決議が「会社法」第22条規定に合致するものであれば、会社株主が会社決議の取消し/無効の訴えを提起することも考えられる。但し、司法実践においては、上述した解決方法のいずれも障害が存在しており、それはつまり、被告はその行為について、すでに適法な手続きを履行済みであるとして抗弁することがよくある。適法な手続きとは、例えば、係る関連取引は会社の株主会又は董事会の決議で可決された事項であり、尚且つ行為者はすでに規定に基づき表決の際に除外済みである等である。
今般、「司法解釈五」第1条では「被告が当該取引について情報開示、株主会又は株主大会の承認取得等の法律、行政法規又は会社定款に定める手続きを履行したことを理由に抗弁する場合、人民法院はこれを支持しない」とされている。当該条項は、関連取引に係る手続きが法律の規定に合致するだけではなく、関連取引の実質的内容も法律の規定に合致することを証明するよう被告に求めている(例えば、関連取引の公正性、関連取引と会社の損害結果との間に因果関係が存在しない等の実体問題について証明することなどである)。また、同条項は、各級人民法院に対し、関連取引が公正かどうかを判断する際には、関連取引に係る手続き及びその実質的内容の両方面から考慮しなければならないとも求めている。
■株主は会社を代表し関連取引の契約の無効又は取消し可能の訴えを提起する権利を有する
「司法解釈五」が公布されるまでは、契約の相対性という原則から、関連取引契約の無効又は取消しは、契約の双方当事者(即ち、関連関係のある相手又は会社)から申し入れるしかなく、株主は関連取引合同の当事者ではないため、関連取引の契約について主張することはできなかった。
今般の「司法解釈五」第2条によると、もしも関連取引の契約に無効又は取消し可能な事由が存在し、尚且つ会社が契約の相手方を提訴していない場合、「会社法」第151条の規定に合致する株主であれば、会社を代表して、契約の無効又は取消し可能であることの確認を求める訴えを法院に提起することができるとされている。つまり、株主が遅滞なく提訴し、最終的に関連取引の契約が取消され、又は無効と認定されれば、当該関連取引の契約によって会社にもたらされる悪影響を制御し、軽減するうえで有益であることは明らかである。
■董事の役職解任及び補償
1) 会社は株主会又は株主大会の決議をもって董事の役職を解任することができる
「司法解釈五」が公布されるまでは、司法の実践においては、董事と会社との間にあるのは委託関係であり、また、会社は董事の任意解任権を有するということについて概ね認識は一致している。2012年に最高人民法院から公布された第三回目の指導判例10号において、法院は会社の自治を尊重しなければならず、総経理の役職解任決議の依拠した事実が真実かどうか、その理由は成立するのかどうかは司法審査の範囲には該当しないと最高人民法院は明確にしている。その後、当該審査指導意見は董事役職解任の事例にも一般的に使用されている。
今般の「司法解釈五」第3条では、「董事の任期が満了する前に、株主会又は株主大会の有効な決議によって役職が解任され、その董事がその解任は法的効力がないと主張した場合、人民法院はこれを支持しない」と定めており、董事役職の任意解任を一層明確にしている。また、最高人民法院民事二廷のある責任者は、「司法解釈五」に関する記者との質疑応答の中で、会社と董事の間にあるのは実際のところは委託関係であり、株主会の選任決議及び董事の就任同意により契約法に基づく委託契約が成立するが、委託契約である以上、契約の双方当事者のいずれも任意解任権を有しており、つまり、会社は董事役職をいつでも解任することができ、それは任期が満了したかどうかに関わらず、そして董事も同様にいつでも辞職することができると一層明確にしている。
なお、中国の会社では、職員董事がまだ存在しており、職員董事の任命・罷免については、株主に権限がないため、その役職は株主会又は株主大会の決議によって解任されることはないことに注意したい。
2) 董事役職を解任する際の合理的な補償について
「司法解釈五」が公布されるまでは、法的次元からは、董事役職を解任する際に離職補償(以下「離職補償」という)を支払わなければならないとは定められておらず、董事の役職解任の際に離職補償を支払う必要があるかどうかは、定款上の規定又は董事との個別協議の如何により決まってくるものであった。それが、今般の「司法解釈五」第3条第2項では、会社が董事役職を解任する際の補償を与えるかどうか及び補償の合理的な金額は法律、行政法規、会社定款の規定又は契約の約定及び解任の原因、残りの任期、董事の報酬などの要素を総合的に勘案したうえで確定しなければならないと定められており、これは離職補償を支払うことに明確な法的根拠を与えている。
なお、「司法解釈五」における「補償を与えるかどうかを決める」という文言、及び最高人民法院民事二廷のある責任者による「司法解釈五」に関する記者との質疑応答での「任意解任により董事の適法な権益を損なってはならない」及び「我が国の契約法の中で、委託者が契約を解任することにより受託者に損失をもたらす場合、当該当事者の責に帰すべからざる事由を除き、損失を賠償しなければならないと明確に定めている」等の意見を踏まえると、「司法解釈五」は、会社はいかなる状況においても離職補償を支払わなければならないとは強制してはおらず、例えば、次の状況に該当する場合には、会社はやはり離職補償を支払わなくてもよいと考えられるのではないかと思われる。具体的には、董事への就任それ自体無報酬である場合、董事任期期間中に董事役職を解任するのではなく、任期が満了した場合、董事個人の過誤により、役職から解任された場合(董事に法律規定又は定款規定に違反している行為があった等を含むが、これらに限らない)などである。勿論、離職補償をめぐって争いが生じないよう、会社は定款(又は株主による董事選任決議)に条項を個別に設けて、会社が離職補償を支払う状況及び支払わない具体的な状況、離職補償を支払う場合の補償金額の具体的な計算方法等を明確に約定しておくのが望ましい。
また、董事役職の解任と董事・会社間の労働契約関係の解除は、直接的な関係はない(董事と会社とが労働契約関係を構築していることを前提とする)ことにも注意したい。労働契約関係は、董事役職の解任により自動的に解除し又は終了することにはならない(労働契約中で明確な約定がある場合を除く)。会社にて支払う必要があり得る離職補償と、会社が労働契約関係の解除により支払う可能性のある経済補償金も、まったく別の名目の費用である。もしもある者の董事役職が解任され、尚且つその者と会社との労働契約関係も同時に解除された場合は、会社がその者に対し、離職補償と経済補償金を同時に支払わなければならない可能性も排除できない。
■会社の利益分配期限
2017年9月1日から施行されている「『中華人民共和国会社法』適用の若干事項に関する最高人民法院の規定(四)」(以下「『司法解釈四』」という)第13条、第14条及び第15条では、株主は訴訟を通じて会社に利益分配を強制することができると定めており、主には株主利益分配権の訴訟主体(会社を被告とする)、先決条件(会社の株主会又は株主大会において、具体的な分配方案が含まれる有効な決議案が採決されたことを前提とする)及び例外情況などについて定められているのだが、利益分配の具体的な期限については定められていなかった。今回の「司法解釈五」では、第4条にこの点についての明確な規定が設けられている。
「司法解釈五」の規定に基づき、会社利益分配の期限について下表に簡潔にまとめる。
ケース |
期限のパターン |
分配を実施すべき期限 |
決議に規定はあるが、定款には規定なし |
決議上の期限が1年以下である |
決議上の期限 |
決議上の期限が1年超である |
1年 |
|
決議に規定あり、定款にも規定あり |
決議上の期限は定款上の期限を上回らず、定款上の期限は1年以下である |
決議上の期限 |
決議上の期限は1年以下であり、定款上の期限は1年以上である |
||
決議上の期限は1年超だが、定款上の期限を上回らない |
1年 |
|
定款上の期限は決議上の期限を上回らず、決議上の期限は1年以下である |
定款上の期限(決議が定款に違反する場合、株主は決議上の期限取消しの申請が可能) |
|
定款上の期限は1年以上であり、決議上の期限は1年以下である |
||
定款上の期限は1年超だが、決議期限を上回らない |
1年 |
|
決議に規定はないが、定款に規定あり |
定款上の期限は1年以下である |
定款上の期限 |
定款上の期限は1年超である |
1年 |
|
決議、定款のいずれにも規定なし |
—— |
1年 |
注釈:上述の「分配を行うべき期限」の欄にいう1年とは、いずれも決議がなされた日から1年以内を指す。
■有限責任公司の株主の重大な対立解決メカニズム
「司法解釈五」が公布されるまでは、有限責任公司の株主に重大な対立が生じた場合、株主は「会社法」第74条の規定に基づき、会社に対し合理的な価格での株式買い取りを求めることができた。もしもこの重大な対立が原因で、会社が正常に運営できなくなってしまった場合は、会社のデッドロックを打開するために、株主は「『中華人民共和国会社法』適用の若干事項に関する最高人民法院の規定(二)」(以下「『司法解釈二』」という)第1条に基づき、会社解散の訴えを提起することができた。また、「司法解釈二」第5条では、会社解散の訴えにおいて、会社と株主は協議した上で、会社又は株主が株式を買い取り、又は減資などの方式によって紛争を解決することができると定めている。
これまでの法律規定及び司法実践をベースにして、「司法解釈五」では株主の重大な対立には調停を重視しなければならないことを改めて強調し、調停の範囲を「会社解散に関する訴訟案件」から「株主の重大な対立案件」にへまで拡大し、また、株主の重大な対立の5通りの解決方法を明確に挙げている。具体的には、①会社が一部の株主から株式を買い戻す方法。②その他の株主が一部の株主から株式を譲り受ける方法。③第三者が一部の株主から株式を譲り受ける方法。④会社の減資。⑤会社分割、である。なお、調停手順は、株主の重大な対立案件を処理する前に事前に踏んでおかなければならない手順というわけではなく、会社と株主が合意に至らなかった場合には、法院はやはり速やかに判決を下さなければならない。
終わりに:総じていえば、「司法解釈五」は簡潔な短文ながらも実効性が高く、案件の審理・判決における争点や対立といった問題に対し的確性及び実効性を大いに有し、当該司法解釈の目標、運用性を体現し、中・小株主の権益保護に力を入れており、その実施状況については引き続き関心を払いたい。
(里兆法律事務所が2019年9月2日付で作成)
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