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新型コロナウィルスによる感染症発生状況下における「不可抗力」の適用について考察する

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2020年11月9日

新型コロナウィルスによる感染症の発生を受け、各種の契約を履行するうえで大なり小なりの影響が生じているが、「不可抗力」を理由に、契約履行に対する抗弁ができるのかどうかが、当事者が関心を寄せるテーマとなっている。「不可抗力」に該当する範囲を明確にし、「不可抗力」を正しく適用して、契約履行をめぐるトラブルを解決できるよう、本稿では主に「不可抗力」の適用について分析し、考察する。

一、背景

2020年初め、新型コロナウィルスによる感染症発生状況(以下「感染症発生状況」という)が中国、及び世界中で相次いで勃発した。感染症発生状況への対策として、政府部門は次々と拡大防止措置を講じてきた(例えば、隔離、都市封鎖、交通規制等)が、これらの拡大防止措置及び感染症発生状況そのものが契約の履行に支障をきたし、影響をもたらすことになるのだが、当事者は「不可抗力」を理由に抗弁できるかどうかが、契約を履行するうえでの重要なテーマとなっている。

最高人民法院は2020年4月20日に「新型コロナウィルスによる感染症発生状況に係る民事事案を法に依拠し適切に審理するための若干事項に関する指導意見(一)」を公布し、今般の感染症発生状況下における「不可抗力」の適用ルールを明確にしているが、2003年にSARS感染症が発生した際に、最高人民法院が公表した「伝染性SARS型肺炎の拡大防止期間において法に依拠し人民法院の審判、執行作業を貫徹することに関する通知」、SARS感染症発生当時の司法判例、並びに近頃、省ごとの高級法院が公表した感染症拡大防止期間における民商事紛争を処理することに関する指導意見又は解答における「不可抗力」の適用ルールとおおむね一致している。本稿では、既存の法律規定、裁判規則、指導意見等を踏まえながら、「不可抗力」の適用について分析し、考察する。

二、「不可抗力」適用

1.「不可抗力」を適用する際の基本原則

「民法総則」第180条、「契約法」第117条の規定によれば、「不可抗力」とは、予見できず、回避できず、克服することのできない客観的状況をいい、「不可抗力」が適用されるためには、「不可抗力により契約を履行できなくなる」という条件を満たさなければならない(即ち、「不可抗力」と「契約が履行できなくなる」こととの間に因果関係がなければならない)。以下、具体的に分析する。

1)予見できず、回避できず、克服することができないこと

a)まず、感染症発生後に当事者間で締結する契約については、契約締結時にすでに感染症が発生しているため、予見できないことには該当せず、原則として、「不可抗力」を適用することはできない。

b)次に、感染症発生状況が、契約の成立後、履行前に発生した場合、今回のような感染症発生状況の勃発は突発性を有し、大衆が予見することはできず、勃発後から今日まで確かな治療方法もないため、感染症発生状況は予見できず、回避できず、克服することのできない客観的状況に該当すると考えられる。また、政府部門が感染症発生状況への対策として講じている感染拡大防止措置は、大部分の当事者にとって、予見できず、回避できず、克服することのできない客観的状況に該当する可能性がある。

c)最後に、履行期間満了後に感染症発生状況が発生した契約の場合、このような状況はすでに履行の遅延にあたり、たとえ感染症発生状況及び政府拡大防止措置が不可抗力事由に該当したとしても、「不可抗力」は適用されない。この点については、すでに「契約法」第117条で明確に定められている。

2)因果関係があること

a)「不可抗力」を適用できるかどうかは、「不可抗力」と「契約履行不能」との間に因果関係があるかどうかがポイントとなる。今回の感染症発生状況を見てみると、客観上、感染症発生状況が深刻な地域と軽微な地域、感染症発生状況との関連性が高い契約と関連性がそれほど高くない契約があるなどの違いがある。そのため、感染症発生状況と「契約履行不能」との間に因果関係があるかどうかもすべてが必ずしも同じではなく、個別のケースごとに分析していかなければならない。通常であれば、金銭給付義務を履行内容とする契約の当事者は、金融市場での取引再開が延期となるといった特別な状況を除き、感染症の発生は、その金銭給付行為に対して実質的な支障をきたさないため、通常、「不可抗力」は適用されない。

b)なお、ここにいう因果関係とは、直接の必然的な因果関係を指すことに注意したい。個別のケースにおいて、直接でも、必然的でもない因果関係には、「不可抗力」が適用されるのは難しいと考えられる。例えば、当事者が感染を「恐れ」、契約履行を拒否した場合、感染症発生状況と「契約履行不能」との間に直接の必然的な因果関係はないため、「不可抗力」を適用することはできない。

以上から、感染症発生状況及び政府の感染拡大防止措置に「不可抗力」が適用されるか否かは、「一律に例外なく」論じることはできず、個別のケースごとに、上記の2大原則に照らして、総合的に認定する必要がある。

2.「不可抗力」を適用する際の具体的な事項について

1)「不可抗力」の起算日と終了日

a)感染症発生状況は「不可抗力」の起算日と終了日として、一概に論じることはできず、個別のケースごとに具体的に検討する必要があり、感染症発生状況の実際の又は最初の発生日がいつなのかとは必然的な関連性はない。

b)この点について、「上海市高級人民法院『新型コロナウィルスによる感染症発生状況に係る事案の法律適用問題に関するQ&A』(二)」によると、「不可抗力」の起算日と終了日は、原則として、「具体的事案において新型コロナウィルスによる感染症発生状況が、契約の履行、契約目的の実現又は当事者による権利行使に対して及ぼす実際の影響に基づいて確定しなければならない」ものであり、影響が及ぶ期間を判断できない場合、通常、「契約の履行地又は当事者住所地の省級人民政府による重大突発公共衛生事件対応の発動時期及び終了時期を参照し確定することができる」とされている。

2)「不可抗力」の法的効果

a)「不可抗力」が適用されることで、その責任の一部又は全部の免除が可能となる。但し、「不可抗力」により免除されるのは、当事者の契約不履行により生じる違約責任であり、当事者が契約を履行しなくてよいというわけではなく、また責任を免除される範囲は、「不可抗力」により契約を履行できない部分である。

b)「不可抗力」により契約目的を実現できなくなった場合、契約を解除することができる。しかし、契約が感染症発生状況の影響のため履行できない場合、当然に解除されるわけではなく、「不可抗力」が契約の目的を実現できなくなるほど深刻であった場合に、初めて契約を解除することができるのであって、契約の目的が実現できなくなったかどうかについては、契約の種類、具体的な履行内容、感染症発生状況が契約の履行を妨げた度合いを踏まえて、総合的に判断しなければならない。

3)「不可抗力」と「事情の変更」

a)今回の感染症発生状況に関しては、「不可抗力」を適用し得るほか、「事情の変更」[1]も適用される可能性があるため、「不可抗力」と「事情の変更」の違いを明確にしておくことは、「不可抗力」を正しく適用する上で重要な意義をもつことになる。

b)「不可抗力」と「事情の変更」の両者の最も顕著な違いは、「不可抗力」は「契約を履行できないこと」と結びつく(即ち、感染症発生状況のために、契約を履行できなくなる)が、「事情の変更」は「明らかな不公平」と結びつく(即ち、感染症発生状況によって、契約が履行できなくなったわけではないが、契約の履行を継続させると、一方の当事者にとって明らかに不公平になる)。例えば、契約で、貨物の納入地が外地と約定されており、企業が感染症発生状況の深刻な地域に位置していた場合、交通規制により貨物の納入ができなくなるため、このときは「不可抗力」が適用される。もしも企業が感染症発生状況のやや軽微な地域に位置していた場合、企業所在地では交通規制が行われるわけではなく、貨物を納入することは可能だが、通常の路線では感染症発生状況が深刻な地域を経由し、交通規制により通行できないため、貨物を納入するためには、どうしても遠回りしなければならず、それにより運賃が大幅に上昇してしまう。この場合、履行を継続させることは、一方の当事者にとって明らかに不公平となるため、「事情の変更」が適用される。

4)「不可抗力」の通知及び証明

a)「不可抗力」を適用する際には、当事者は「不可抗力」事由の発生後、遅滞なく相手方に知らせ、損失のさらなる拡大を防ぐようにしなければならず、相手方に通知すると同時に、通常、合理的な期日までに、係る証拠を提供しなければならない(例えば、交通遮断、貨物取引制限、営業休止、業務再開延期、業務再開の不許可等に関する政府からの通知文書、中国国内の各貿易促進委員会から発行される「不可抗力」に関連する事実証明書等がある)。

b)なお、相手方への通知、及びその後の相手方との意思疎通、協議の過程においては、係る証拠(例えば、相手方への通知、「不可抗力」に係る証拠等)を固め、残しておき、今後発生し得るトラブル、訴訟に備えておくのがよい。

3.「不可抗力」を適用する際の注意事項

1)準拠法(即ち、契約に適用される法律)を確認すること異なる法域であっても、「不可抗力」に対する姿勢、法原則等において共通点が多く存在しているが、制度、文化や司法実践が異なることでの違いもある。よって、「不可抗力」を適用する際に、最も重要なのは、まず最初に準拠法を確認しておくことである。

2)契約に別段の取決めがある場合は、契約での取決めに従い実施すること契約法の分野では、無効・撤廃といった状況がない限り、契約中の条項での取決めは当事者の間の「最高の法律」である。従って、契約で「不可抗力」について特段の取決めがある場合、その契約に基づいて実施しなければならない。例えば、「不可抗力」発生後○○日以内に通知し、証明を提供すると約定する契約もあれば、「不可抗力」発生後○○日を経過した場合、当事者は契約を解除することができると約定している契約もある。

3)現地政府部門の公表した感染症発生状況下における契約履行に関する指導意見を参考にすること実践では、ある特定のタイプの契約に対し、現地政府部門が感染症発生状況下における契約履行に関する指導意見を制定する場合があり、参考にするとよい。例えば、上海市住宅及び都市・農村建設管理委員会並びに上海市司法局が共同で「新型コロナウィルス感染症発生状況による影響下での上海市建設工事契約履行に関する若干指導意見」を公表し、感染症発生状況を原因とする建設工事の工期順延、コスト増加への対応等について指導的意見を提起している。

 三、終わりに

実務運用上、当事者は上記法律の規定、法原理に基づき、個別のケースごとの実際の状況を踏まえ、「不可抗力」が適用できるかどうかを前もって判断し、結果を大方見込んでおくようにするのがよい。その後、友好的な話し合い等を通じて、相手方とは「不可抗力」の適用について検討し、もしも合意できるのであれば、書面の形式をもって遅滞なく合意内容を固めておくようにするのが好ましく、そのようにしておけば、契約履行をめぐるトラブルを迅速且つ穏便に解決するうえで、通常、一層有利であり、一層実効性を高めることができる。

(里兆法律事務所が2020年4月20日付で作成)

[1] 「『中華人民共和国契約法』適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(二)」第26条:契約が成立した後の客観的状況に、当事者が契約締結時に予見できず、不可抗力によらず商業リスクに該当しない重大な変化が生じたことにより、契約の履行を継続することが一方当事者にとって明らかに不公平となり、又は契約目的を実現することができなくなり、当事者が人民法院に契約の変更又は解除をもとめた場合、人民法院は公平の原則に基づき、かつ事案の実際の状況を踏まえ、変更又は解除するか否かを確定しなければならない。

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