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「民法典」は企業にどのような変化をもたらすか~「契約編」を読み解く

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2020年12月18日

概要:

中国の「民法典」は、早くは1954年から立法作業が進められたものの、何世代にもわたり完成されなかった。それが今年の2020年5月28日についに採決された。計七編、1260条からなり、2021年1月1日から施行される。「民法典」の施行後は、「契約法」等の基本法律が同時に廃止となる。本稿では、「民法典」における「契約編」の全体としての変化を簡潔に紹介し、「契約編」が企業にもたらす変化、影響を重点的に考察する。

 本文:

 中国「民法典」が2021年1月1日に正式に施行された後、現行の「民法総則」、「契約法」、「担保法」、「物権法」、「不法行為法」、「婚姻法」、「相続法」、「養子縁組法」等の民事基本法は同日に廃止となる。現行のこれら民事基本法律は、企業、個人に関するあらゆる方面の事項に関係するものであり、「民法典」はこれら民事基本法律を吸収し、一部の法典の中に組み込まれるため、基本法律制度を覆すような修正が行われるわけではないものの、変化が少なからずあるのは確かである。「民法典」の七つの編章[1]のうち、「第三編 契約」(以下「契約編」という)は企業との関連性が最も高く、「契約編」が企業にどのような変化や影響をもたらすのか、簡潔に考察してみる。

 一、契約法律体系の全体的な変化

 「契約法」と「契約編」の体系上の変化について、下表に簡潔に整理し比較する。 

項目

「契約法」

「契約編」

施行日

1999年10月1日からの施行、2021年1月1日に廃止。

2021年1月1日からの施行。

体系上の変化

総則と分則という2つの部分に分かれ、計23章[2]、428条ある。

総則、典型的契約、準契約という3つの分編に分かれ、計29章[3]、526条ある。「契約法」をベースにし、6章、98条が追加された。「契約編」によりもたらされる変化は、主に以下の通りである。

1.「契約法」総則部分に対するもの:「契約編」の第1分編通則の中で、主に次の変更がなされた。(1)「契約の保全」という章が新たに追加された。(2)「契約法」の「その他規定」という章が削除された。(3)「契約法」第八章「その他規定」の一部内容が「契約編」の通則部分に移された。

2.「契約法」分則部分に対するもの:「契約編」の第2分編典型的契約の中で、主に次の変更がなされた。(1)「保証契約、ファクタリング契約、不動産管理サービス契約、パートナーシップ契約」という計4章が新たに追加された。(2)「契約法」の「媒介契約(中国語:居間合同)」という章が「仲介契約」へと名称変更した。

3.「契約編」では、「第二十八章 事務管理、第二十九章 不当利得」という計2章が、第3分編「準契約」として新たに追加された。

 また、「契約編」により、「契約法」の調整が行われたほか、「民法典」のその他の編においても「契約法」についての追加又は削減が行われており、それらは、主に以下の通りである。

  1. 「契約法」第一章の一部条項(平等原則など)について、「民法典」総則編では、これをその第一章の基本規定の中に組み込んでおり、「契約編」ではその個別規定がなくなっている。
  2. 「契約法」第三章の取消し可能な契約、無効契約等に関する規定は、民事法律行為が契約についても網羅するため、契約編ではなく、「民法典」総則編の第六章民事法律行為の中に組み込まれている。
  3. 「契約法」第三章での代理権に関する規定について、「民法典」総則編では、第七章の代理という個別の章が設けられており、契約編の中で代理権に関する規定がなくなっている。
  4. 物権の移転、担保類の契約と密接に関連するものは、「民法典」物権編に組み込まれている。

 二、契約法律内容に関する幾つかの実質的な改正箇所について

上述した「契約法律に関する体系上の全体的な変化」を踏まえると、「契約法」及びそれに関係する法令と比較してみた場合、「契約編」を通じて調整された条項は多く、関係してくる契約法律に関する内容は広範にわたるものであることがわかる。差し当たりの統計によると、「契約編」が関係してくる実質的な改正(現行法令に対するもの)は約112箇所に及ぶ(新たに追加された内容は含まない)。紙面の関係上、これらを逐一紹介することは現実的ではないため、参考まで企業の平常時の経営に関係するいくつかの実質的な改正内容に絞って解説する。

「契約法」及び関連法令での規定

「契約編」での規定

筆者による解説

(1)利益を受ける第三者規則[4]が調整された

「契約法」第64条:債務者が第三者に対し債務を履行することを当事者が約定した場合において、債務者が第三者に対し債務を履行しないとき、又は債務の履行が約定を満たさないときは、債務者は、債権者に対し違約責任を負わなければならない。

「契約法」第84条:債務者は契約上の義務の全部又は一部を第三者に移転させる場合、債権者の同意を得なければならない。

第522条:債務者が第三者に対し債務を履行することを当事者が約定した場合において、債務者が第三者に対し債務を履行しないとき、又は債務の履行が約定を満たさないときは、債権者に対し違約責任を負わなければならない。第三者が自己に対し債務を履行するよう直接に求めることができると法律で規定している、又は当事者が約定した場合、第三者が合理的な期日までに、明確に拒否しておらず、債務者が第三者に対し債務を履行しないとき、又は債務の履行が約定を満たさないときは、第三者は債務者に対し違約責任を負うよう求めることができる。債務者の債権者に対する抗弁は、第三者に対し主張することができる。

第524条:債務者が債務を履行せず、第三者が当該債務の履行について合法的な利益を有する場合、債務者に代わって、第三者が債権者に対し履行することができる。但し、債務の性質を踏まえ、当事者間の約定、又は法律規定に基づき、債務者しか履行できない場合は除く。債権者が第三者の履行を受け入れた後、債権者の債務者に対する債権は第三者に譲渡されるが、債務者と第三者で別段の約定がある場合は除く。

第552条:第三者と債務者が債務の加担について約定し、且つこれを債権者に通知したとき、又は第三者が債権者に対し、債務を加担する意向があることを述べたとき、債権者が合理的な期日までに明確に拒否していない場合、債権者は第三人が負担する意思のある債務の範囲内で、債務者と連帯して債務を負担するよう求めることができる。

■ 「契約法」に基づくと、「第三者に対する契約履行」にいう第三者は、債務者に対し違約責任の負担を求めることができない。なお、「民法典」では、第三者「法律で規定している、又は当事者が約定した」場合において、債務の履行を直接に債務者に求め、且つ違約責任を主張することができることが明確にされている。

■ 「民法典」では第三者弁済制度を新たに追加している。なお、当該制度では、第三者が「当該債務の履行に対して合法な利益を有する」場合に限るという前提条件が付けられており、そうでなければ、代わって履行することができない。

■ 「民法典」では、債務加担規則も新たに追加されており、第三者が一方的に承諾する形式にて債務を加担できることが明確にされているが、債権者が合理的な期日までに明確に拒否していないことが前提となる。

(2)情勢変更制度が整備された

「『中華人民共和国契約法』適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(二)」第26条:契約が成立した後の客観的状況において、当事者が契約締結時には予見不可能であり、不可抗力によらず商業リスクに該当しない重大な変化が生じたため、契約の履行を継続することが一方当事者にとって明らかに不公平となり、又は契約目的の実現が不可能となることで、当事者が人民法院に契約の変更又は解除を求めた場合、人民法院は公平原則に基づき、且つ事案の実際の状況を踏まえ、変更もしくは解除するか否かを確定することになる。[5]

第533条:契約が成立した後、契約のベースとなる条件に、当事者が契約締結時には予見不可能であり、商業リスクに該当しない重大な変化が生じたため、契約の履行を継続することが一方当事者にとって明らかに不公平となる場合、不利な影響を受ける当事者は相手方と改めて協議することができる。合理的な期日までに、協議がまとまらなかった場合、当事者は人民法院又は仲裁機関に対し契約の変更又は解除を求めることができる。人民法院又は仲裁機関は事案の実際の状況を踏まえ、公平原則に基づき、契約を変更し、又は解除する判断を行うことになる。

■ 「民法典」では「非不可抗力」は強調されておらず、不可抗力と情勢変更については、明確に区分し境界線を引くことが難しく、「民法典」での新たな規定では、情勢変更規則を適用するハードルを下げ、不可抗力に対する認定を前提としなくなった。

■ 「民法典」では、仲裁機関も情勢変更原則を適用することができるとの内容が新たに追加されている。

(3)契約保全制度が整備された

「『中華人民共和国契約法』適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈(一)」第20条:債権者が第三債務者に対し提起した代位権訴訟について、人民法院が審理を経て代位権の成立を認定した場合、第三債務者が債権者に弁済債務を履行することで、債権者と債務者との間及び債務者と第三債権者との間における相応の債権債務関係は消滅する。

「契約法」第74条:債務者が自己の期限の到来した債権を放棄し又は無償で自己の財産を譲渡し、これにより債権者に損害を与えた場合、債権者は人民法院に対し債務者の行為の取り消しを請求することができる。債務者が明らかに理不尽な低価格をもって財産を譲渡し、これにより債権者に損害を与え、且つ譲受人が当該事情を知っている場合、債権者は人民法院に対し債務者の行為の取り消しを請求することができる。取消権の行使の範囲は債権者の債権を限度とする。債権者が取消権を行使するために必要な費用は、債務者の負担とする。

第537条:人民法院が代位権の成立を認定した場合、債務者の相手方が債権者に対し義務を履行し、債権者が履行を受けた後は、債権者と債務者、債務者と相手方との間における相応の権利義務は終了する。債務者の相手方に対する債権、又は当該債権に係る従たる権利について、保全、執行の措置が講じられ、又は債務者が破産した場合、係る法律の規定に従い取り扱うものとする。

第539条:債務者が明らかに理不尽な低価格をもって財産を譲渡し、明らかに理不尽な高価格をもって他人の財産を譲り受け、又は他人の債務のために担保を供することで、債権者による債権の実現に影響をもたらし、債務者の相手方が当該事情を知っている、又は知っているはずである場合、債権者は人民法院に対し、債務者の行為の取り消しを求めることができる。

■ 契約法では定められていなかった、「債権者が係る権利を主張するための措置(保全、執行又は債務者の破産)をすでに講じている」ことに対し、契約の保全は適用されるか否かについて、「民法典」での新規定によれば、このような状況下で債権者が契約保全制度に基づき代位権を行使して優先的弁償を受ける状況は除外されており、契約保全制度の適用範囲がさらに明確になった。

■ 明らかに理不尽な高価格をもって他人の財産を譲り受ける場合を除き、「民法典」では「他人の債務に担保を供する」ことを、債権者による取消権の行使範囲に組み入れ、債権者の権益保障を強化した。

■ 債務者の相手方が知っている場合を除き、「民法典」では、「債務者の相手方が当該事情を知っているはずである」状況を新たに追加し、債権者による取消権の行使の条件を緩和している。

(4)契約がデッドロック[6]に陥った場合における契約解除に進展があった

「契約法」第110条:一方当事者が非金銭債務を履行せず、又は非金銭債務の履行が約定を満たしていない場合、相手方は履行を請求することができる。但し、以下に規定する事由のいずれかに該当する場合を除く。(一)法律上又は事実上履行不能である場合。(二)債務の目的物が強制履行に適さない又は履行費用が過度に高額な場合。(三)債権者が合理的な期日までに履行の請求をしなかった場合。

第580条:一方当事者が非金銭債務を履行せず、又は非金銭債務の履行が約定を満たさない場合、相手方は履行を請求することができる。但し、以下に規定する事由のいずれかに該当する場合を除く。(一)法律上又は事実上履行不能である場合。(二)債務の目的物が強制履行に適さない又は履行費用が過度に高額な場合。(三)債権者が合理的な期日までに履行の請求をしなかった場合。

前項に定める適用除外となる事由のいずれかに該当することで、契約の目的を実現できないことになった場合、人民法院又は仲裁機関は当事者の請求により、契約上の権利義務関係を終了させることができるが、違約責任の負担には影響しない。

■ 契約遵守を徹底し、モラルリスクを軽減し、違約側が違約による解除で利益を獲得することを防ぐために、従来の「契約法」上では、契約を遵守した側だけに一方的な解除権を付与していた。しかし、近年では、司法実践において契約のデッドロックという新たな問題が発生している。これについて、「民法典」では、違約する側による一方的な解除を認める試みを行っている。

■ もしも違約側に解除権があることを認めた場合、契約遵守原則を大きく覆すことになり、また深刻なモラルリスクを引き起こし、取引の安全及び秩序に影響をもたらすことになる。従って、法理学の世界では、この制度の適用には慎重な見方が示されており、まずは情勢変更等の状況を排除すべきとし、それから「全国法院民商事審判作業会議紀要」(いわゆる「九民紀要」)第48条の規定[7]等を参考し、他の諸要素を総合的に勘案したうえで、はじめて契約を解除できるかどうかを決定することができる、としている。

 三、終わりに

以上は、あくまでも「契約編」におけるいくつかの実質的な改正について考察したものであり、紙面の関係もあり、さらには「民法典」の体系が膨大なものであるため、「契約編」におけるその他の実質的な改正事項(例えば、「契約編」 分則の「保証契約」では、保証に係る取決めがはっきりしていない場合に、これまでは連帯保証と推定するとされていたのが、一般保証と推定するへと変更されたこと等)については、今後、個別に検討していく必要がある。

なお、「民法典」は複数の民事単行法をまとめて編さんした新興の法典であることに鑑み、具体的に適用していく過程では、様々な問題が生じてくることが考えられるため、将来、関連する司法解釈が公布される可能性がある。この点について、定期的に読者の皆さんと共有できるよう、筆者は引き続き関心を払いたい。

 (里兆法律事務所が2020年6月9日付で作成)

[1] 「民法典」七編には、総則編、物権編、契約編、人格権編、婚姻家庭編、相続編、不法行為編が含まれる。

[2] 「契約法」23章には、一般規定、契約の締結、契約の効力、契約の履行、契約の変更と譲渡、契約の権利義務の終了、違約責任、その他規定、売買契約、電力・水・ガス・熱エネルギー供給契約、贈与契約、金銭貸借契約、賃貸借契約、ファイナンスリース契約、請負契約、建設工事契約、運送契約、技術契約、寄託契約、倉庫保管契約、委任契約、斡旋契約、媒介契約(中国語:居間合同)。

[3] 「民法典」29章には、一般規定、契約の締結、契約の効力、契約の履行、契約の保全、契約の変更と譲渡、契約の権利義務の終了、違約責任、売買契約、電力・水・ガス・熱エネルギー供給契約、贈与契約、金銭貸借契約、保証契約、賃貸借契約、ファイナンスリース契約、ファクタリング契約、請負契約、建設工事契約、運送契約、技術契約、寄託契約、倉庫保管契約、委任契約、不動産管理サービス契約、斡旋契約、仲介契約パートナーシップ契約事務管理不当利得が含まれる。

[4] 利益を受ける第三者規則とは、主に、第三者に対する契約履行、第三者による弁済、及び債務の加担を指す。これらのいずれも、利益を受ける第三者が契約に介入することにより、契約の相対性を覆すことになる。実践では、これらの制度はすでに広範囲で運用されているが、長きにわたり系統的な成文法の規定がなされていなかった。「民法典」では、次の条項により、当該領域において法整備が物足りない部分を補った。

[5] 「契約法」では法律の次元から情勢の変更について規定されておらず、単に取引の実践において生じた、契約履行における客観的状況に重大な変化が生じたことをもって司法解釈が公表されているだけである。

[6] 契約のデッドロックとは、主に、長期契約において、一方の当事者が経済情勢の変化、契約履行能力等の原因から長期契約を継続して履行することがあり得なくなり、契約を繰上げ解除する必要があるが、相手方当事者が契約の解除を拒否することを指す。

[7] 【違約側の提訴による解除】違約側は契約を一方的に解除する権利をもたないが、一部の長期継続契約(例えば、不動産賃貸借契約)を履行する過程において、双方が契約についてデッドロックに陥った場合、違約側の提訴による契約解除を一切認めないことは、場合によっては、双方にとって不利になることがある。この前提において、次の条件に該当するとき、違約側が提訴し、契約の解除を請求する場合、人民法院は法に依拠して支持しなければならない。(1)違約側に、悪意をもって契約に違反するような状況が存在しないとき。(2)違約側が引き続き契約を履行した場合、違約側にとって著しく公平性に欠けるとき。(3)契約遵守側が契約解除を拒否した場合、信義誠実原則に違反するとき。

人民法院が契約解除の判決を下した場合、違約側の本来負うべきであった違約責任は、契約の解除により減少され、又は免除されてはならない。

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