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「地区の枠を超えた事務所の工商登記、雇用問題」の新たな考察

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2022年6月14日

「工商外企字〔2006〕81号」文の廃止、新型コロナウイルス感染防止・抑制の常態化という背景の下、よく取り上げられる「地区の枠を超えた事務所の工商登記、雇用問題」の新たな考察

 

概要:「外国投資者が投資した会社の審査許可登記管理に係る法律適用の若干事項に関する執行意見」(工商外企字〔2006〕81号)がすでに2020年12月1日に「86件の規範性文書の廃止に関する国家市場監督管理総局による公告」(国家市場監督管理総局公告2020年第56号)によって廃止されている。このため、本稿では、事務所について工商登記手続きを行う必要があるのか、合法的に雇用するにはどうすればよいか?また、事務所として、新型コロナウイルス感染防止・抑制対策の実施状況についての政府部門による「訪問」検査にどのように対応すればよいかといった問題について、考察する。

本文:

 一、「工商外企字〔200681号」文が廃止された後における事務所の工商登記

「工商外企字〔2006〕81号」文第二十五条によれば、「会社登記機関は外国投資者が投資した会社の事務所を対象とする登記を受け付けない……事務所の名義で経営活動に携わる場合、会社登記機関が法に依拠し取り締まる」となっている。2020年12月1日以前において、本条文が、外商投資企業の事務所が工商登記手続きを行う必要がないことに関する主な根拠であった。一方、内資企業については、明確な法律根拠がないものの、実態として、内資企業の事務所についても工商登記手続きを行う必要はこれまでずっとなかった。

2019年3月15日以降、「外商投資法」、「外商投資法実施条例」等の外国投資者による対中投資に係る法規、政策の公布に伴い、外国投資者による対中投資に係る新たな法体系がおおむね形成された。こうした状況の中で、法改正及び国内資本・外資管理一本化の要求に応じるべく、外国投資者による対中投資に係る法規、政策のうち、「工商外企字〔2006〕81号」文を含む、相対的に「古い」ものは相次いで廃止されている。これによって、外商投資企業の事務所が工商登記手続きを行う必要がないことに関する法的な根拠がなくなったことになる。

なお、現在、中国で進められている「放管服」改革(行政の簡素化と権限委譲、権限委譲と管理の両立、サービス向上)及び国内資本・外資管理一本化の要求と合わせて考えれば、理論的には、外商投資企業のビジネス環境も最適化が持続的に推進されることになると考えられる。そのため、「工商外企字〔2006〕81号」文は「時代に合わない」として廃止されても、それによって、事務所に対する管理上の要求が厳しくなることはなく、即ち、事務所について工商登記手続きを行わなくてもよいことには変わりはないと考えられる。

 二、「経営活動」の定義

 事務所とは、通常、会社が登録地以外の場所に設置した連絡機構を指し、業務上の連絡や市場開拓などを目的とし、経営活動を展開しないものである。

なお、経営活動について、現時点において法律上、明確な定義は定められていない。実務では、「経営活動」について主に次の2通りの解釈がある。即ち、法律の観点からは、生産型会社の事務所が製品の選別、加工、製造、販売及びこれらに関連する調達、販売促進、倉庫保管、配送、取り付け、調整、メンテナンス等の活動に従事する場合、並びに非生産型会社の事務所がサービス事業を直接請け負い、関連するサービスを提供する場合、経営活動に従事していると認定することができるとされている。一方、会計上の観点からは、経営活動とは、会社の投資活動及び資金調達活動以外のすべての取引及び事項を指すことになっている。

上記解釈によれば、事務所が従事可能とされている活動は限られており、通常、業務上の連絡(例えば、会社への市場情報提供、連絡・打ち合せ、製品の展示、市場リサーチ、技術交流等の活動)である。会社の経営活動と比べると、事務所は多くの場合「架け橋」的な役割を担う存在であり、実際に製品の生産、事業経営に参加することはなく、また顧客や仕入先と取引関係等を持つこともない。そのような活動を行えば、経営活動を行っているとして、工商部門から、分公司又は子会社を設立して工商登記手続きを行うよう要求されることになる。

三、事務所で働く従業員の社会保険納付

 事務所は法定の雇用者ではないため、理論的には、事務所で働く従業員は、いずれも会社と労働契約を締結しなければならない。社会保険納付については、事務所と会社が同じ場所に存在しておらず、且つ従業員の多くが事務所所在地に居住しているため、現地で社会保険を納付したいという従業員の要望に応えるために、会社が第三者業者を通じて従業員の社会保険を現地で納付している場合が多々ある。しかし、「社会保険法」によれば、社会保険の納付主体は労働契約の締結主体と一致しなければならないと規定されているため、このようなやり方は合法ではない。

上述した問題を解決するために、適法性確保の視点で考えると、現地において分公司又は子会社を設立するのがベストであると考えられる。なお、コストや管理等の原因により、このような方法をとらない会社もある。その場合、次善策として、会社は従業員所在地の人的資源サービスに携わる第三者業者と提携する(提携方法としては、業務アウトソーシング又は労務派遣が考えられる)といったリスクが相対的に低い方法を選ぶことも可能である。また、労務派遣を選択した場合、「労務派遣暫定規定」によると、理論的には、「臨時的、補佐的又は代替的なポジションで実施され」、且つ「派遣される労働者の人数は会社で雇用される総人数の10%を超えてはならない」ことになっている。

しかし、一部の地域(例えば、北京、広東等の地域)では、社会保険に対する監督管理が厳格化される傾向が強まっており、上述した代替案に伴うリスクも高まっている。このため、現地の政策に常に注意を払い、対応策を適時調整することが望しい。

四、新型コロナウイルス感染防止・抑制が常態化する中での対応

新型コロナウィルス感染症の大流行後、中国の各レベルの政府は、非常に厳しいコントロール措置を講じていることから、会社、住宅区など人が集まるエリアへの訪問調査を通じて、人数を確認し、人の移動状況を把握し、そして、これらの活動は多くの場合、複数の政府部門によって共同で展開されるであろうことが予想される。

政府部門が新型コロナウイルス感染防止・抑制対策を実施する過程において、事務所に対する調査・確認も行われることは必至であり、そうなれば、事務所はさらに厳しい試練にさらされることになるであろう。連絡機構でありながら、大量の駐在員がいる、生産経営活動が行われている等といった状況がある場合、違法行為が行われているとの疑いがかけられるだけでなく、新型コロナウイルス感染防止・抑制対策にもマイナスの影響をもたらす可能性もあるため、政府部門から「目をつけられる」ことは必至であり、ひいては事務所の運営停止を直接命じられる可能性もあり、そうなれば、会社の事業及び名誉に影響を与えるおそれがある。

このため、新型コロナウイルス感染防止・抑制の常態化という背景においては、事務所に対してさらに厳格な管理を実施することが望ましく、また、その機能は「連絡」のみに限定するようにし、経営活動を実施しないようにしなければならない。どうしても経営活動を実施する必要がある場合、慎重を期するべく、現地に分公司又は子会社を設立するのが最もよい。

終わりに

 「工商外企字〔2006〕81号」文の廃止、新型コロナウイルス感染防止・抑制の常態化といった複雑な事情が背景にあるものの、事務所が実際に経営活動を実施していなければ、リスクは制御可能であると考えられる。さらに個別の事情に応じた分析、判断をご希望の場合、随時私どもへご連絡ください。

(執筆者:里兆法律事務所  邱奇峰、秦聖強)

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