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赴任者の引継ぎ・後編…引き継ぎたいもの、引き継げないもの

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2019年5月21日

前回に続き、赴任者の引継ぎの話です。前回は引継ぎを軽視すると、どのようなリスクがあるのかを見ました。

今回は、ではどんな引継ぎを行えばいいのか、考えてみましょう。

●中国現法 引継ぎリスト
①日本でもやるような業務引継ぎ(まぁ当たり前に)
②背景や理由があって、あえて設定している、日本とは異なるルールや基準
③現地で非常識な日本人の感覚・調子に乗りすぎた失敗体験(できるだけ生々しい実体験がいいですね)。
④不正や手抜きの発生しがちな業務ポイント(過去の実例や他社の話など)
⑤いざという時の「逃げ道」、「助け舟」

なお、「中国」と書いていますが、エリアによっても特性が違いますので、「天津では」などと必要に応じて読み替えてください。

①は飛ばして②からポイントを整理しましょう。

●あえて設定している現地流

日本では一人で回す業務を二人、三人で分担している。どこにでもマイ水筒で水を持っていく。オフィスで果物などを口にしている……。
日本から来たばかりの仕事人が見れば、即ダメだししたくなるようなことでも、いろんな角度から検討した結果、認めている仕事のやり方や基準があります。

それらを聖域として守る必要はありませんが、まずは過去の経緯や背景とともに受け止めて、慣れてきたら社員と対話しながら次のステップに向かった方が、社員をリードしやすいと思います。赴任後最初の3〜6か月は、いきなり現状否定せずに観察してみましょう

後任に引継ぎする側の人は、日本にいた頃のイメージに戻りながら目の前の社員たちを眺めて、「日本でこれは、なかったわな」と感じることをメモにまとめて、現地ではどうしてこのやり方にしているのか、後任に伝えてあげてください。

●現地で非常識な日本流

日本には昔から「郷に入っては郷に従え」という言葉があります。

大阪へ行って、「エスカレーターは右側を空けるのが常識でしょ」とは言いませんし、海外の寿司屋に入って「寿司にそんな醤油かけたら、味が吹き飛んじゃうでしょ……」と隣の人に言うこともありません。

ですが中国に来ると、漢字を書くわ、箸を使うわ、日本語のできる社員がいたりするわで、ついついよその郷に来ているという意識が薄くなります。
すると、日本流を振り回して「こんなの常識でしょ」とか、「当たり前だろう」とやってしまいます。それが常識でも当たり前でもない相手との距離は広がるだけです。

さらに「旅の恥はかき捨て」DNAが加わって、全くの異国という緊張感が少ない分、慣れてきた頃にハメを外しすぎることが多いようです。
しかし、社員に内緒のプライベートは、なぜか社員たちに筒抜け。裏でバカにされたり呆れられたり。ひどい場合にはトラブルに発展して家庭崩壊したり強制帰国させられたりすることもあります。

同じようなことは先輩駐在員たちも経験したり、見聞きしたりしているはずですので、「聞いた話なんだけどね」という前置きで、失敗談を語ってあげてください。
歴史観・戦争観や金銭感覚なども、冗談のつもりがシャレにならなかったりしますので、失敗経験は貴重な教材だと思います。

●監督・牽制の勘どころ

不正やルール違反を防ぐための監督・牽制は、日本とは比較にならないぐらい必要です。

とはいえ、言葉もわからないのに、一から十まで疑って四六時中監視していたら、身が持ちません(もっと言ってしまうと、不正を疑っていても、たぶん最初の頃は相手の方が上手で、見抜けないと思います)。

ですから、まずは品質・金銭的に影響の大きいポイントだけ整理して引き継いではいかがでしょうか。しかも、起きがちな問題の実例と絡めて伝えるのが、印象に一番残りやすいと思います。

また、顧問弁護士や弊社のように、過去の社内問題を把握しており、不正やルール破りの手口も熟知している外部パートナーに顔合わせしてつなぐ、という引継ぎを行っている会社さんもあります。

●いざという時の脱出ルート

駐在員は逃げ場の少ない環境です。社内では言葉が通じない。社外に愚痴をこぼせる旧友もおらず、日本に電話しても境遇が違いすぎて共感を得るのは極めて困難。

自分だけではどうしようもない課題を抱えて悶々としていると、心身に変調を来してしまいます。

そこで、社外の先輩経営者や専門家、飲み屋のオヤジさんなど、相談役や助け舟となる人脈を引き継いであげてください。

自分でネットワークを作れるようになるまでは貴重な資源になると思います。
無理なときの上手な白旗のあげ方も、大事な引継ぎポイントかもしれませんね。

以上

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