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新型肺炎 今回の非常事態で考えたこと

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2020年3月4日

新型肺炎の問題は、世界に広がりはじめました。韓国やイタリアは深刻な事態になっていますし、日本は小中高校の春休みまでの休校要請があり、マスクだけでなくトイレットペーパーや米など、デマで店頭から姿を消す生活品も出はじめました。
1月20日ごろから中国側で起きた事態をずっとリアルタイムでウォッチし、対応を指揮してきた私としては、まるで砂浜につくった城が波で崩れていくのをスローモーションで見ているかのような、名状しがたい感慨にとらわれます。
こうすればこうなっていくと分かっていても、自分にはどうしようもできない無力感というのでしょうか。
いまとなっては、早く事態が終息するのを願うばかりです。

●コンプライアンス至上主義が生むリスク

日本の今後が予断を許さない中、新型肺炎による非常事態で考えたことを書いてみたいと思います。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言いますが、いま問題提起しないと耳に引っかからないからです。
まずは「コンプライアンス」「リスク回避」について。

昨今の日本では「コンプライアンス」重視が徹底されています。
重視される理由は、重視しないことによるリスク・代償が大きいからです。
いつの間にか、当然の絶対条件のように扱われていますが、こうなったのは比較的最近です。

私もコンプライアンスの重要性に異議はありませんが、ずっと日本の風潮は「重視」ではなく「思考停止」「思考硬直」だと感じてきました。
今回の件で、改めてコンプライアンス至上主義/絶対主義では危険だと再認識しました。

日本では、情報漏洩のリスクやサービス残業抑止の観点から、「パソコンを持って帰宅してはいけない」「社外からのネットワークアクセスは制限する」「SNSなどのコミュニケーションツールは使用禁止」など、さまざまな制約を課してきました。
ところが今回のように「職場に行けない」という想定外の緊急事態が生じると、仕事がお手上げになります。
必要な情報を取るにも制限・制約だらけです。

そして、働き方改革にせよ情報管理にせよ、それが「議論を排除するような絶対的前提条件」になった瞬間から、チームは思考を放棄します。
考えるのを止めて従うようになると、非常事態が発生して自分で判断せざるを得ない状況に直面した際、どうしていいか分からず動けません。

今回は感染症の爆発的拡大が原因でしたが、地震・津波・その他の交通網が麻痺するような突発事態でも同じです。
コンプライアンスだけでがっちり固めていると、柔軟で自立した対応が取れず、ダメージを拡大させます。

●エビデンス至上主義の問題点

もう一つ、今回の事態で感じたのは「エビデンス至上主義」の問題です。
これは堅い根拠(厳格にいえば科学的根拠)を意思決定の要件にするという考え方ですが、今回の新型肺炎の感染者数について、皆さんは中国政府や日本政府の公式発表をどのように受け止めたでしょうか。
今回発表された様々な数字や公式見解通りに対応していたら、手立てが遅れたであろう局面が多々ありました。

エビデンス至上主義の問題は大きく二つ。
一つは、堅い検証結果を待っていたら変化する事態に対処できない点。
もう一つは、統計結果には恣意性が混じる(混じっているかどうかを判別するのは困難)という点です。

私は、1月下旬の時点から、中国の公表数字は×10~×30で見ていますし、現在の日本でも、×100ぐらいの感染者がいる前提で自分の対応を考えています。
この数字には客観的な根拠がありませんので、それに基づく行動の結果も自己責任です。
ただ、誰かの情報を盲目的に信じると後悔がありますが、自分で決めたことには反省しかありません。

(本稿は2020年2月26日及び3月4月付『TSR情報 中部版』(東京商工リサーチ)に掲載した記事を加筆修正したものです)

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