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海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 02

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2021年9月27日

【部門・領域別】不正はここで起きる【製造部:リスクポイント編】

■製造部門ってどんなところ?

今回から組織のリスクポイントを部門・領域別に洗い出していきます。まずは製造から見ていきましょう。中国、アジアに工場を持つ会社には深く関わる話です。

製造部門は、通常、会社の中で最も人数が多い部署。組織が大きく、日本より中国の拠点の方が大所帯だったりもします。駐在員にとっては、過去に日本で自分が管理してきた組織より規模が大きいことが多く、扱いづらさを感じるかもしれません。

製造部門の基本的な機能は、もちろん「モノを作る」こと。必要な材料を集めて、揃ったところで組み合わせたり加工したりして、製品を作っています。会社によっては、使用する設備のメンテナンスや作業後の製品の検査といった機能が付随していることもありますが、メインはモノを作る・加工することでしょう。

ただ、同じ製造業といっても、プラントや自動化ラインのように設備・機械が主役の工場と、人による作業が主体の工場では、組織管理の観点で全く異なります。

前者は、エンジニアや装置のオペレーター的な仕事が中心で、大人数も不要。いわゆる”工場現場”とは印象がずいぶん違います。こちらは今回の話があまり当てはまらないかもしれません。

今回の中心は、組み立てや組み付け、削る、曲げるといった「作業」を「人が」行なっている製造部門。こういう組織は、作業する人がいて、現場作業を監督する人がいて、その上に部署・部門の管理をする人がいるという構造になっています。

事務や営業の組織には、監督だけをする人はいませんよね。典型的な製造部の特徴は、通常社内でもっとも大所帯であり、監督者がいるという点です。大所帯で監督者も置くため、作業員・班長・組長・係長・課長・部長……と多階層になっていることも多いです。

規模が大きくて階層が細かく分かれている組織。ここに駐在員が赴任してくるわけです。海外に不慣れで言葉もあまりわからないとなると、当然、現場を全て把握することは困難です。

常駐の駐在員は通常かなり高い役職で赴任しますから、日常業務で現場の人たちと接点がない。さらに一定の流動率がある(人の入れ替わりがある)ことも考えたら、監督者の顔と名前でさえ全部は覚えていないなんてことは、ザラにあります。

もちろん、現場が好きで隅々まで把握している駐在員もいます。現場管理能力が高く、ちゃんと下まで見ている。こういう人がいる工場は強いです。が、多数派とは言えません。

また、現場の監督職まで日本から駐在員や支援者を送るような会社もありますが、相当な規模でないとなかなかそういうわけにいきませんし、いまはコロナ禍で臨時の出張者も送りにくくなっています。

■人事権を現場が握る

そうすると、製造部で起きやすいのは「人事に関わる不正」。製造の現場に近い役職の任命権を、本来人事権を持つ管理層ではなく、もっとずっと下の方が握ってしまうことで発生します。

例えば、ライン長のポストがいくつか空いて、現場から候補者リストが上がってきたとします。これに対して、駐在員は適正なチェックを入れることができるでしょうか。

顔と名前さえ一致していない状態で、「なんで彼が入ってないんだ」「この人に高い評価はおかしいんじゃないか」なんて言えないですよね。上級管理者がリストをそのまま承認するしかない状態なら、人事権は現場に握られていると言えます。この実質的な人事権を「陰の人事権」と呼んでおきましょう。

陰の人事権が存在する組織で発生するのは「付け届け」。個人の利益によって人事が動くという構図が生まれます。

性格が細かい腐敗上司だと「付け届け管理メモ」をつけています。付け届けで典型的なのは中秋節のような季節の贈り物や、上司の子供の誕生日祝い。誰が持ってきたか、中身はどこのブランドの月餅かiPadか……などをマメに記録している。そのマメさを仕事で発揮してくれと言いたくなるところです。

まぁ年賀の挨拶や中元・歳暮くらいは昭和の日本でもありました。ただ中国でこの問題を看過できないのは、付け届けで陰の人事権を行使すること。付け届けしない部下は仕事ができても評価しない。配置や残業の調整で冷や飯や肘鉄を食わせる。当然、昇格者リストにも入れません。

より悪質な職場になると「昇格者リストに入るための上納金レート」が存在します。一般社員が昇格するには500元、班長に昇進するには2,000元、組長に上がるには5,000元など。日本の感覚で言えば10万、25万円といった金額です。本人にとっては相当な負担ですし、受け取る方は、毎年リスト枠が20人あれば200万、500万円の収入になります。事態の深刻さが理解できるでしょうか。

なお、こういう慣習に染まっている社員は、日本の経営者や駐在員に対しても同じような手段を使います。

やたら個人的に食事に誘ったり、何とかして駐在員の歓心を買おうとアレコレ画策したりする社員がいたら要注意。彼らは貢献度や発揮能力ではなく人間関係で評価してもらおうとします。それに乗ってしまい、問題社員への大甘評価で組織の士気をダダ下げしたり、弱みを握られて操り人形のようになったりする駐在員も一定数存在します。

■付け届けの何が問題なのか

ここまで読んで、「国によって習慣は違うよね。本人が進んで付け届けしてるだけで、会社の金を横領しているわけじゃないし、強要もされてないし。何が問題なの?」と思う方もいるかもしれません。

私は、この種の不正は、横領より深刻なダメージを会社組織にもたらすと思っています。それも長期的に。

付け届けを黙認していると、だんだん無能者が上位を占めるようになります。ゴマスリの上手な人が昇進し、そういうことには関わりたくない人や上司を凌駕する能力を持つ人は割を食う。割を食えばいずれ辞めていきます。

意欲のある優秀な社員が排除され、ボスの派閥に入って、いそいそと付け届けをして昇進し、しかるべきポストについたら自分も下の人からうまい汁を吸おうという人たちで組織が占められてしまう。

これで思い出すのが、有名な社会学の原理=「ピーターの法則」です。

・能力主義の階層組織では、各自が能力を認められて出世する。
・あるポジションで能力の限界に至ると出世が止まる。
・この結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。
・その組織の仕事は、まだ出世余地のある人間によって遂行される。

という内容ですが、付け届けの横行する中国の組織は「ピーターの法則・ブラック版」とでも言うべき原理に支配されます。無能なだけでなく、金銭でポジションを売り買いする人間が中核を占めるわけですから。

ただ、残念ながら日本本社・日本人駐在員は、この問題に気づいていないことが多いです。気づいても平時にこの問題を直視することはまずないでしょう。業務への影響が怖いからです。彼らも「日本人はこの問題に踏み込めない」と見切っています。だから製造部の組織は、静かにどんどん腐っていきます

組織がどれほどダメになっているかが顕在化するのは、痛みを伴う改革をしようとしたときです。

上司の利害と組織の利害が一致しない場合、こういう組織だと、部下は間違いなく上司の利害を優先します。業務の生産性を向上しようとか、品質管理を厳格にしようとか、改革の内容が上司にとって厳しいものだと、その下にいる全員が反対に回り、組織は動きません。改革を諦めるか、組織の中核を総入れ替えする覚悟が必要になります。

また、陰の人事権が存在する組織では、サボタージュやストライキも広がりやすくなります。内心は参加したくなくても、派閥の上から号令がかかれば裏切ることはできない。結果、工場全体に広がる生産停止や納品遅延を招く大ごとになります。

何か問題が起きた場合の隠蔽も常態化します。お互いにかばい合うため、品質不良の原因が何だったか結局わからない、報告が上がってこない、誰に聞いても判で押したような回答をする。きつく当たると逆に居直られたり、そんなことを言い出す経営者が問題だという態度をとられたりもします。

人事の不正による会社の損失はあまりにも巨大です。

(続く)

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