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ログイン2021年10月18日
【部門・領域別】不正はここで起きる【製造部:対策編】
■上から固め、下から根絶する
前回、製造部門に特有の構図と、そういう組織では人事の不正が起きやすいという話をしました。
問題の根っこは、管理層である駐在員に、現場の本当の働きぶりが見えていないこと、または真っ当な尺度で評価できているかどうか判断できないことなのは間違いありませんが、じゃあどうしたらいいかというと、対策は非常に難しいです。
製造部が階層構造であることは変えられないし、急に駐在員に組織全体を把握せよと言っても無理でしょう。
ここでお勧めしたいのは、「まず上から固める」方法です。
現状、各階層の上司がそれぞれ自分の部下に対して利権を握っていて、お互いに見て見ぬふりをしている状態がある。それを潰していくには、そういう環境に馴染まない(そういう風潮をよしとしない)社員たちを丹念に探し出し、彼/彼女らを上のポジションに登用していくことです。
付け届けシステムに嫌悪感や拒否感を覚えている社員は必ずいます。会社はまず、上位の管理職(部長など)をそういう社員で固めます。
完全にクリーンかどうかは重要ではありません。見定めようもありませんし。比較的長期にわたって表裏なく、経営者からの課題に真摯に応え、本人の部下たちの仕事ぶりや人柄も評価できるような人材であれば、大丈夫です。
すでに組織のポジションが埋まっており、すぐに上位管理職の交代が難しいような場合、まず明らかに問題のある人間をそのポジションから外します。横へのスライドでもローテーションでも降格でも構いません。製造部のラインから外します。適切な後任がいなければ、過渡的に駐在員が兼務したり、関連会社から期間限定で来てもらったりして、製造部の上位管理職層から問題人物を一掃します。
次はそのすぐ下の管理職(課長クラスなど)人事を同じように行っていきます。そこまで固めたら、管理職の人たちが直属の部下に望ましい社員を重用できるよう、会社がサポートします。
こういう組織の課長は「班長あたりがヘソを曲げてサボタージュや残業拒否したらどうしよう」という不安を抱いているはずですから、そこは経営者が応援しなければいけません。「いまは道半ばだから、そうなってもあなたの責任は問わないよ」と励まして、改革を後押しします。
逆に、付け届けを横行させている人たちに対しては、会社が人事権を行使して評価を下げていきます。いつまでも考え方を変えない社員の影響力を削ぐことで、「ウチの会社では付け届けは絶対許さない」という社風を作り上げていきます。
もう一つの方法は、「下から根絶する」ことです。中国系企業でよくありますが、現場の人たちに対して「ウチの会社では付け届けは絶対NGにしました。もし皆さんの上司でそういう人がいたら匿名で通報してください。皆さんのことは会社が保護します」と宣言するのです。
上司には「部下から密告されたら終わりだからね」とプレッシャーをかけ、会社の本気度を示します。
日本では内部告発者を守りきれないことがありますが、実際にそういう通報があれば、全力で告発者を保護しなければならないのは当然です。この保証が崩れると現場は二度と協力してくれません。また、上司へのプレッシャーも水泡に帰します。
■会社に人事権を取り戻す
製造の人事不正は構造的な問題です。現場で明らかになった個別の悪事だけ罰していても時間の無駄。根絶はしません。
面倒でも、人事権を本来の管理層に取り戻すという発想で進めます。一度に全部は取り返せなくても、まずは上から、そして下からも挟み撃ちして、少しずつ地ならしをします。潜在力を持つ若手が潰されないように、会社は悪癖に染まった人にお引き取り願い、次の世代を芽吹かせ育てて、その人たちに更に若い人を採用してもらうことで、好循環をつくることができます。
会社によっては、こういう改革を進めていくと、旧勢力が自分たちの影響力を誇示するためにストライキを起こすことがあります。ここで引いてはダメです。ストライキの首謀者に対しては、周りからはっきり見える形で厳罰に処します。多少の法的リスクがあってもです。騒ぎを起こせば会社も黙るだろうという動機から出た行動なのですから、黙ったら終わりです。経営側も腹を決めて膿を出し切りましょう。
■モノづくりの国の組織管理
製造部門に限らず、中国では、何もしないでいると組織は自然と「ボスと子分」という構造になっていきます。縦に強固に結びつき、横連携はほとんどしない。中国系企業はもちろん、外資系も例外ではありません。
欧米系の工場などは本国から管理者を送り込まず、現地に任せる形になりますから、この「ボスと子分」構造を野放しにしているところも少なくないです。当然、付け届けなどの慣習も見て見ぬ振りをします。
それでビジネスに支障は出ていないのかもしれませんが、モノづくりの精度やレベルにおいて、中国系や「現地のことは現地で」という外資系の工場に、日系を凌駕するような存在は未だに出てきていません。
#Appleのサプライヤーとして実績のある台湾系などは、モノづくりの精度やレベルが相当高いですが、その場合、組織管理も日系より厳格です。
私は、それにはやはり管理手法に原因があるのではないかと思います。商売としてうまくいっていても(利益が出ていても)、それは不良品が出るような製造を黙認してコストを抑えているか、薄利多売で勝負しているからで、高い利益率を長年にわたって保っているような会社はあまり見当たりません。
日本は、多少陰りは見えてきたとは言え、モノづくりの国です。製造業の赴任者も多くの場合、現場がわかっている、本当に優秀な方がやってきます。
そういう人たちがしっかりと力を発揮できれば、中国のような環境でも、現場管理の力では日本の方が強いと思います。中国系や外資系には、マーケティングや資金の調達力、政策の後押しで勝っていたり、実は勝っていないのに表面的だけ取り繕っていたりするプレーヤーも多く、日本式の現場管理は、いまもモノづくりの面では効果的です。
製造においては、会社は人事の不正・私物化を許さないという姿勢を上からも下からも徹底して示し、この改革が経営陣にとってプライオリティの非常に高いものであると末端まで伝われば、解決は見えてきます。
(次回に続く)
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