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ログイン2022年1月19日
【部門・領域別】不正はここで起きる【総務部】対策編(2)
前回まで、総務部門の不正にはまず抜き打ちチェックという話をしました。さらに対策について見ていきます。
■意外とやってない、総務の契約書チェック
もっと手堅く防ぎたいなら、弁護士による契約書チェックもお勧めです。「部署で弁護士を通さない契約を勝手に結んではいけない」と決めてしまいます。
「総務でそこまでしなくても」と思われるかもしれませんが、これが調達部門なら契約書のチェックは厳しいはずです。不良発生時の責任の所在や納期など複雑な条件がついていても、細かく確認しますよね。ところが総務だと、取引先が出してきた雛形に金額だけ見てサインしちゃってるケースも多いんです。
すると何が起こるか。実際にあった事例をご紹介しましょう。
ある会社の駐在員が社用車に乗って移動中、後ろから来た車にあおり運転をされました。運転手はしばらく我慢していたものの、だんだんイライラしてきて、挑発に乗ってしまいます。怒りに任せて相手を追いかけ、最後は向こうの車に突っ込みました。幸いケガはなかったものの、後部座席の駐在員は生きた心地もしなかったそうです。
……呆れるしかない話です。この社用車はドライバー付きのリース契約でしたが、本来なら契約は即打ち切り、何の補償もなし(なんならこちらが賠償請求したい)のはずです。ところが契約書を見ると「途中解約は残り2年分を違約金として支払う」と書いてある。中国系企業なら契約無視で打ち切るでしょうが、マジメな日系は「契約書にこう書いてあるけど、やっぱりダメでしょうかね」と私のところに相談に来ます。
契約で「こういう場合、違約金に関する条項は適用しない」などと約定しておけば問題なかったのに、相手の雛形は相手有利なように書いてある。無条件に違約金が発生する内容でサインしてしまっている以上、裁判で争えばこちらが苦しいでしょう。
これは極端な例ですが、契約書の条件チェックが甘かったり全くしていなかったりする総務では、あり得る話です。最低限、従業員の生命や安全に関係するものは契約内容を理解しておくことをお勧めします。消しゴムが偽メーカー製でも「消しにくいな」で済みますけど、通勤バスや食堂などは、何かあった時にシャレになりません。
総務は日本語版の契約書を作らないことも多く、前任者も前々任者も具体的な契約内容を把握していなかったりします。それがどれくらい危険なことかは、皆さんもイメージしていただけると思います。業者ごとに見れば何年かに1回のことです。そんなに手間やコストがかかる話ではないでしょう。
さて、不正から話が逸れましたが、契約書の弁護士チェックは牽制球としても有効です。中国の一般庶民の感覚では、弁護士というと相当の警戒感を持ちますから、会社が専門家を使って目を光らせているのを見せておくと不正抑止効果があります。
■できれば使いたい複数契約
もう一つ、領域によって使いやすさが分かれるものの、複数業者と契約を結ぶことも大切です。できれば異なる紹介ルートから見つけてきた相手先がいいです。総務の担当者に命じて二社を選ばせると二社ともグルだったりしますので、なるべくいろいろなルートから探してください。
複数契約は、複数と契約しにくい領域こそ効果的です。例えば食堂。食事は毎日確実に供給しなきゃいけないので、食材の質が低い、量が足りないとなって社員が騒ぎ出しても、一社独占では、ハイ明日から切り替えます、とはいきません。
会社としては一社契約の方がスケールメリットがあり手間も省けるものの、二社を常に競争関係に置いておくのはそれを上回る利点があります。実際に、食堂の運営業者を曜日ごとに入れ替えて、常に二社提供にしている会社もあります。片方の評判が落ちてきたら警告し、改善しなければ落ちた方だけ入れ替える。すぐに代わりが見つからなければ、見つかるまでは残った一社に全量供給してもらう。癒着を我慢しなくてもいい、うまいやり方です。
幅広いルートから候補を探すのが大変と思われるかもしれませんが、取引先候補を集める段階では、社員の紹介だろうが、経営者のツテだろうが、先方の売り込みだろうが、何でもいいです。ポイントは候補にエントリーするプロセスと、最終的に決定するプロセスを分けること。社員が持ってきた業者を排除する必要まではないと思います。
ただ、選考のプロセスにおいては、推薦者だけでなく、会社の登記内容、経営地、経営年数、代表者、法的な罪に問われたことがないかなどを確認します。紹介者との癒着を防ぐために、「担当者自身が直接あるいは間接的に利害関係のある業者と、自分が職権を行使できる領域で取引する場合は、会社に事前申告する」という規定を就業規則に定めておくことも必要です。関係を隠して推薦した場合、発覚したら、それを理由に打ち切れる契約にしておくのもいいでしょう。
■中国企業は本当に目をつぶっているのか
最後に、不正の程度の話をしたいと思います。総務の細かい取引だと、利益供与といっても、担当者同士が仲良くなって「いつもありがとう、今度ランチ奢るよ」といったことや、旅行のお土産をもらうレベルのことまであります。どこまで介入するか悩ましいところです。
ここは見方が二つあります。「千丈の堤も蟻の一穴より崩れる」か、「四角い重箱に丸い蓋をする」か。故事成語にさえ正反対のものがあるぐらい、どっちが良いということは難しいです。
ただ、こと不正に関しては、線引きが非常に困難な上、曖昧なところを残すと間違いなく自分に有利なように拡大解釈が進みます。どんどんひどくなっていくことを考えると、一律で「全部ダメ」の方がマネジメントは簡単です。ランチぐらいはまぁいいよとすると、だんだん何までいいのかという話になります。フレンチはダメというが中華ならいいのか、ファストフードは、と不毛な議論に巻き込まれます。キリがないので、基本的にナシとした方が管理は断然ラクです。
相手の好意を受け取らないと失礼になるような場面があれば、これは日系企業で実際にやっている方法ですが、本人から申告して上司に渡し、次の忘年会の景品にするなど、みんなでシェアできるようにします。取引先からの誠意を拒絶せず、私的利得にもしないやり方です。
過去に駐在されていた方は特に、一律禁止は中国の国情にかなわないように思われるかもしれません。が、近年は中国国内企業でも非常に厳しいところが増えてきました。接待一切絶対禁止、取引先と会社近くで昼食をとっているのを見られただけで呼び出しを食らう会社もあるそうです。密告制度を作って、見つけたら一発アウトというところもあります。告発者保護についても会社によっては日系よりはるかに手厚いルールを設けています。
依然として「中国ではしょうがないよね」という人たちが多数派ではあるものの、一方で「それではまずいよね」という会社も着実に育ってきています。
総務は業種を問わず、どこの会社にもあります。盲点になりやすく、それゆえに下手をすると不正が蔓延してしまう部署です。
なかなか一足飛びにはいきませんが、中長期的に見れば、不正に厳しい管理者を育成していくこと、総務の業者選定や取引の仕組みを変えていくことで、駐在員の個人的な努力に依存しなくても、不正を起こすチャンスがない会社にしていくことができます。郷に入っても、従っちゃダメなものには従わないで、頑張ってくれる社員が報われる環境を確立してください。
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