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海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 07

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2022年2月22日

【部門・領域別】不正はここで起きる【調達部】リスクポイント編

今回からはこのテーマでいちばんメジャーな(?)部門である調達を見ていきます。
ほとんど説明不要かもしれませんが、調達不正の起こりやすいポイントを業務の流れから整理すると、

・取引先の選定
・日常取引
・支払い

この三つでしょう。それで「業者を選ぶ人、発注する人、金を払う人は分けておけ」とよく言われます。当然ながら、取引先に対する権限が一か所に集中すると不正は起こりやすくなります。

■根が深いのは取引先選定時の不正

業務の流れを遡って見ていくと、支払い時の不正は以前と比べると少なくなりました。業者~購買担当者~会計の間で実際に現金が動く際に、金額が合わなくなる(どこかで抜いている)というのが典型的でしたが、中国では電子取引がほとんどになり、金が動けばとりあえず記録が残るようになったからです。

ただ、いまだに現金&目方商売のところはありますし、個人のWeChat Payを経由するなど支払いルートが不適切な場合は注意した方がいいでしょう。

二つ目の日常取引のプロセスでは、納入品の数量と品質の不正がメインです。多めに納入させて横流ししたり、まがい物を提供させて浮いた分の費用を得たりするケースがあります。

最も手っ取り早くて根が深いのは、やはり一つ目の取引先の選定です。大胆な輩だと入社前に自分や自分の仲間に会社を作らせておくこともあります。また、前職場でも不正でつるんでいた業者を呼び寄せるのは常套手段です。

頭の回る人は、乱暴なやり方で取引先を入れ替えたり、自分の推し業者をゴリ押ししたりはしません(そういうレベルの人もいますが)。じっくり時間をかけて舞台を整えます。

そういう人は、自分に利益をもたらす業者を取引先にしたいと思ったら、まずは上司(日本人駐在員)の信頼を得るよう熱心に働きます。そして、一定の評価・信頼を勝ち得たと思ったら、少しずつ、間接的に現在の取引先をディスり始めます。

上司の前で「最近A社の対応がイマイチなんですよね~」といった話をポツポツとする。いきなりまくし立てたりしません。「このあいだも不良が出たので、すぐ対応してくれって頼んだんですけど、自分たちの責任ではないとかグダグダ言ってきて困りました」みたいな話。また機会を見て、「納品ミスがあったのに、なかなか動いてくれないんです。最近、かなり問題が目立ちますねぇ」などと言う。

こんな感じの不満を、時間をかけて吹き込んでいきます。そうすると、言葉の壁もあって独力では一次情報をなかなか取れない日本人は、「どうやらA社には問題がある」と刷り込まれていくわけです。本当はそうじゃなかったとしてもです。

数か月から1年もすると、調達先の見直し機会がやってきます。すると、A社に対する不満ばかり聞かされていた日本人上司は、自分から言い出してしまいます。

「そういえばA社は対応が悪いと言ってたけど、他の選択肢はないの?」

担当者からすれば「待ってました」ですよね。「わかりました、何社か声をかけて見積をとってみます」。いかにも上司の指示を受けて探してきたという体で、提出した数社の中に自分の息のかかった会社を紛れ込ませます。

■「自分が選んだ」業者にはご注意を

こうして取引先の見直しという形式に沿って動けば、担当者自身に決定権がなくても、都合のいい取引先を引き込むことが可能です。選定されては困る会社には、相手方に条件を伝える際に、わざと曖昧に言ったり、間違った仕様を教えたりしておきます。そうすれば自ずとピントのずれた提案が出てきますから、わざわざ書類を改ざんしなくても、上司の方でハネてくれます。

「上司が選んだ」形になるように誘導するケースは非常に厄介です。日本人は自分で選んだつもりなんだけれど、そこに至るまでに情報の隠蔽や恣意的な操作がある。彼らの狙った方向に動かされてしまうと、自分で選んだというバイアスがかかっていますから、取引開始後も多少の問題は見過ごされてしまいます。

もっと深刻なのは、何か問題が起こった折に上司が自己保身に走ることです。自分が取引先を選定したという形ができていると、不正が発覚した際は上司も無傷では済みません。

担当者は「いやいや、私は候補先を見つくろっただけです。適宜、報告もしていましたよね、決定したのは私じゃありません」と言いますし、実際に表面上はその通りですから、反論できません。責任を問われたくない上司は(または上司を守りたい経営者は)、うやむやに幕を引いてしまいます。

どこまで書いていいか迷いますが、調達不正に日本人が抱き込まれているケースも決して少なくありません。不正をする側にとっていちばんいいのは、上司にバレないことより、上司とグルになって堂々と安全に不正を働くことです。

日本人に元々そんな気はなくても、外堀を埋められて自己保身に走ったり、「中国はそんなもんだろう」という意識から目をつぶっているうちに感覚が麻痺してきたりして、気づいたら不正のケタが変わっていたなんてこともあります。

■相見積・並行購買・日系企業

話を戻します。調達不正で特に注意すべきポイントは、相見積と並行購買です。相見積は皆さんの会社でも取っていると思います。一社だと言い値になってしまいますから、三社ぐらいから見積をとって、その中から最も合理的なところに決めますよね。

それからモノによっては並行購買です。取引先が一社だけでは何かあった際に切り替えるのが大変なので、二社で競わせつつ、取引が断絶しないようにしています。

相見積も並行購買も目的の一つに不正防止がありますが、私が見てきた不正はほとんどがこの仕組みを悪用しています。

まずは先ほどご紹介したように、時間をかけて悪口を言い、上司に不満を抱かせて現行の取引先を排除するケースです。並行購買で二社と取引している状況で、そのうちの一社が担当者のおねだりに取り合ってくれないとします。旨味を得られない担当者は、上司を誘導してこの硬骨漢な会社の排除を図ります。こうして担当者のいいなりになる会社だけが取引先に残っていきます。これでは並行購買の意味がありません。

それから相見積をとる相手が全員グルになっているケースもあります。会社で相見積は最低3社からとルール化されているのに、自社の購買課長はいつも念を入れて4社から見積を取っている。手堅い仕事ぶりを評価していたら、実は4社全部がグルだったというパターン。本命2社が落札役で、残り2社はダミー。どこに決まっても担当者は利益を得られる。

相見積や並行購買の仕組みがあるからと安心していてはいけません。仕組みがあることに安住している日本人・日本本社のことを、彼らはよく理解しています。

それから、次回で詳しく述べますが、最近は中国系企業より日系企業の方が不正問題は深刻だという話も耳にします。「お国柄だから」「郷に入っては郷に従え」「必要悪」などと言っていると、事業環境から取り残されるリスクもありそうです。

次回に続きます。

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