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海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 08

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2022年3月22日

【部門・領域別】不正はここで起きる【調達部】対策編(1)

調達不正について見てきました。具体的な対策に入る前に、なぜ「中国系より日系で不正が多い」と言われるのか、少し考えてみたいと思います。

■中国系は担当者レベルの不正が少ない

中国系企業の不正対策は、性質や規模との関係で大きく二つに分かれます。

一つは少数ながら大企業で見られる「会社として不正や汚職の徹底防止・徹底撲滅を本気で追求する」系です。有名なのは河北省に本社を置く某自動車会社。従業員にも取引先にも誓約させ、社員はペン1本受け取らず、取引先とランチを同席することもありません。ある商社の人(中国人)の体験談で、副総経理とランチをしようとしたら、副総経理でさえ事前に上司の許可を求めていたとのことでした。

他にも、内部告発を奨励する制度、内部告発した人を役員が直接保護するルールなど、本気で不正や汚職撲滅に向き合う姿勢を内外に示す会社もあります。こういう会社は内部告発に淡白・酷薄なところのある日本企業よりフェアだと思います。

もう一つは、多くの中小・オーナー企業で見られる「そういう仕事は社員に任せない」系です。業者との付き合いが絡むような仕事は必ずトップやその家族がやります。彼らにとって自己利益=会社利益なので、不正の意味がありません。中国系のトップは、自分が信じていない人間にそもそも調達行為を任せないということです。

だから、会社ぐるみの商売のための不正、賄賂や、ビジネス上の不正当な行為はあるかもしれませんが、担当者個人が私的利得を得るタイプの不正はあまり起きません。

中国人は「信じるものは頼れるボスと身内のみ」という考えが骨身に染みています。だから裏切って逃げない相手(身内)や、きっちり利害関係でつながっている相手にしか、自分の商売を揺るがすことは渡しません。忠実な縦の関係があっても、自分を脅かすようなことを部下に託してはいけない、というのは中国の長い歴史が証明しています。

逆に言うと、トップはハナから「社員とは不正をするものだ」と考えています。トップがそういう態度で目を光らせている以上、社員も敢えて「会社から何かをくすねよう」とは思わないです。不正防止の仕組みを作ろう、外部に依頼して撲滅しようなんて気負わなくても、自然に不正が起きないようなやり方をしているんですね。

つまり「できる環境なら、人は不正をする」を世界のスタンダードと考えて、「できない環境なら、やらないでしょ」と言えるように対策を取っています。日本企業も、ここを最初から意識して対策しなければなりません。

不正は放っておいたら必ず発生するという前提でビジネスをつくっていかないといけない。そのとき課題になるのは、防止コストをどう捉えるかです。不正を必要悪(=コスト)とみなすか、不正防止にコストをかけるか。これは考え方の違いですね。私はと言えば、この連載でも再三書いているように、不正は金銭だけの問題ではないため、撲滅する方にコストをかけた方がいいというのが個人的な結論です。

■見つけてから追求では遅い

日本企業は、不正の疑いを持つと、決定的な証拠をつかんで警察につき出すことを考えます。または警察につき出すだけの材料を揃えて、本人に金銭返還や自己都合退職を迫ろうとします。

しかし、中国の法律では贈収賄は日本より厳罰ということもあり、不正をする側には当然、「バレて警察沙汰になったら大変」という意識があります。だからバレないよう、決定的な証拠を握られないようにやっています。

不正を行う者がどうやって利益を分かち合っているかというと、やり方はいろいろあるでしょうが、「足がつかないようにやる」のが彼らの鉄則です。例えば業者に不正な利益を上げさせて、それを後から社内側の首謀者や内通者と分ける。この際、最も足がつかないのは現金です。

監視カメラがないところで受け渡しをされると、取引先と担当者が結託していたことがわかっても、経済的利益を得たことは証明が難しい。昔は付け届けとして「使っても減らない5万元」が入った銀行のキャッシュカードを渡す例なんかもありましたけれど、いまはATMの監視カメラや顔認証システムがあるので以前より高リスク。自宅や監視カメラのない場所で紙袋の受け渡しをするのが比較的安全なやり方でしょう。

他にも、子女を業者の会社に入社させる(大した仕事をしていなくてもそれなりの処遇をする)といった方法もあります。これらは、まず見つからないし、見つけても「具体的な利益の授受」を証明するハードルは非常に高いです。

運良く(相手が間抜けで)ある程度の証拠をつかめたとしても、警察も大きな案件で忙しいため、数万元程度だと受理してくれなかったり、受理されても捜査が始まらなかったりします。

告発できる材料が集まらない、または告発したのに警察が不受理・不捜査で終わらせたらどうしようと悩み、けっきょく追求そのものを諦めてしまうケースがたくさんあります。一方、拙速に告発まで持っていき、不受理や不捜査で終わった結果、本人から「無実の罪だ、会社は謝罪せよ」などと居丈高に逆襲されて困り果てる場合もあります。むしろ、圧倒的大多数はこうしたパターンだと言ってもいいでしょう。

外資系企業では「防止にはコストをかけず、後から調査で発見すればいい」という感覚を持っているところもありますが、実効性がありません。上述の通り、決定的証拠がつかめないからです。

それでも、たまに不正が発覚することもあります。発覚のきっかけはほとんどの場合、調査ではなく密告です。この密告も正義感のある部外者が行うことはまずなく、仲間割れか、首謀者のポジションを狙っている人が首謀者の追い落としを図るために行います。だから密告で発覚した不正は、扱いに注意しなければなりません。

誰が何の目的で密告したのか。なぜいまなのか。この情報に乗っかって不正調査や処分を行うことで得をするのは誰か。告発者に利害関係はないか。告発された人間が本当に不正を首謀してきたのか。こういったことを考えながら、利用されないよう、踊らされないように進める必要があります。

何れにせよ、このような密告による不正対応は組織の健全化にはつながりません

次回に続きます。

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