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ログイン2023年3月23日
【まとめ】日本企業が中国で戦うために【その1】
18回にわたって、海外拠点のどこで不正が発生しがちなのか、対策と共に見てきました。最後に、皆さんに知っておいていただきたいことをまとめとしてお届けします。
■ 中国事業のリスク
ここまでお付き合いいただいた皆さんは、何らかの形で中国ビジネスに関わりをお持ちだと思います。不正についても、自社でも起きるだろうか、起きたとして果たしてどこまで対処できるのか、なるべく起きないようにするには日常管理でどんなことに注意すればいいのか……、こんなことに悩んでいないでしょうか。
少し話は逸れますが、ここで原点に立ち返って中国事業のリスクとの付き合い方について考えてみます。皆さんの会社でも想定していると思いますが、中国事業にはさまざまなリスクがあります。
まずは中国に限らず、マネジメントが難しい点は海外事業に共通の課題。日本とは法律も商習慣も違います。
米中の対立も大きなリスクです。ようやくお互いに歩み寄る姿勢を見せたかと思うと新たな火種が持ち上がってくる。日本への影響を含め、この二国間の競合は簡単には解決しない問題です。
中国の国内政策にも振り回されます。最近ではゼロコロナが印象深いですね。自国民にも外資系企業にも大変な犠牲を強いた末に、転換する時はとてつもない急展開でした。
現地の人が言うには「わずか1か月でゼロコロナが遠い夢のように思える」。そのぐらい一気に振り切ってしまったということです。この間に政策の優先順位は大きく変化しましたから、スピード感についていくのも大変です。
また、中国には歴史問題という火種もあります。何かのはずみで日系企業に対して逆風が吹く可能性は常に頭の隅に置いておいた方がいいでしょう。民間の商取引では、技術や知的財産の流出も気になるんじゃないかと思います。
■ リスクとどう付き合うか
こうしたリスクを抱えた中国事業をどうしていくか。その対応は、グローバル企業かニッチ企業か、リスク重視か機会重視か、この二つの軸で変わってきます。
ここでいうグローバル企業とは、事業競争のベースが日本の規模を超える企業です。例えば自動車業界ならトップ2社は年間販売台数1,000万台前後で競っていますが、市場全体で440万台前後の日本を中心にしていては勝負できません。世界の強豪とシェア争いをしている企業、研究開発に投資できる資金を確保するためにも一定以上の規模の売上・利益が必要な企業などが該当します。
対して、ニッチ企業とは日本国内を主領域としている企業、海外依存度が高いもののグローバルな競争を戦う体力(規模)は必要としない企業です。
では、それぞれの組み合わせで見ていきます。
【グローバル企業×機会を重視】
中国ビジネスは競争の基盤の一つ。自動車メーカーにとって中国は単一国として最大市場です。ユニクロなど中国の店舗数が日本を上回るような会社も増えてきました。そういうところは、いろいろリスクはあっても全部捨てて撤退するという事態は考えにくいでしょう。
【ニッチ企業×機会を重視】
中国というマーケットは魅力的です。攻略できれば一攫千金のようなインパクト。大きく飛躍するきっかけとなります。
【ニッチ企業×リスクを重視】
中国を避けても自社事業の発展が描けるため、いろいろなリスクの懸念される中国にはわざわざ触らないという判断もあり得ます。
【グローバル企業×リスクを重視】
悩ましいのはこのセグメント。拠点を分散させたり、コストが合わない生産事業は撤退したりしても、中国市場から完全に退場するのは難しいという会社も多いのではないかと思います。
実際、中国に事業売却したり、生産の一部を移転したり、あるいは全面撤退した会社でも、トップが「中国のマーケットを捨てるつもりは全くない」という発言をしているところが多いです。完全に手を切るというのは、マーケットのサイズから言ってもなかなか難しいのかなという感じがします。
リスクを重視する会社が、それでも中国事業を発展させたいとなると、やはり不正との戦いは避けて通れない課題です。
■ 不正は全ての場所で起こる
私は20年近く、ずっと不正との戦いを続けています。解雇に踏み切った問題社員の数は300人を下らないと思います。現地の不正の実態について、常に最前線で見続けてきました。
この体験から言えることは、製造系にしても販売系にしても、投資会社のような形態にしても、不正と無縁なところはありません。どんな機能の拠点でも、どんな立場の社員でも、不正はあります。「不正なんて調達の話でしょ」とはいかないのが厄介なところです。
金額にしても、確かに調達部門の不正は一千万から億単位の金額もザラで目立ちますが、他の部署ではそこまで大きくならないかというと、例えば財務でも億単位の不正を見たことがあります。234億円を横領されたというニュースもありました。
この部署では起きないだろう、ウチの拠点はこういう機能しかないから大丈夫だろうということはまずありません。むしろ、そういう油断をしている会社は危ないです。
■ 不正は必要悪か
この連載の冒頭でも述べましたが、現地に長く滞在している方から「不正問題はある。中国でもあるしインドでもある。だけど全部をつぶしていては商売にならない。一種の必要悪として付き合うしかない」というような話を聞くことは少なくありません。
私も駆け出しの頃、そう思っていた時期もありました。しかし、百年企業の本社が中国事業の不正で破産したり、不正絡みのトラブルが泥沼化してメディアを騒がせたりしているのを見て、中国で不正を黙認するのは代償が高すぎるのではないかと思うようになりました。
仕事柄、タイやフィリピン、インドネシアの拠点をお手伝いすることもありますが、「最近ウチでも久しぶりに不正が見つかった」なんて話になって金額を聞くと、100ドル、1,000ドルです。それで解雇している。中国は桁が2つ3つ違います。黒字と赤字を分かつような金額が毎年蒸発しています。
それだけの資金を有意義に使えていたら、優秀な社員たちに振り向けられたら、中国事業のあり方は全く違ったものになっていると思いませんか。中国の不正は、勉強代だ、場所代だというにはあまりにも高額になっています。
利益の蒸発だけではありません。さらに問題なのは、こういうことは上層部が知らなくても社員の間ではしっかり伝わっていることです。誰がどんなことをやってるか、社員たちは分かっている。当然、真面目に働くのがアホらしくなります。
また、問題社員たちはリスクを減らすために周囲を抱き込もうとします。心ある社員はウンザリして辞めていくし、誘われて染まってしまう社員もいます。放置していると、組織は少しずつ腐って朽ちていきます。
これは利益の蒸発より深刻です。当然ながら、こんな状況で会社がコストダウンだ、生産性の向上だと唱えても、誰がどんなことをしていて、毎年どれだけの金が蒸発してるのかを知っている社員たちは真剣に付き合う気になりません。
もっと言うと、「こんなことを見逃しているなんて、日本の本社は正気なのか」と思う社員もいると思います。これでは今の中国で戦えません。
(続く)
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