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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑧経営の現地属人化が根源的に持つ特性

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年4月26日

■ 一線を越えると逆に振れる、戦い下手な日本企業

前回、いちど「現地属人化」に舵を切ってしまうと、チェック機能は働かず、ある一線を超えないと引き返すこともできないという話をしました。

日本側は任せた以上、現地責任者を良くも悪くもたいへん我慢強く見守ります。が、看過できないレッドラインを超えたと認識した時点で、一気に逆に振れます。

これまで手をこまねいていたのが嘘のように、利益を犠牲にしても仕方がない、客先や周囲への影響も何とかする、すべてに優先して早期解決だ、となります。社長以下、経営層は怒り心頭で「何が何でも解雇だ!」となったりします。

急いで解雇しようとするとどうなるか。現地責任者は業務を全部握っているわけですから、当然、それを使って「交渉」してきます。環境、安全、消防、税務、労務……、完全にホワイトと言い切れる企業は少ないでしょう。さらには、本人がいままで裏で主導したり黙認したりしてきた不正や法令違反も多々握っています。

いろいろ握っているぞ、当局に通報するぞ、メディアに暴露するぞと脅しや揺さぶりをかけてきます。

日本側としては、相手がどんなカードを持っているかわかりません。会社に絶大なダメージを与えるものかもしれないし、ハッタリかもしれない。それに相手だけが悪いわけではなく、会社の管理方法にも反省すべき点はある。この状況で、告発されるのが嫌なら金銭で手を打つと言われると、会社側の交渉カードはほとんどありません。

「お前は不正をしていただろう、警察につき出すぞ」と言ったところで、本人に「証拠があるならやってみろ」と反論されて終わってしまう。実際、警察に行っても「まずは具体的な証拠を出して」と言われて詰んでしまうケースがほとんど。この段階では社内の揉めごとですから、裁判所に持って行ったってどうしようもありません。

せいぜい「自分から辞めれば解雇じゃなく、一身上の都合で終わらせてやろう」という程度ですが、そんなカードが相手に響くわけもありません。私が処理した案件では、逆に「お前(現地にいる董事長や総経理)が謝罪して帰任したら、操業がストップしないようオレが何とかしてやる」と言われたこともありました。

こうなると、会社としてはとことん戦い抜くよりも、いくらか払って自己都合退職で相手が会社から消えてくれた方がいい。だんだんトーンダウンしていき、ある程度のところで落ち着くというのがお決まりの展開です。

もっと酷いと、会社の醜聞を社外に漏らしたくないということで、むしろ会社の方から大金を積んで、半ばお願いするように辞めてもらうケースもある。臭い物に蓋をする典型です。私が見聞きしてきたのは、どこもサラリーマン社長が経営する大手企業でした。

このやり方には二つの大きな問題があります。一つは、これを「大成功事例」として模倣する問題社員が増殖すること。逆に真面目な社員・誠実な社員は失望したり会社を見限ったりします。これで現地法人の死期を早めた会社もありました。

もう一つは、次の犠牲者を出すこと。この人がやった行為も真の退職理由も表には出ませんので、大手企業での経験や能力を買う企業が喜んで採用し、次の犠牲者となります。こうやって大手を振って3社、4社と食い物にする「強者」もいます(日本人でもいます)。

■ 経営属人化が根源的に持つ問題

中国現地のトップだけでなく、副総経理や工場長でも似たような問題は起きます。日本側が便利使いして依存するから、相手が徐々に実権を握るという構図もあります。

コミュニケーションや言葉の問題もあり、彼らに頼った方が圧倒的に楽に業務が回るというのは、多くの海外拠点が実感している事実でしょう。確かに、普通の日本人駐在員が自力で組織をマネジメントできるか、役所と交渉できるかと言ったら、ハードルが高いのも事実です。

しかも、もし日本人がやってうまくいかなかった場合、彼らは日本本社に直接言ってきます。「なんで私を頼らなかったんですか」

こう言われちゃうと、日本側も周りもだんだん流されていきます。だって「彼/彼女に頼らずやるべきだ」と主張する人は、「じゃあお前がやれるのか」「何かあったらどうするんだ」と責められますから、トップが支持してくれないと抗うのは難しいです。こうして、「あの人を経由しないと何かあった時にまずい」という空気が形成されていきます。

酷いケースだと、現地ボスが裏で手を回して、うまくいかないようにしていることもあります。駐在員の部下を脅したり、取引先に声を掛けたり、客先の中国人幹部を動かしたり、現場の作業員を扇動したり。駐在員が苦労しているのを見ながら、あきれ顔をつくって「だから言ったじゃないですか」と決め台詞を吐く。

繰り返しますが、これは「中国人」に任せるから起こる問題ではありません。日本人の駐在員や日本の執行役員でも、経営を「属人化」すれば同じ問題が起こります。

少なくとも中国のような事業環境において、ここまで見てきたような末路をたどるのは経営の現地属人化という方針そのものが根源的に持っている特性。現地で経営を丸投げされていた人の解任・解雇を何十件と支援した立場から言って、経営の現地属人化には常にこのようなリスクが伴うというのが私の実感です。

(続く)

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