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海外拠点の闇~不正リスクポイントと対策 20

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2023年4月24日

【まとめ】日本企業が中国で戦うために【その2】

海外拠点のどこで不正が発生しがちなのか、対策と共に見てきました。最後に、皆さんに知っておいていただきたいことをまとめとしてお届けしています。

■ 現地企業より日系の不正の方がひどい

ここ数年、現地企業よりも日系の不正の方がひどいという話を頻繁に聞くようになりました。「中国だからしょうがない」と言っていたのが、「中国だからではない、日系だからだ」というように流れが変わってきています。

日系で起こる不正の実態は確かにひどいものです。

経理部門の回で似た例を紹介しましたが、中堅・中小企業だと、現地の経理部長に実質的な管理の取りまとめを任せてしまっていることがよくあります。他人の目が届きにくい状況で、通帳も印鑑も握っていると、かなりいろいろなことができてしまいます。

ひどい例では、オーナー経営者が不正に気づいて経理部長を問い詰めたところ、翌日、税務局が査察に来たという案件がありました。

経営者は青天の霹靂ですが、税務局曰く、そちらの経理部長から内部告発があったとのこと。「長年にわたって、会社の不正な脱税のためにプールする役回りをさせられてきた。あまりにも多額になってしまって良心の呵責に耐えかねた」と当の経理部長が通報したわけです。

裏金の通帳から個人で引き出している記録があればこんな話は通りませんが、そこは本人もリスクを認識していて、これまで裏金を動かさずに貯めてきた。そうすると、会社から金が流れていたという事実と、それを告発した人間がいる、という状況だけがある。税務署はほぼ100%、経理部長の側に立って摘発にきます。

会社は経理部長を告発して解雇しようと思っていたのに、役所の介入で経営者が断罪されてしまっては解雇しにくくなります。無理に解雇しても、経理部長は「通報したせいで解雇された」と言えるわけで、不当解雇で裁判になったら筋が通っているのは向こうの方です。

また、調達や総務の回で触れたとおり、日本企業も不正が起きやすい部署では相見積や並行購買を設定していますが、問題は、それが有効かということです。相見積や並行購買の相手先が全部グルというケースはザラにあります。仕組みがあるから大丈夫とは限りません

日本人が現地パートナーと結託するケースもあります。中国事業の拡大のために他社からエース人材を引き抜いて事業責任者にしたら、その人が連れてきた現地パートナーとグルで、立ち上げ時からずっと食い物にされていた会社もありました。これは日本で裁判になりましたが損害はほとんど戻ってきませんでした。

問題のある管理者を解雇しようとしたら、本社の会長や社長のアドレスに自分の無実を訴えるメールを送りつけ、日本人駐在員の秘密情報を暴露した事例もありました。解雇されそうになった問題社員が数十社の取引先に「この会社はこんな悪事をやっている、告発しようとした私が解雇される、こんな会社と付き合っていたらそちらの信用問題になるんじゃないか」というメールをバラまいて、日本と現地の経営者に問い合わせが殺到したこともありました。

……これらの事例は、全て私たちが実際に扱ったケースを情報保護のために複数混ぜてアレンジしたものです。だから極端な案件ではなく、少なくとも5〜10件以上は実際に起こったことばかりです。これでは日系の方がひどいと言われても仕方ないです。

■ 日系が深刻な状況になりやすい理由

では、中国の国内企業はどうしているのか。これも連載を通して少しずつご紹介してきました。

中国の中小企業はその特性上、ひどい不正は起こり得ません。調達の回でも述べた通り、中国人経営者はどこを自分以外の人間に任せたら不正が起きるかをよくわかっているので、金が動くところは自分で握るか、裏切って利益を得る必要などない人(家族など)にしか任せません。だから中国のオーナー系企業は不正が起きにくい構造になっています。

大企業では、不正が蔓延しているところもある一方で、厳しいところは非常に厳しいです。

対策は内部告発を徹底的に保護することと、取引先との付き合いを厳格に管理することの二つですが、経営層でも外部との会食(自腹)には承認が必要、鉛筆1本、手帳1冊もらっても厳罰という話が外まで聞こえてくるぐらいですから、相当に本気で取り締まっています。

ここまでやっている日系企業はなかなかないでしょう。なぜ日系が深刻な事態に至りがちかというと、やっぱり機会があるからです。目が行き届いていないんですね。

管理を厳格にしようにも、駐在員自身、あるいは日本側が、現行規定や制度を把握できていないことが多いです。またはルール違反が横行していて、今更徹底しろと言ってもどこから手をつけていいかわからない状態になっていたりします。

それから皮肉ですが、日系に「大人の対応」をする会社が多いことも理由の一つです。

裁判では「疑わしきは罰せず」が原則です。日本企業や日本人は、経営管理においても、明確な証拠がなければ手を出すわけにいかないと考えます。すると、会社は営利団体で、しかも海外事業であるにもかかわらず、同じ考え方を律儀に適用してしまいます。

状況証拠は真っ黒、日常の言動にも問題があるのに、決定的な証拠がないという理由だけで問題社員に対して何もしないでいる会社はたくさんあります。それが不正を助長している面があることは否めません。

この会社は決定的な尻尾をつかまない限り手を出してこないとなると、不正を働く側にしてみればかなりやりやすいですよね。

さらに、現地の方は心当たりがあると思いますが、万が一見つけたとしても、不祥事ということで懲戒解雇にもしない日本企業は多いです。

会社側が依願退職の形を取りたがって、不正を働いた社員に退職金まで出したりします。当然ながら警察に突き出すようなことはしません。日本ではよくある考え方、やり方です。

日本の場合、懲戒解雇や裁判沙汰となると、社会的にネガティブな印象を持たれがちで、目立ちます。メディアで余計なことを書き立てられるリスクもあります。だから、目立たないようできるだけ穏当な処分をすることには一定の合理性があるかもしれません(私は反対派ですが、合理性という観点で理解できなくもないです)。

しかし、中国でこんなことをやっていると不正を助長し、模倣犯も生みます

発覚した時の代償が退職で済むなら、月給の100倍・1,000倍を不正で稼ぐ方が賢い。「やらなきゃ損、真面目に働くなんて馬鹿かアホ」と言っているのと一緒です。見つかったって「疑わしきは罰せず」か「依願退職」程度で済む、見つからなければ丸々儲かるとなれば、それは出来心も起こります。

不正自体はもちろん許されるものではありませんが、本人だけが悪いのかと言われると、罪を犯せる環境を提供している側の責任はもっと重いのではないかと考えています。

(続く)

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