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海外拠点の闇~不正リスクポイントと対策 21

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2023年6月1日

【まとめ】日本企業が中国で戦うために【その3】

海外拠点のどこで不正が発生しがちなのか、対策と共に見てきました。最後に、皆さんに知っておいていただきたいことをまとめとしてお届けしています。今回が最終回です。

■ 日系企業の不正対応の実態

日系企業の不正対応の実態として、私の感覚では「不正を認識していない」ケースが最も多いと思います。

その次に、うすうす気づいているけれど「疑わしきは罰せず」で手を出していないケース。または、下手に踏み込むと会社にどんな実務上の悪影響があるかわからないので「二の足を踏んでいる」ケースがあります。

さらに、隙あらば何とかしたいけれど、「決定的証拠がなくて歯噛み」しているケース。そして、思い切って処分したものの、相手から「想定外の反撃」を受けて現地総経理が深いダメージを負ったり、事態が泥沼化したりするケースがあります。

想定外の反撃には、立場を入れ替えられたとか、取引先や本社を巻き込んでしまったとか、役所やメディアを使って会社にダメージを与えようとしてきたといった事例があります。

そうしたことを乗り越えて、処分をやり遂げる会社もあります。不正を一掃して、予防措置まで取ったケースもあります。ただ、全体の数からすると、何も手を打てていないことが多いです。

そもそも、どんな問題が潜んでいるか、正直わかってないと自覚している会社は多いんじゃないでしょうか。漠然とした心配はあっても、具体的なアクションにはなかなかつながらない状況だと思います。

■ 不正対策の考え方

不正というと、日本の会社はまず調査をしよう、その上で決定的な証拠を発見しよう、その証拠に照らして処分しよう、という順序で考えます。だから内部監査をしたり、弁護士や監査法人に依頼して調査を入れたりします。

これ、やってみた会社さんに効果があったか聞いてみてください。実際には、この手順で処分まで持っていくのはほとんど幻想に近いです。

「調査→発見→処分」の枠から脱しないと不正撲滅は難しいと思います。どうしていくべきか、方向性をポイントだけ押さえておきます。

まずは不正が起きにくい環境づくりです。目が行き届いている、仕組みが透明、ブラックボックスがない、タコツボ業務がない。それから駐在員の交代時期の引き継ぎがしっかりしていて空白がない。そういう隙がない環境を作れるかどうかがカギになります。

次に、管理の発想の転換です。中国には「疑うなら用いるな、用いるなら疑うな」という言葉があります。決定的な証拠がなくても、その社員を疑ったら、そのまま置いていてはダメです。こういう言葉もあるような土地柄ですから、「疑ったら用いるな」の原則で管理していく方がいいと思います。

そして「一罰百戒」です。教育、啓蒙、調査といった痛みのない対策だけでは効果は薄いです。不正を犯した社員に対して、他の社員が同じ目に遭うのは困ると思うような厳罰を与え、それを他の社員に見せることで抑止効果を狙うのが中国古来の教えです。

決定的な証拠がなくても、根拠となる就業規則の条項がなくても、真面目な社員たちの挑戦・成長・貢献にマイナスとなる人間は、会社から去ってもらいます。

あまり厳しいのは日系企業に馴染まない、当社にはそういう文化はない、などと言っていると、真面目な社員たちがバカを見て組織が腐っていきます。中国では、一罰を厳しく下し、高い代償を払わせることで組織全体を引き締めていくというやり方が必要だと思います。これは、結果的に最小限の代償で済む方法でもあります。

■ 終わりに

ここまでしてきたような話をすると、大体こう言われます。「小島さん、方向性はわかった。ただ、そうは言ってもなかなか難しいよ」。この気持ち、私にもよくわかります。

まず、現地の駐在員に余力がありません。現地化やコロナ禍で数が減って業務だけで手一杯なのに、リスクの程度もわからない課題のために時間を確保するのは困難です。現地社員も忙しいので、不正対策に協力を得られるかどうかは未知数。下手をしたら反発を喰らって騒ぎになるかもしれません。

また、何かあやしい痕跡が出てきたとしても、中国語の資料しかないと判断できません。翻訳会社に依頼するにしろ、社員に手伝ってもらうにしろ、いちいち時間がかかります。上がってきた翻訳を見ても意味が取れない。確認のために追加資料を出せといってもなかなか出てこない。そんなことをやっているうちに時間だけが過ぎていきます。

社内外のリソースを使って何とか現状を把握したとして、規定に不備があれば見直しをしなければなりません。それから改めた規則をきちんと守っているか監督して、問題があれば是正して、厳しく運用していく。何かあればすぐ対応してボヤのうちに消し止める。

ここまでやろうとすると、かなりのパワーが継続的にかかります

そこに輪をかけて、駐在任期の問題があります。3〜5年で交代する駐在員が現地マネジメントの実権を握るというスタイルは、実は日本企業だけのものです。組織の把握、言語の問題の解決、社員の見極めには時間が必要ですから、誰かが不正対策を頑張っても、その人が帰任すればまた元に戻ってしまいます。

5年も10年も付き合って、お互いにいろいろ理解しているトップがいれば、下も迂闊なことはしません。けれども、来たばかりで右も左もわからん、言葉もわからん、書類も全部は読めない、そんなトップばかりが定期的に入れ替わっていく環境なら、ふとしたきっかけで不正に手を染めることは容易に想像できますよね。

駐在員を置くことも難しくなってきた時代に、任期を変えるのは困難だろうと思います。私も駐在員の短任期を改めましょうとまで言うつもりはありません。

でも、少なくとも日本側には、不正管理という面でこれが大きな弱点であるという認識は必要です。

身も蓋も無い結論ですが、結局、マンパワーが足りない状況で不正撲滅は実現できません

駐在員には顧客対応や本社との協議など、優先しなければいけない、しかも緊急性の高い仕事がどんどん入ってきます。すぐやる必然性のない不正予防に割く時間は、正直、いつまでたっても取れないでしょう。

根本から不正を撲滅しようと思ったら、「ルールを入れ替えて、運用を監督する」以上の方法はないと思います。社内でマンパワーが確保できないなら、ここは外部リソースをフルに使って、駐在員や社内の負荷なしでルール徹底が継続できる仕組みを確立していただきたいところです。

外部も使った仕組みがうまく機能すると、駐在員と日本側のストレスは激減します。不正対応で時間を取られることがなくなり、本来の業務、事業をどう守り育てていくか、人をどう育てて事業を継続的に発展させていくかに専念できるようになります。

不正問題は、マイナスをゼロにする戦いです。この戦いからプラスの利益は生まれません。

こんなことに皆さんが労力・気力を使い果たしているのは本当にもったいない。また、不正にメスを入れられず、利益が蒸発し、組織が腐っていくのを看過しているのは、もっともったいない。

この領域はさっさと卒業して、かけた労力や熱意がちゃんと積み上がっていく基盤を固めてほしいというのが私の思いです。

 

<お知らせ>

チェイス・ネクスト主催の不正対策セミナーを不定期で開催しています。次回は23年6月8日です。ぜひご参加ください。

 

(終わり)

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