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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント①「並」の組織では生き残れない

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2023年9月8日

コロナ禍を乗り切り、日本企業による中国拠点の経営は小康状態に入ったように見えます。爆発的に伸びることはないが、特に大きな問題もなく、日々の業務は淡々と回っている。日本の低成長に慣れた日本人の目には、好ましい風景と映るかもしれません。

しかし、中国は相変わらず爆速で変化しています。強まる監視の目、力強さを欠く経済、少子化、就職難……、中国社会は閉塞感を増し、反スパイ法の成立、処理水の問題など、日本人駐在員も漠然とした不安を感じずに暮らしていくことは難しくなっています。

そんな中で、中国における自社のあり方について、いちど立ち止まって考えようとする企業が目立ってきました。中国市場に手厚い戦力を振り向けるにしろ、見切りをつけて撤退へ舵を切るにしろ、ただ流れに身を任せていてはジリ貧だと、日本企業も気づき始めています。

現地化という一事をとっても、日本本社の関与を強める動きが見られるようになりました。DACにも、これまで目をつぶっていた不正行為の撲滅、組織風土の根本的な改革など、重い課題の依頼が相次いでいます。コロナ前までは現地化一辺倒、「現地のことは現地で」という強力な流れがあったことを思い出すと、ここへ来て潮目が変化しているようです。

本連載では、「うちはいまのところ回っているけれど、このままで大丈夫なのか」という危機感を覚え始めた日本企業に向けて、敵がはっきりしない時代に生き残るにはどうすればいいのか、現地マネジメントを中心に考察していきます。

■ 中国という事業環境は存在感を失わない

先日、東洋経済オンラインに「日系企業の中国事業、9割超が『拡大・維持』を志向」という記事が出ていました。中国に拠点を置く日系企業の団体である中国日本商会がまとめた白書の内容を報じるもので、見出しは今後の中国事業展開についての意識調査の結果です。

コロナ禍を経た現地の日本企業は、大多数が現状維持あるいは拡大を検討中と答えています。日本で暮らしている方は、この結果に違和感を覚えるのではないでしょうか。

最近の日本では、中国から撤退したり規模を縮小したりする大企業のニュースが相次いで報じられています。経済安全保障の観点から「脱中国依存」を主張する声も目立ちます。デカップリング時代のサプライチェーンをどう維持するか、経済安全保障に関して取引先に改善を求められたらどうするか、何らかの制裁で影響を受けるのではないか……。

私が委員を務める某商工会議所も、中小企業が中国を含む外国企業とどう付き合っているか、経済安全保障の観点からアンケート調査を行ったりしています。

どうやら日本の霞が関あたりから見ると、現在のホットイシューはこの辺にあるようです。そしてその意向を受けた大手メディアは「中国は危ない」というニュースを積極的に流しています。そんな情報にばかり触れていると、日系企業の9割超が「拡大・維持」を志向といわれても、にわかには信じ難いですよね。

しかし、現地をきちんと見れば、霞ヶ関以外の世界では経済安全保障を云々する段階はもう終わっていることがわかります。欧米の会社だって、母国の顔を立てて振る舞い方には気をつけていますが、中国から手を引くことは考えていません。

「経済安全保障の面で不安があるから中国はやめよう」ではなく、リスクを分散し、現在の事業環境でどうやってうまく利益を上げ続けるかに注力しています。

先日はエアバスが、もうヨーロッパと中国でしか飛行機を製造していない中で、新しい機種を中国からヨーロッパに初納入という報道がありました。結局、いま好調な会社は、テスラしかり、アップルしかり、続々とトップが中国を訪問して、これからのビジネスをどう広げていくかという話をしています。

日本も経済安全保障を真に受けてビジネスを停滞させている場合ではない。冒頭に示したアンケート結果は、その気分をよく示していると思います。

急速成長の時代からコロナ禍を経て、いまの中国には確かに閉塞感があります。新赴任者の方などは、イケイケだと思って行ったのにすっかり停滞していて、生活感覚は日本とあまり変わらないや、と思うかもしれません。

でも、経済成長率も人口も、中国はなんだかんだ言ったって日本の10倍。そして距離的な近さもこの先変わることはありません。中国という事業フィールドが日本にとって存在感を失うことはないと思います。

■ 並の組織では生き残れない

この連載では、これからの時代に日系企業が中国でビジネスを「維持・拡大」していくために、現地の組織をどうマネジメントしていったらいいかという話をしたいと思います。

現地組織をマネジメントする目的は、継続した業績の確保・向上のため。これは業界や規模を問わず共通しているでしょう。営利組織である以上、継続的に収益をあげ、会社の業績に貢献する拠点でなければ、拠点を維持し続ける意味がありません。

私は20年間、実にさまざまな中国拠点の経営を見てきました。素晴らしい組織もありましたし、呆れるような経営をしている会社もありました。その経験から言えることは、並の組織では「中国で業績を上げ続ける」という目的はとても果たせないということです。

中国は変化も競争も激しい環境です。「並」を保つのも非常に困難だと思います。ビジネスのキモをつかんだと思っても、事業環境はどんどん変わっていくし、ライバルもどんどん入ってくる。平均を取ってりゃ大丈夫という発想では間違いなく沈んでいきます。

これは別に日本企業だけではありません。この20年に出てきては消えていった中国系の新興勢力を見れば明らかなように、沈んでいく会社の方がはるかに多い。業界ごと消えた商売もありました。中国事業は、常に下りのエスカレーターに乗っているようなもの。自分の足で上り続けて初めて今の位置をキープできるかもしれない、という事業環境です。

現状維持を目標にした「並」の組織では、現状維持も許されません。多少の波では揺るがない、力強い組織を作る努力をし続けることが、生存競争のスタートライン。そして、自分たちで挑戦・成長・貢献しようとする組織を目指すことは、誰の動向にも左右されず、自力で取り組めることです。

……ここまでのような話をすると、よくこう言われます。「まあ、小島さんの言うこともわかるけど、うちはいまのところ大した問題はないから、とりあえずこのままでいくわ。何かあったら相談するよ」。

この発想は致命的です。私が言っているのは、「このままでも十分だけど、もっといい組織をつくりましょうよ」という話ではありません。強い組織を目指し続けなければ、中国事業で業績を向上させるのは無理。この点をしっかり認識しておいてください。

(続く)

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