こんにちわ、ゲストさん

ログイン

敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑦日本企業はブレーキが踏めない

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

無料

2024年4月10日

■ チェック機能は働かなかったのか

前回、経営の現地化(属人化)を進めた末に警察沙汰になった事例を紹介しました。どこかで引き返すポイントはなかったのか、改めて考えてみます。

結論から言うと、総経理の赴任から解雇を決意するに至る10年近くの間、日本側のチェック機能はほとんど働きませんでした。これはこの会社だけではなく、同じような「現地属人化」を進めている会社の99%が同様の道筋をたどると思います。

当然、現地からの報告は上がってくるでしょう。数字は本社も見ています。でも、実際に何が起こっているのか、日本側には見えなくなります。なぜか。現地の人事権を一人の責任者に握らせたからです。その時点で、他の社員からは声が上がらなくなります。

日本側は「100%の人事権なんて持たせていない」と言うかもしれません。が、権限の線引きをふわっとさせていると、結果的に現地のボスが全部を握ります。中国の組織としては、その方が自然だからです。

中国は基本的に絶対的なボスが一人で君臨する社会です。組織のメンバーは、誰がボスの座を占めるかが全てだと捉えています。そして、ボスとは実質的な生殺与奪権(人事権)を握る人。駐在員かもしれないし、現地幹部の場合もあるし、現場管理者だってあり得る。肩書きではなく実質的な支配力の世界です。

ボスが支配権を固めると、実務は少しずつブラックボックスになっていきます。中で何をやっているかわからないから、事があれば日本側は現地ボスに頼るしかない。ボスの方も、そうやって日本側や日本人駐在員を意図的に自分に依存させていきます。そして気づけば、もうその人を外せなくなっているというわけです。

■ 目を離さなければ引き返せるか

日本側がしっかり目を離さないでいたら大丈夫かというと、私は無理だと思います。

権限(実質的な権力)を持たせてしまえば、どれだけ密に報告させても難しいです。報告の内容が虚偽とまでは言いませんが、言葉の問題がある上に、権限を持つ人が情報の流れを支配するので、部下が自分に都合の悪い振る舞いをすれば見逃しません。現地は全員がボスの方しか見ないイエスマン集団になってしまう。この習性は役所から企業まで同じです。

中国には、現状が気に入らなければ、ルール無視で勝手に変更を積み上げて既成事実化してしまおうとする人たちがたくさんいます。取り決め、約束ごと、契約関係……、どんな厳しい仕組みを作ったとしても、既成事実でどんどん現実を上書きしていく。その最初の一歩を見逃したり看過したりすれば、勝負は決まります。

そんな状況を作られてから解任するとなると、すべての業務を一手に握っている人を外すことになる。代わりをどうするんだ、混乱したらどうするんだ、反撃されたらどうするんだ……という不安が先に立ち、ちょっとやそっとの問題では解任できなくなります。

■ なぜ早い段階で動けないのか

前回紹介した事例では、業績が下降線をたどる間、ちゃんと本社でも分析をして手を打つように指示していました。件の総経理も最初は謙虚で、対応も積極的。それがだんだん言い訳ばかりになってきて、本社からも「もうちょっとしっかりするように」なんて声をかけていたそうです。

で、そうこうしているうちに「どうもおかしい」となってきた。そのままさらに何年も経って、ついに大きな事件が起きた。そこで初めて「もうダメだ!置いておけない!」に至りました。

これは日本の会社では非常によくあるパターンです。「なんかおかしいな」程度では誰も動かず、見守るだけで事態を悪化させ、それでも我慢して我慢して、ある一線を超えた瞬間に「アイツはクビだ!」と大爆発してしまいます。

長年見ていて思いますが、日本企業は初期段階で動くのが本当に苦手というか、現状維持でいいじゃないかという力が強く働く組織です。逆にいえば、現状維持を破るには相当のパワーか大きな外圧でもないと無理。

そして、この日本企業の特性は、実権を握り、会社を私物化したい中国の現地ボスにとっては、非常に相性がいいし好都合です。

まず、小さな気づきの段階で介入するには現地社員の協力が必要ですが、人事権を現地責任者に渡してしまっていると、誰も協力してくれません。社員にとっては現地(自分の生殺与奪権)を握っている人がボス。ボスを売るような真似をしたら自分の立場が危うい。よっぽどのことがない限り、現地社員はボスを裏切って日本側についたりしません。

それから、日本側は「疑わしきは罰せず」の精神が骨の髄まで染み込んでいます。実際、いくら現地に丸投げとはいっても、本当にほったらかしなことは少なく、内部監査や出張者の往来は普通にあります。現地に行っている以上、たとえ数字に出ていなくても、ちょっとした異変に誰もまったく気づかないとは考えにくいのですが、決定的証拠がない限りは動かないのが日本人です。とにかく大ごとにしたくない、表沙汰にしたくないという気持ちが強く働きます。

現地ボスは、初期の内部監査でボロが出るようなことはやりません。日本側の反応を見ながら少しずつ広げていきます。一方、日本側は裁判そのものを恐れるため、絶対確実にクロとなるまで処分には踏み切りません。結果、それこそ最終的には駐在員を警察に突き出すようなところまで行ってしまう。日本側は、そこまで至らないとブレーキを踏み込めないんですね。

(続く)

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ