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ログイン2014年4月2日
コラム概要
中国やASEANでは労務問題が大きな課題であり、就業規則の有効性確保と活用が必要不可欠。紛争時に機能することは重要ですが、抑止力として日常管理における啓蒙や教育に用いるのが最も健全な姿です。
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インドのトヨタ社がロックアウト(労働争議で会社側が従業員の争議行動に対抗するための工場閉鎖)に出たとのニュースがありました。社外の組合活動家が入り込んで従業員を煽っているようだ、という話も読みました。いまの日本ではストライキさえ少ないので、ロックアウトとか、中国で多い山猫ストライキ(一部の組合員が組合組織の指示に基づかず起こすストライキ)など、専門書や教科書でしか目にしませんが、アジアの他国では自社が直面するかもしれない現実の課題です。
最近は、中国のIBMで企業売却に関する大規模なストライキがあり、雇用を維持する社員にも退職一時金(経済補償金)を支払うことを約束し、一方で首謀的社員20人を懲戒解雇にしたとの記事がありました。
このように、ストライキにせよ個別の紛争にせよ、労務問題の発生と解決は中国やアジアの現地法人にとって、いまここにある危機。そして、労務問題は、現地経営者や管理者にとって、社内組織マネジメントの最初の関門です。
●現法マネジメントの最初の関門・労務問題
労務問題が発生した際、心情的に会社寄りの社員も、どっちつかずの日和見社員も、会社がどう対応するかを見ています。強硬姿勢を取りすぎて問題が拡大したり悪化したりすれば、優秀な社員が会社のリーダーシップとマネジメントに対して失望感を抱きます。腰の引けた対応やゴネ得を許す結果となれば、「模倣犯」の増加を招きますし、まじめな社員は失望したり会社の風紀や規律の悪化を心配したりします。規律や公平性の原則を毅然と貫きつつ、懐の深さや情も示す、というバランスが求められているわけです。
この労務問題、残念ながら日系企業は得意ではありません。対応によっては、「雨降って地固まる」で、問題が起きる前より社内の風通しや士気が高まったりするのですが、日系企業では、どうも腰が引けすぎて社員に舐められてしまったり、強硬が災いして騒動が拡大し当局の介入を受けたり、根本解決を先送りしたため毎年のように問題が再発して悩まされたりしています。
労務問題が続発する、あるいは続発することを経営者が恐れるような状態では、社員が落ち着いて仕事に専念し、成長することがありません。混乱を嫌気して辞めていく優秀な社員もいるでしょう。ましてや同じ目標に向かってお互い刺激しあいながらチーム力を発揮するようなことなどありません。こういう意味で、労務問題は組織マネジメントの最初の関門なのです。
●労務問題に向き合う前提条件は就業規則
労務問題といっても様々な情況があるため、解決方法も一律ではありません。しかし、必要不可欠な条件が一つあります。就業規則の整備・活用です。特に、中国のような国では、就業規則は労務管理の命綱と言えるぐらい重要です。
ここで、制定ではなく整備・活用と書いたのには意味があります。持っていても十分に機能しない場合が多々あるからです。これは消火器と同じ。買って置いてあっても、不良品だったり、有効期限切れで劣化していたり、どこかにしまい込んで忘れていたりしたら、いざ火事!という時、まったく役に立ちません。
就業規則も、『有効性の確認』、『定期的な更新』、『日常管理での活用』をしていないと、仮に労働仲裁や裁判となった時、まったく役に立ちません。実際の案件でも、就業規則の有効性に問題があると、具体的な中身の審理に入らず会社の全面敗訴が決まってしまうことがあります。
では、どういう観点で有効性をチェックすればよいのか。四つ挙げておきます。( )は中国での要注意事項の例
□法律法規に抵触したルールがないか(有休、残業、罰金など)
□法律に定めがなく組織管理で必要な事項を明記しているか(重大の定義、病休の申請ルール、懲戒対象事項)
□100%は約束できないことを書いていないか(賞与、昇給)
□組織管理の手足を縛ることを書いていないか(採用や懲戒の手順、労使協議ルール、法定以上の福利条件)
法律法規は変更がありますし、労働者の意識や知識が変われば労務問題の内容や難度も変わります。最低でも二年に一度は更新の要否をチェックしてください。そして、日常管理で就業規則をルールとして運用してください。実態は就業規則より高い基準で支給していた、他の社員の時は経済補償金を払って和解した、規定違反があった時に警告や懲戒を実施していなかった……など、就業規則と異なるルールを運用していると、後から就業規則を持ち出しても通用しないことがあります。
つくっただけではダメ。弁護士さんにリーガルチェックをかけただけでもダメ。消火器として使えるようメンテナンスしてください。
●健全な状態は消火よりも予防
これまで、就業規則はいざというとき活用できるようにと書きましたが、本当に健全な状態は事前予防です。例えるなら、ちょっと物騒ですが警察官の拳銃。警察官が拳銃を携行するのは、犯人狙撃が第一目的ではありません。抑止です。強制力のある手段を持っているというだけで、ほとんどの場合は効果があります。それでもダメなら拳銃を構えて警告する。それでもダメなら威嚇射撃する。犯行能力を喪失させるために狙撃するのは最終局面です。
就業規則も、まずは入社時や日常教育において内容を解説し教育する。懲戒規定は「抵触した場合に罰する」ことが第一目的ではなく、「こういうことをしないように」という啓蒙のためにあります。そして日常管理の中で問題があれば、懲戒未満の段階で注意喚起のために用いる。それでもダメなら口頭や書面警告。さらには減給や降格などの処分。法廷闘争を覚悟して用いるのは最終局面です。
以上のように、就業規則は消火器としての有効性を確保しつつも、日常管理の教育啓蒙手段として用いて予防を図る、というのが労務管理における活用方法です。
ではまた次回!
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