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赴任者の引継ぎ・前編…引き継ぎたいもの、引き継げないもの

中国ビジネスレポート コラム
小島 庄司

小島 庄司

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2019年4月16日

春から初夏といえば異動のシーズン。中国駐在者の異動もやはりこの季節が多いです。赴任者の皆さんの任期が平均して三年だとすると、毎年、三人に一人は入れ替わっていることになります。

異動といえば「引継ぎ」ですが、この引継ぎ、海外拠点においてもなかなか重視されていないのが実情です。

とくに、本社の方で楽観的に構えていることが多いようで、「日本国内の支店間異動や事業部間異動と同じような感覚なのでは?」と感じることもあります。

内部牽制や人員繰りなど、異動発令から実施までを短くする理由も理解できますが、「スムーズな事業展開と業績の継続的向上」という大目的を考えると、引継ぎはもっと重視して丁寧に実施した方がよいのかもしれません。

なぜなら、引継ぎには、いくつかの重大なリスクが潜んでいるからです。

●現地の引継ぎリスク
①日常業務が停滞し、調子を戻すのに半年ぐらいかかる。部下は嫌気・疲弊していく。
②前任者が苦い体験から学んだ経験知が失われ、同じ失敗や改革の逆戻りを招く。
③当局関係者や取引先などとの関係がいったん切れ、業務に影響を及ぼす
④部下の不正や手抜きを誘発する。また、それを見極められない。

①日常業務の停滞

現地には現地のやり方があります。すべてが適切ではありませんが、試行錯誤の結果、そのやり方に落ち着いたというものも少なくありません。

ですが、引継ぎが不十分で、後任者がそのあたりの経緯を理解していないと「なんでそうなの?こうやるのが当たり前でしょ」と日本や他国でのやり方を持ち込んでみたり、「オレはそんなの聞いてない」と、業務の流れを止めたりします。

現地の社員たちは、「私たちが決めたことじゃない……、前任者と引継ぎができていれば済む話なのに。報連相はどこに行ったのよ」とか「今回もまた始まった」などと半ば呆れて見ています。

前任者が心ある幹部と一緒に進めた改革や新しいやり方を鶴の一声で潰したりすると、改革に協力してくれた社員たちはハシゴを外されることになり、二度と進んで協力してくれなくなります。最悪の場合は、改革反対派に糾弾され、本当は最優先で残すべき社員たちが会社を去って行きます。

②経験知が継承されない

これについては、よくある失敗事例を挙げれば分かりやすいです。

□日本語人材への過度の依存
□過去と一貫性のない労務問題の処理方法
□社内の酒席やプライベートでの失敗
□安易な採用や給与交渉
□忠実を装う問題社員に乗せられる
□人事制度やルールを曲げた特例措置の乱発
□自分の「常識」を振りかざした管理

いずれも、引継ぎ期間が長めに取れれば、酒の肴に前任者の失敗体験を聞いたり、実際の事例に直面したりすることで、ある程度は失敗前に学習可能なことではないでしょうか。

とくに、社内の(非公式な)人間関係、表面では分からない幹部や管理者の素顔、過去の労務問題の歴史と処理などは、短期間の引継ぎでは継承できないものの、絶対に共有しておくべき事項だと思います。できれば、賃上げなどの労使交渉も前任者・後任者で一緒に経験しておきたいところです。

私が悔しかったケースでは、不正や問題幹部の一掃と将来を託せる人材の育成登用を目指して、前任者や事務局メンバーと一緒に一年以上かけて新人事制度を固めたのに、後任者が着任早々「使いにくいからやめる」と宣言し、鉛筆を舐めて調整する時代に戻してしまったことがありました。

参画した幹部は他部署に異動したり、会社を離れたりし、経営者のためにつくったチームがあっという間に瓦解しました。結局、この会社は、過去最高益から一年で赤字に転落し、経営者も一年で帰任させられました。引継ぎ期間が十分で、前任者の思いや背景が共有できていたらと思うと、非常に残念です(引継ぎ期間は正味一か月足らずでした)。

③当局や取引先との関係が切れる

日本でもあることじゃないの?と思われるかもしれません。顧客(とくに日本人)に対しては確かにあまり違いはないかもしれません。

ですが、中国人は組織の関係より個人の関係を重んじます。役所などは以前よりも「人治」の面が薄らいできましたが、それでも、難しい問題に直面した際、お互いの顔を知っているか、直接相談できるかは重要な意味を持っています。

コンプライアンスや当社の取引ガイドラインといった名目のもと、または「自分はそういうことが好きではないから」という理由で、前任者が時間をかけて築いてきた関係を安易に壊してしまうと、ゼロに戻るのではなくマイナスに振れます。

実際に相談を受けた例では、関係を築いていた前任者が帰任した後、関連当局から設備の不備を指摘されて生産停止に追い込まれたり、過去二年に遡って巨額の課徴金を課されたりしました。逆に、個人的な関係があったことで、普通は門前払いされる申請が受理された、期限通りに対応できなくてもペナルティなく猶予してもらえた、ということもありました。

また、取引先との関係では、トップ同士の関係を断ってしまうと、相手の中での優先度が下がったり、部下が相手との関係を継承して癒着・不正が生じたりということもあります。

④手抜きや不正の誘発

前任者との引継ぎが不十分だと、「前からこうでした」、「この会社ではこうやっています」、「前任者の指示です」などと社員から主張されても、それが事実なのか検証できません

また、業務のどのあたりで不正が起きやすいか、手抜きが起きやすいかといったポイントも、ある程度時間をかけて実務を共有しないと、なかなか引継ぎできません。

前任者の時代にマークされ冷や飯を食ってきたという思いのある問題社員や、隙あれば自分の利益拡大をと狙う曲者たちは、上司の交代タイミングを絶好の機会だと捉えます。

ダメもとでも揺さぶってみようか、これをサボっても今度の上司は厳しいこと言わないんじゃないか、これくらいのことをしても気がつかないんじゃないか、などと後任者を見定めるようにいろいろ仕掛けてきます。

……以上、見てきたように、引継ぎタイミングにはいろいろなリスクが存在します。そして、これらは引継ぎ文書にまとめることが難しく、また文書を読むだけで体得することも困難な領域です。

引継ぎにおいては、資料や打ち合わせで継承できる「形式知」よりも、一緒に時間を共有しながら実務や酒席を通して初めて引き継げる「暗黙知」の方が、はるかに重要だということを、ぜひ認識していただきたいと思います。

次回は「本社に伝えたい引継ぎのあり方」です。

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