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人事労務は経営者の仕事:中国やASEANはアウェーじゃなくてラリーです。

中国ビジネスレポート コラム
小島 庄司

小島 庄司

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2014年2月17日


コラム概要
アウェーに行けば、不利な情況で戦うのはどの世界でも当たり前。まして異なる競技に参入するなら過去の成功体験を振りかざしても意味がない。中国やASEANでのビジネスも同じ。自分の常識が通じないからといって「信じられない!」などと文句を言わず、謙虚に相手のルールを学んで勝ちにいきましょう。

タイの反政府デモのニュースが続いています。現地の方の話では身の危険や事業の継続を危ぶむような情況ではなく、逆に日本からの「大丈夫か?」の連絡に温度差を感じて驚くとか。こういう落差は中国でも経験があります。

タイでは議会選挙を巡って動きが激化しているようですが、紛争が突然勃発したわけではなく、もうだいぶ前から政治体制をめぐる対立が続いてきました。できるだけ穏便な形で収束していくことを願いますが、どうなっていくのか分かりません。

タイといえば、2011年には甚大な被害をもたらした大洪水がありました。今回は反政府デモによる首都の都市機能への影響。中国の次は、タイを中心にASEANを使って事業展開するタイ・プラスワンが注目されていますが、タイはタイでいろいろな経営リスクや事業阻害要因があります。フィリピンやベトナム、インドネシアも同様。担当役人への付け届け、手続の遅さや煩雑さ、宗教、人の気質など、内容は違っても思う通りに進まない厄介な課題が待っています。

自国から外に出て事業経営を行うというのは、こういうものです。サッカーだって野球だって敵地ではいろんな逆風を受けます。宿舎や食事で体力を削がれたり、練習環境や練習時間で集中を削がれたり、観客のブーイングや審判の笛に悩まされたりするわけです。いわゆる『アウェー(ビジター)の洗礼』。

しかも、海外での事業経営はアウェーどころではありません。サッカーなら、競技場やゴールやボールの規格は基本的に世界共通。プレーヤーは11人で1人がキーパー。オフサイドやハンドも同じ。アウェーに行ったら相手は11人でこちらは10人だったとか、ボールのサイズが半分だったということはありません。
ところが、中国やASEANでの事業経営は、例えるなら『F1チームのラリー参戦』。ルールや舞台自体が変わります。

●F1とダカールラリーでは厳しさの意味が違う
F1はモータースポーツの最高峰。世界の最先端企業とドライバーが集い、世界最速の領域で火花を散らして戦う舞台。最先端ゆえに規定も細かく定められていて、エンジン、車型からタイヤに至るまでルールを厳格に適用してレースが行われます。最速領域での勝負ゆえにサーキットも厳格な事前承認を経なければならず、路面の仕上がりから排水機能、観客席の安全性までチェックされます。

一方、世界一過酷なラリーと言えばダカールラリー。そもそも道がない、砂漠のど真ん中、壊れても修理しながら走るなどの過酷さが有名で、カーレースというよりも総合格闘技のようなレースです。ルールはあるものの、レース途中での故障やストップは当たり前。想定もしないようなトラブルに日々見舞われる中、臨機応変に、忍耐強く日々をやり過ごさないと、完走さえできません。

F1とダカールラリーは、どちらが厳しい勝負か議論しても意味がありません。厳しさの意味が違うからです。

●ビジネスの舞台で見ると
欧米や日本でのビジネスは、言ってみればF1。法律政策により市場競争のルールが整備され、厳格にルール適用される中でしのぎを削ります。職務や業界によって給与の相場感があり、労使間の問題はあるものの、整備された枠組みの中で解決を図ります。契約を締結すれば履行するのが当たり前ですし、もし不履行が生じれば、公的な紛争解決機関を通じて、概ねバランスのとれた妥当な解決が図られます。

一方、中国やASEANでのビジネスは言わばラリー(競争の激しさと日系企業への逆風という点では中国ビジネスがダカールラリーと言えるかも)。法律法規はあるものの、当局の実務自体がルールと異なる場合もしばしば。明文化されないルールだって多々あります。法律同士の矛盾や空白地帯があることもあれば、紛争解決機関において『人道的見地からの判断』と称して、法律法規を曲げた裁決が行われることさえあります。

中国では、ダブルスタンダードを適用されて壁にぶつかったり、足をすくわれて転んだりして、「こんなのおかしい!」と声を上げたところで、ライバルは知恵と技を駆使してこれらの障害を乗り越え先に進んでいきます。欧米系の強豪も、接待や贈賄攻勢で捕まったり、重箱の隅を突くような問題で叩かれたりすることがありますが、彼らはひるまず進んでいきます(良し悪しや、日系企業が同じ道を行くかどうかは別にして)。

まさに中国やASEANのビジネスはラリーの世界なのです。
 
●挑戦者の姿勢を取り戻せ
最先端のF1で実績があろうと、同じ意識と準備でダカールラリーを戦うことは不可能です。砂丘に車の頭を突っ込んで「なぜ道路がないんだ?F1では考えられない!」と叫んでも、相手にする人はいません。ラリーを戦う以上は、F1のチャンピオンといえども、謙虚にラリーの世界のルールを知り、戦い方を知り、相応の準備をしない限り、完走さえ無理でしょう。

中国のビジネスも同じです。米国で初の拠点をつくる際、社長自ら空港まで駆けつけ、万歳三唱で見送ったあの頃。欧州への初赴任に際して、ビジネスマナーだけでなく、食事のエチケットやオフのもてなし方まで学んだあの時代。そもそも遣唐使の時代は、中国に向かってだって、同様の緊張感と挑戦者としての気概を持って臨んでいたのです。

いま、世界でも最も過酷な中国ビジネスに挑戦している皆さんは、同様の緊張感と準備をしているでしょうか。挑戦者としての謙虚さはあるでしょうか。地方に一支店を出すぐらいの感覚で商売していないでしょうか。もし、ルールも舞台も異なる市場で勝負する覚悟と準備ができていないとしたら、砂丘に体を半分突っ込んで砂を噛み締めたり、車体を大破してリタイアしたりしても、不思議なことではありません。

中国で事業を展開して中国で儲けようとする以上、中国ルールに適応するのは当然。中国流を熟知しながら日本流の魅力を活かして勝負し、きっちり勝つ。これこそ日本的経営の真髄だと思います。これはASEAN各国でも同様。謙虚な挑戦者の姿勢を持ちながら、自社流の強みを活かして勝ち抜くことに集中しましょう。

ではまた次回!

(2,433字)

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