こんにちわ、ゲストさん

ログイン

海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 09

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

無料

2022年4月25日

【部門・領域別】不正はここで起きる【調達部】対策編(2)

調達不正について見てきました。まとめとして、具体的な対策を考えます。

■ 調達不正防止に魔法はない

他の部署と同様、調達不正にも「これをやれば安心」という魔法はありません。総務の場合と同じように、取引先に堅い業者を選ぶこと、双方とも担当者レベルに決定権を持たせず常にトップが絡むようにしておくこと、全数検査をしないものは抜き取り/抜き打ちのチェックをすること、日本人が価格相場を把握しておくこと、につきます。

弁護士のおすすめは、とにかく全ての取引先から「不正行為の防止に係る誓約書」をもらっておくことです。「あらゆる不正行為を行わない」といった内容を含む誓約書です。実は、これに法的な実効性はありません。でも抑止力にはなりますし、少なくとも不正が発覚したら即契約を打ち切ることができます(もちろん契約書の内容をそうしておかなければダメですが)。

先方から不正共謀を持ちかけるのは論外として、万が一、ウチの担当者から何か言ってきたら報告してほしい、その代わり継続取引は保障するから、と先方のトップに伝え、でも発覚したら徹底追及するからね、と釘を刺しておきます。

前回も書いたように、中国の民営企業の不正は担当者の個人利益のためというより会社利益のために組織ぐるみで行う場合が多いですから、相手が大企業の場合は難しいかもしれませんが、トップに警告しておけば一定の効果があります。

また、業者選定では最低限の身元調べはしましょう。候補先を選んでくる担当者は意図して情報を出さないこともあります。わざわざ高額な信用調査サービスを使わなくても、政府系の登記情報サイトは無料ですし、中国の弁護士が使っているような企業情報調査サイトも費用はそんなに高くないです。弊社でも基本的な調査サービスを提供しています。

これらで会社概要、出資者名、関連会社、登記地、設立年、過去の訴訟履歴ぐらいなら簡単に調べられます。プロが見れば、こういった情報からも懸念点・留意点は見て取れます。名刺や会社紹介の資料だけチラッと見て満足していては危ないです。

「中国語がなぁ……」という方は、多少フィーを払って外部の弁護士などに頼んでください。どこを見ればいいのかわかってくると、設立年が浅い、登記地がやたら遠い、明らかに関係者が出資しているなど、基本的なところで「おや?」と思えるようになります。引っ掛かりがあったら社内の担当者に聞けばいいのです。

継続的に一定額以上の取引が発生する場合は、相手の住所地に現地確認に行くのもいい方法です。工場所在地と言われた場所に行ってみたら民家だった、工場にかかっている看板の社名が違っていた、なんてケースもあります。

日本の会社には、こんな風に裏をとるという習慣がありません。ウチはきちんとしているよという会社でも、専門セクションが民間の与信調査会社に照会する程度ですし、日本なら信用に多少問題があるとしても、そもそも会社実体が違うというような大胆な偽り方はほとんどしないですよね。

数量や品質に関するチェックとしては、時々、実際に調達品を使って作業をしている部署の社員に話を聞くこともおすすめです。最近なんだか部品が粗悪になったとか、道具が壊れやすい気がするとか、昔の方が箱が重かったという声があれば、聞き逃さずに拾い上げる。客先からのクレームには皆さんも真摯に向き合っているでしょうから、それに加えて、実際に調達物を使っている社員の反応に目配りをしておきます。

また、気づいたら取引先が勝手に入れ替わっているケースもあります。ときどきは領収書、請求書、納品書の取引先名称を付き合わせて、変わってないかチェックすることも必要です。

■ マイナスをゼロにする作業は外部に

ここまで解決方法を挙げてきましたが、正直にいうと、この領域にはぜひ外部を入れていただきたいです。自社で一件一件調査するのはどう考えても手間ですが、何もしないで放置していると会社利益が吹っ飛びかねないからです。現地の弁護士など頼れる人が周りにいるはずですし、いなければ弊社に声をかけてください。

調達は、会社としての利益に直結するやり取りをしています。1%、2%の原価低減だって大変なのに、調達が組織的な不正にハマって10%、50%と上乗せされていたら、血が滲むような努力をして得た原価低減効果など、あっという間に吹き飛びます。

そして、不正や汚職の話は、経営層や日本側には見えなくても、社員同士は噂でうすうす知っています。経営層が1%のコスト削減を叫ぶかたわらで調達部や総務部が何十万元、何百万元の不正利得を得ていると知っていたら、「人がいない部屋の電気を消せ」「コスト3%削減のための提案活動に取り組め」なんて言われたって、アホらしくてやっていられません。無能経営者・ザル上司だと反感すら覚えるでしょう。

不正が怖いのは、利益が失われるだけでなく、こうして真面目な社員のやる気を殺いだり、経営への信頼を喪失させたりする点です。見切りをつけて辞めていく優秀な社員も出てきます。これらは会社の未来を損なう重大なダメージです。

慢性赤字に陥って撤退・清算を選ぶ会社には、もし不正による利益の流出・蒸発がなければ黒字体質だったというところも少なからずあります。このような撤退は、投資者だけでなく、真面目な社員・その家族・取引先や地域社会にとっても不幸なことです。不正は必要悪ではありません。撲滅すべき問題なのです。

繰り返しますが、不正防止に特効薬はありません。業者選定プロセスや契約ルールを見直して是正し、現行の契約内容が適正かを確認する。その後は改正したルールに則って運用されているか、実際の申告と記録が一致しているかチェックする。それだけです。

不正との戦いはマイナスをゼロにするだけの地味な作業です。でも、どうせコストがかかるなら、不正を行う輩に払うより、予防に払った方がよっぽど建設的だと思いませんか。その上で、皆さんやエース社員は事業の産出価値を高める創造的な仕事に集中していただきたいと思います。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ