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海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 10

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2022年5月16日

【部門・領域別】不正はここで起きる【保全部門】リスクポイント編

今回から保全の話をします。保全の仕事内容や組織内の位置付けは業種・会社によって異なるでしょうけど、大まかに「設備のメンテナンスをする部門」と定義して進めますね。不正の起こりやすいポイントは割とはっきりしているのですが、対策は意外に難しい部門です。

■ 復旧を焦る気持ちが不正の下地

保全に関して悩ましいのは、相見積や並行購買が難しいことです。担当者もそれを知っていて業者とズブズブになりがちです。パッと業者を入れ替えられないのが、調達と違う難しさです。

保全が表に出てくるのは、「設備に不具合がある」「機械が壊れた」「ラインが止まった」という場面です。特にラインが止まったなどといえば、経営側にとっては早期復旧が至上命題になります。どの会社でも大きな設備の納入業者はだいたい決まっていますから、不具合が発生したタイミングで他社と見積もり合わせだとか価格交渉だとか、そんな悠長なことはしていられません。指定業者の言い値が通りやすい状況ができているんですね。

となると、担当者と業者が結託して、明らかに過大な見積もりを出すケースが多くなります。業者に多く儲けさせて自分に戻させるという流れは、これまで見てきた他部署と同じです。過剰な代替設備や、相場を大きく超える修理費を見積もって、とりあえずダメ元で出してくる。背に腹は代えられないから経営者は承認してくれるはず、と踏んでいます。

「これはすぐには直せません。上海からの出張対応になります」と言われれば、「しょうがないか」と技術者を呼びますね。その際、出張人数を多めに設定する、出張対応費やサービス料を上乗せする、緊急対応追加費用を加えるといったことができます。相手は指定業者だけに会社のことをよく理解していますから、「切迫度から言って、この程度の無理は通るはず」と逆手に取られることもあります。

これだけなら、余分な費用を負担させられる程度の問題ですが、生産に関わるもっと大きな問題があります。それが粗悪品を使った補修・メンテナンスです。

不正を行う側からすると、粗悪品を使った補修・メンテは一石二鳥です。まず部品を粗悪品に置き換えることで差額を稼げます。さらに粗悪品だから正規品よりずっと早く次のメンテナンスの機会が訪れ、その料金も稼げます。わざと粗悪品を使ったり、メンテナンスの手を抜いたりしておくと、頻繁に呼んでもらえることになります。

保全が本来目指すべき「ラインができるだけ止まらないように良い状態を保つ」とは、真逆の動機が働いてしまう。これは看過すべきではないポイントだと思います。

たびたび修理が発生しても、管理者は「このあいだ直したばかりだろう、どうなってるんだ」と文句は言いますが、切羽詰まった状況であることが大半ですし、いますぐサービス契約を打ち切ろう、業者を変えようという話になることはまずありません。向こうもそれを分かってやっています。

この状況は、単純に業者と担当者に金銭を抜かれているだけではなく、生産そのものが問題社員の個人的利益の犠牲になっているとも言えます。会社としては、担当者個人が不当に得た分だけの損失ではなく、ラインの安定/継続稼働という観点からも大きな損失につながっているのではないかと思います。

なお、同種の問題は、食堂や出退勤管理の機材など、総務部署の管轄領域でも確認したことがあります。外部業者による機材の修理やメンテが生じる領域ではあり得ると考えてください。

■ 職人気質の落とし穴

日本では保全・保守は職人気質な世界で、取引業者と結託して私的利得を得たいと思うような保全スタッフはあまりいないかもしれません。自然な感情として、自分たちの設備は自分たちで直したいと思っているし、直せることにプライドも持っています。経営者が何も言わなくても、勝手に(時には必要以上に)技術の向上を目指してくれます。

ところが、海外の場合はそもそもそういう意識がありません。予防・点検をしっかりやって故障を出さないことが自分たちの誇りだとか、保全は独力で直してナンボ、外部に依存するのは恥ずかしいなんていう職人魂はない(ゼロとは言いませんが)。日本人駐在員が当然の前提としている部分が、実は成立していないんですよね。

日本側は、現地法人の経営を進めていく上で、保全も将来的には全て内製化しよう、自分たちで日常メンテナンスくらいはできるようにしよう、ということを当たり前の流れだと思っています。日常的に手入れができていれば故障なんかしないんだから、持ち場の担当者がメンテナンスできるようになるのが最終ゴールだ、というような目標を立てて、そこを目指して一生懸命に指導もする。

でも、現地社員には従う動機もメリットもないことが多いです。「それ、できるようになったら特別手当でも出るんですかね?」なんて思っています。日本側が「なぜそこを目指すのか」「会社と本人の利益をどう一致させるか」を意識していないと、この溝を埋めるのはなかなか難しいです。

(次回に続きます)

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