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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑤VIP待遇の出張は無意味

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年1月26日

■ 自分で動かない出張者たち

アジアの現地感覚は、やはり実際に行って触れてみないことにはわかりません。が、ただ行っただけで知った気になるのも困りものです。

以前、こんな記事を読みました。あるドイツの会社では、海外出張は幹部の特権になっていた。どこへ行くにもホテルは5つ星、飛行機はファーストクラス、空港までハイヤーがお出迎え、冷房の効いた車内からサーッと街並みを眺め、食事は高級レストランのVIPルーム。お供の部下を引き連れて、大名行列のような出張だった、と(どこかの国の大手企業でも同じような光景が……)。

これに新しい経営者がダメ出しをして、そんな視察では何もわからん、いっぺんエアラインはエコノミー、宿泊はビジネスホテルの相部屋、食事は地元の食堂で食ってこい、と尻を叩いたという話です。

この会社はショック療法としてやってみたようです。海外出張を特権と勘違いしている幹部にはいい刺激になったかもしれませんが、本質的な問題を解決するという観点では、まったく踏み込みが足りません。

トップや幹部が最前線の現場に現地・現物・現実を見に行くなら、現地拠点に旅程をアレンジさせて据え膳で行っても意味がないと思います。

もちろん各国の治安レベルには配慮が必要ですが、できれば単身、リスク管理のために最低限の通訳を連れて行く程度にして、現地の中間管理職クラスが出張で使うような移動手段、宿泊施設、食事を体験してみることです。自分で手配まではできなくても、アテンド任せにせず、基本的に自ら動いてみなければ現地の生活レベルはわかりません。

自社の社員たちが飲みに行く店、週末に家族と行くようなカフェやレストラン、さらに庶民的な店にも入ってみる。その振れ幅を体験して初めて、現地の人たちの公共意識、衛生観念、要求水準などが見えてきます。

ある日系商社の中国人幹部は、日本人出張者にはそういう視点が欠けていると嘆いていました。

出迎えの高級車で空港からオフィスに直行し、ホテルは5つ星(ではまだ足りなくて、自分の“格”に合うお気に入りがある)。食事は高級日本料理や西洋料理。ちょっとでも不満があると部下を呼びつけて対応させ、現地社員の暮らしとはかけ離れたハイクラスのサービスを当たり前だと思っている、と。

私の知り合いの総経理も、日本の社長が現地入りするとなると、自らホテルの部屋まで行き、飲み物の種類・ブランド・本数・置く位置を確認。固定電話が通じるか、室温は、その他の必要事項をまとめた書き置きに何を記すか……までチェックするそうです。

役員によっても好みは違いますし、役員が交代すれば情報はリセット。だからその会社には「役員海外出張時の接遇マニュアル」が裏で整備されているとのことでした。

■ 利益を生んでいるのはどこ?

こういう会社と役員たちに欠けているのは、プロフィットセンターはどちらかという観点です。日々奮闘して事業を回し、利益を生んでくれているのは、現地の現場。せっかく出張するのであれば、彼らに「いつもありがとう」と土産を持って陣中見舞いに行ったり、「たまにはおいしいものをたくさん食べてくれ」と労ったりするのが道理でしょう。

最前線で利益を生んでいる彼らの時間や経費を、自分のために浪費させて当然と思っている役員や本社の輩は、天に唾する愚か者だと私は考えています。

そんな出張者ばかりが続くと、現地は業務に関しても期待しなくなります。業績に貢献してくれるならともかく、遊びとしか思えない態度で来て、あれこれわがままを言われてはかなわないので、最小限の手間で済ませられる「出張接待パッケージ」でやり過ごす。そつのないルートで、日本人が好きそうなものを用意し、表面だけ見せてそれなりに満足して帰ってもらおうとするわけですね。

余計なことを言われないように、自分たちの普段の姿なんて絶対に見せません。念のために言いますが、現地にそうさせているのは間違いなく本社ですよ。

■ 現地社員と同じ目線に立ってみる

経営トップや中国市場を開拓したい会社と違って、工場で技術を教えるような支援者には現地を知る必要はないだろうと思うかもしれません。なるべく快適な環境で過ごしてもらって、技術だけ伝えてくれればいい、と。

でも、本当はそういう人たちも現地の生活レベルや気質を体感するべきだと思います。なぜなら、技術系の出張者は「教える」立場だからです。

日本人出張者はよく「中国人は何回言っても覚えない」とボヤきますが、工場以外で若者を観察する機会があれば、対応策が見えてくるはずです。中国だったら、みんなスマホでTikTokばかり見ているなと気づく。なるほど、説明がショート動画なら見てくれるかも、と試してみることができます。

従業員に能力を発揮してもらうには、彼らと同じ目線に立って考えることが一番だと私は思っています。現地の人たちの教育レベル、生活レベルを知らなければ、自分の目の前の従業員が、何に関心を持っていて、何に興味を引かれるか、どうすれば学ぶ意欲を起こしてくれるか、考える手がかりがありません。

外資企業が現地で一段高いポジションに立って、学校式に「とにかく覚えろ」「言われた通りにやれ」「できないならクビ」という時代は終わりました。そんなやり方では労働者が集まらない、すぐ辞めてしまうとなれば、伝える側が工夫しないと、技術を継承してくれる人がいなくなってしまいます。

人を相手にする管理職や経営者はなおさらです。現地の生活レベルとかけ離れたサービスを享受して、快適な環境から一歩も出ずに仕事をしていては、現地のビジネスが見えるはずもありません。

現地から貪欲に学ぶということは、日本人は遣唐使の昔からやってきています。触れて学ぶ、見て学ぶというのは、日本人に合わないやり方ではない。

明治初頭の日本を考えてみてください。なけなしの金を持ってヨーロッパに行き、頑張って背伸びをして、失敗したり笑われたりしながら、ものすごい勢いで吸収してきました。現在でも、現地に学ぶという姿勢は、特に管理職以上には必須だと思います。

(つづく)

 

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