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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑥経営の現地化で起きたこと

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年2月26日

■ A社の話・・・順調なスタート

中国拠点を持つ日系企業が経営を現地化すると何が起きるのか。今回は事例を紹介します。

華北地方に進出しているA社の話です。ここは中国以外の国にも拠点があり、慣習的に「現地のマネジメントは現地の人に」という方針を持っていました。中国拠点もやっぱり中国の人にやってもらった方がいいだろう、ということで、トップを現地の人にするというマネジメントを20年ぐらいやってきたんですね。

当時、A社の中国拠点は二つ。一つは中国人がトップを務め、もう一つは日本に帰化した元中国人を本社から総経理として派遣していました。

問題になったのは後者の拠点です。この総経理は中国拠点のマネジメントのために採用した人で、日本国籍を取得するぐらいですから日本のことはよくわかっているし、もちろん出身地である中国のやり方も熟知しています。本人も熱意があり、派遣してすぐに新規顧客を開拓したり、調達ルートを変えて原価を低減したりと、大いに業績に貢献しました。

会社としても「よくやってくれてる、いい人を見つけた」と喜び、高く評価して彼に任せたわけです。

■ 5年目、雲行きが怪しくなる

ところが、5年を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなり始めました。

まず業績が停滞し始めます。景気は悪くないのに業績の伸びが鈍くなり、やがて頭打ちになってしまいました。日本本社が状況を確認すると、総経理は外部環境のせいにして「没弁法(仕方がない)」と繰り返すばかりで、自己反省や改革提案がありません。仕事への責任感や積極性が明らかに落ちていました。

時を同じくして、社内でも、知らないうちに業者が切り替わっていたとか、新しい調達先は総経理の親戚筋らしいとか、人事権を盾に社員を私用に駆り出しているとか、さまざまな噂が立つようになりました。

さらに年月を重ね、業績は上がるどころかついに赤字転落。総経理の不適切な行動について本社に内部通報が入るようになり、寄せられる情報もどんどん具体的になってきます。

その一つに「相場よりもかなり高い金額で仕入れをしている」というものがあり、調査のために日本から実務担当者が駐在員として派遣されました。

彼のミッションは、中国拠点の帳簿を確認して疑問点を洗い出し、日本に報告すること。丹念に帳簿を調べていくと、やはり問題が見つかりました。市場価格の倍では済まないような部材もあるし、説明不能レベルのコスト差がある物品を継続発注している。これはまだ出るぞと思った駐在員は、慎重にチェックを進めました。

この調査は日本本社直轄の特命案件だったため、総経理本人はもちろん、現地社内にも報告せず進めていましたが、当然、総経理は状況を把握していますし、危機感も抱いていたでしょう。この駐在員が若くて正義感の強いタイプだったこともあり、「このままコイツを置いておくわけにはいかない」と考えたのかもしれません。

■ ついには警察沙汰に!

そんな中、総経理にとって都合のいい事態が発生しました。この駐在員が調査対象になった部署のパソコン上のデータを確認しようとしたところ、部署の管理者が拒否。「勝手に触るな」「いや、これは日本本社の指示を受けて進めている調査の一環だから」と押し問答になり、あろうことか、部署の人が「プライバシーの侵害だ」と警察に通報しました。

この部署は総経理の息がかかった「天領」です。当然、明るみに出されたくない内容が多々あったでしょうし、部員たちも総経理の一味ですから、この駐在員に反感を抱いていました。もしかすると、警察に通報したのも興奮した末のアクシデントではなかったのかもしれません。

会社に警察が来て日本人駐在員を連行しようとしていると聞き、慌てた日本人董事長が総経理を叱りつけました(董事長は現地と日本を行ったり来たりしている立場で、たまたま現地にいました)。

「これは何の騒ぎだ!盗難や暴行ならともかく、業務の一環で会社のパソコンを確認しようとしただけだろう。内部管理の問題で駐在員を警察に連行させるなんて言語道断だ。総経理として連行を拒否し、本人を保護するように!」。

董事長に命じられた総経理は面と向かって拒否はしなかったものの、結局、指示には従わず、連行を阻止しませんでした。後から判明したのは、派出所で警官に対して「どんな罪でもいいから、とにかくアイツを処分してくれ」と依頼していたそうです。

■ 経営の現地化はどこで間違ったのか

この駐在員は一通り調書を取られただけですぐ帰されました。しかし、董事長は「そもそも筋違いな理由で警察に通報することが異常。それを日系企業の総経理として阻止もせず連行させ、駐在員の安全に懸念が及ぶような背信・背任は絶対に看過できない。完全に一線を越えた」と判断。日本本社も総経理の解任を決断しました。

もともと噂のあった不正行為について、日本本社はこれまで解雇の難しさ、総経理の負の影響力やコネ、本人の過去の功績・貢献などを考慮し、具体的な手を打たずに来ました。しかし、今回の件は常軌を逸しており、人身の安全が保障できないような管理体制は、経営の根幹に関わると判断されたのです。

ここから激しいバトルになり、心理戦も繰り広げられましたが、最終的に引導を渡して会社を去らせました。

この事件を経て、A社は体制を変え、中国拠点の総経理に現地の人をつけることはなくなりました。そのための採用もせず、今に至るまで、現地トップは生え抜きの日本人駐在員が務めています。

A社が「現地のことは現地の人に」という方向に動いたのは、日系企業の中ではかなり早い方です。他国での成功を踏まえて中国でもやってみた結果、最初の数年は期待通りに働いてくれたものの、最後はこんな形で終わってしまいました。

私は、この総経理の個人的な資質が原因だとは思いません。国籍も日本で、現地語も日本語もできて、業務経験もあって、日本採用の人材だったのにこの結果(しかも前半は期待以上の成果を挙げました)。採用時のチェックを厳格にすれば解決できることでもなさそうです。

ここで疑問が浮かびます。業績が頭打ちになってから、実際に問題が表面化し、ついに警察沙汰になるまで、4〜5年の時間がかかっています。いくら総経理が優秀だからといって、その間に日本側のチェック機能は働かなかったんでしょうか。

次回、もっと前に軌道修正することはできなかったのか、考えてみましょう。

(続く)

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