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人事労務は経営者の仕事:失敗するチャイナ・プラスワンは “ダメ転職”に似たり

中国ビジネスレポート 労務・人材
小島 庄司

小島 庄司

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2014年1月8日

コラム概要
チャイナ・プラスワンは海外戦略として、もはや定石。しかし、中国で学ぶべきことを学んでおかないと、他国に行っても同じ課題に直面する。『焼畑経営』にならないよう、中国現法を活用して異文化チームづくりの要諦を学びましょう。

初めまして。中国華北で、主に人事労務面から日系企業の課題解決を支援している小島です。北京に近い地味な1000万人都市、天津に住んで10年目を迎えました。

首都に近くて、どちらかというと保守的な街ですから、労務問題なんかはそりゃあなかなか大変です。以前、報道を見ていたら、上海の労働仲裁の結果が、会社勝訴3割、労働者勝訴3割、痛み分け4割と出ていました。同時期の天津が1割未満。会社主張が通ったのは1割未満だったという意味です。

さらに、天津の日系企業は愛知県周辺の製造業が多い。私、地元人なので言いますが、コスト意識が強く管理に厳格な会社揃い。だから堅実なわけですが、これを中国でやろうとするとかなり大変。

例えば2010年の日系ストライキ連鎖。天津の日系企業さんたちは緊張していました。労働者との衝突や賃上げが不安だったわけじゃありません(もちろんそれも困りますが)。○時間以上ラインを止めたらお客さんのラインが止まる、下手したら日本本社の役員が雁首揃えて詫びを入れにいくことになる。……サラリーマンとしてはかなり困る光景ですよね。

一方、米国系のある企業では、経営者がストライキを待っていた。完成品在庫が敷地に3か月分以上積み上がっているのでラインを止めてくれたら在庫がはける。仕事していない間の給料は堂々とカットできる。1?2週間と言わず、1か月半ぐらい頑張ってくれないかしら。

米国系企業の話は半分冗談でしょうが、ストライキにおける両者の対照的な姿は、日系海外現法の悩みの核心を突いています。ジャストインタイムで無駄のない経営をしようとすると、ストライキは致命傷。サプライチェーン全体にも影響が出る。加えて、「とにかく穏便に、リスクは回避して」というストライキやコンプライアンスに対する本社の姿勢。時として現地法人の手足を縛る最大の枷ともなります。

と、少し先走りましたが、とにかく天津のような労務に辛い街で、日本流の管理を求めつつ、でもムダな金は出したくない(欧米系のように金で早期解決するわけにもいかない)、という会社さんが多いわけです。となると、知恵と汗を出すしかない。知恵とは人事と労務の管理技術であり、汗とは日常のコミュニケーションと勤務管理。お陰でずいぶん揉まれました。

現地で学んだことや見てきたことは、これから書いていこうと思いますが、今回は、もはや当たり前となった「チャイナ・プラスワン」について噛みついてみます。


もはや定石:チャイナ・プラスワン
私が説明するまでもなく、日本企業の目下の関心が中国以外のアジアにあるのは、皆さんよくご存じの通り。特に2012年の後半以降、やはり中国一辺倒ではダメだなと痛感した企業は多いことでしょう。2013年の政治問題や、減速感(むしろ不況感)が強い中国経済、為替レート、高騰が続く人件費に現場作業者の確保難、ライバルの台頭や競争激化による業績の伸び悩み。中国だけに資源と意識を集中するべき理由を探す方が困難です。

そこで、チャイナ・プラスワン。脱チャイナではないところがポイントです。市場の大きさ、ビジネス環境や資源の整い方、これまでの投資規模や顧客への影響を考えれば、撤退というわけにはいかない。でもリスク分散のためにもアジアでもう一か国ぐらいは事業展開する。

実際に、ベトナム、タイ、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、バングラデシュなどアジア諸国にも進出する企業はどんどん増えていますし、中国駐在の立場で他国を兼任したり、サポートする皆さんの話を伺うことも増えています。現在の環境を考えれば、至極まっとうな方針のはず。お前はいったい何に噛みつきたいんだ?

失敗するチャイナ・プラスワン=焼畑経営=ダメ転職?
私が引っかかるのは、チャイナ・プラスワンという方針そのものではありません。一国に依存せず他でも展開するというのは大賛成。気になっているのは「焼畑経営になってしまうと危ない」ということ。

ある土地で生えている草木を燃やして整地し、そこで作物を栽培。しばらくしたら、その土地を放置して次の土地で同じことを行う。その土地も痩せたらまた次へ……を繰り返すのが焼畑農業。

同じように「中国で一定期間やったけど、苦しくなってきたからベトナムへ」→「ベトナムも苦しくなってきたからバングラへ」→「バングラもそろそろ潮時か」と人件費の上昇やマネジメントの難しさに追われてエリアを移していくのが焼畑経営。私が勝手に名付けた造語です。

焼畑経営が焼畑農業と違うのは、放置しても地力が回復(人件費が元のレベルまで低下)しないこと。このため、どんどん移転先が限られていくのが辛いところ。一国でやれる期間が15年以上であれば、それでもいいのですが(50年も先のことは次の世代の仕事です)、もっと短いとジリ貧になっていきます。

焼畑経営は『ダメ転職』に近いものがあります。この10年、中国の転職者を支援しながら観察してきましたが、転職を機にレベルアップしていく人とジリ貧になっていく人は、はっきり分かれます。違いは『転職動機』。伸びる人はより挑戦的な仕事や環境を求めて転職していきますが、ダメになる人は現状からの逃避か処遇条件だけを動機に転職します。

20代のうちは両者の違いがはっきりしませんが、30代になると立場や処遇に差が出始め、40歳前後になると30秒の面接でも仕事人としての格の差が分かるようになってしまいます。ダメ転職組は自身の成長(=自己の現状否定)ではなく、現在の自分に適した環境を選ぼうとするため成長がないのです。

チャイナ・プラスワンも動機は重要です。中国特有のリスクが事業に決定的影響を与える業界は別ですが、人件費の高騰、労働者の意識変化、政策法規の潮流変化などにより中国で儲けにくくなったことを主理由にしていると、次の国でも遅かれ早かれ同じ問題に直面します。その次も同様。

ここは一つ、「中国で乗り越えられなかったことは次でも乗り越えられない。中国でマスターした管理の要諦は次でも応用できる」と腹を括って、プラスワンのベースとなるチャイナでも、継続的に利益を上げる経営を追求してみませんか。中国は日本人にとって厳しいアウェーであり、人のタイプも職人気質と商人気質で両極端。ここで『異文化チーム』をまとめ上げることができたら、ASEANのどこにいっても応用できるはずです。

ではまた次回!

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