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コンプライアンス至上主義を再考する②

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2021年5月17日

前回からコンプライアンス至上主義を再考するというテーマで本稿を書いています。

誤解を招くかなと思ったのですが、叱正のお便りはいただきませんでしたので、趣旨を理解していただけたのか、はたまた、「また小島が挑発的なことを言い出したな」と温かく(あきらめて)見守っていただいているのか、きっとどちらかでしょう。ということで、今回も続けます。

前回、法的には同じような問題が存在する類似事例を二組挙げて、私が助言を求められたら、異なる話をすると書きました。事例を簡単に再掲して、私の着眼点を添えていきます。

【事例①A】
残業が月20時間程度、残業代基数は基本給。対象者の多くは地元出身でマイカー通勤者も。

【事例①B】
現場で月60時間程度の残業。基数は法定通り。対象者の多くは外地出身で宿舎に居住。

どちらも、残業に関する法的な問題があります(Aの場合、基本給が毎月の固定的給与額と同じであれば問題なし)
ですが、私が助言するとしたら、Aは、「将来に向けて何らかの対策が必要」、Bは、「社内外の情況を見ながら、しばらくこのままでも可」と異なることを言います。
異なる理由は、考慮しなければならない違いがいくつもあるからです。

■ 法的に問題があるか、だけではない判断基準

最初の違いは、「経済的な損失を被る者がいるか」

Aでは、会社はコストを抑制できるが、本人は本来得るべき残業代が減少する。
Bでは、本人に少なくとも経済的損失はない(逆に、会社の方が不要な残業で抑制したいと考えている場合、指示制や申請許可制で抑制することになる。まぁコンプライアンスの問題ではないので、ここでは考えず)

二つ目の違いは、「従業員の感情」

現時点の中国の一般的傾向として、Aの対象者のような人の多くは、残業に消極的。自己利益に敏感で法的な知識も豊富。
このような対象者に残業代の基数を抑制するような管理を行うと、経営への信頼度や士気が低下し、不満が溜まっていく。
経営者との関係が悪化すれば、労働仲裁に訴えたり、裏で労働監察大隊に通報したりするリスクも相当高い。訴えられればほぼ敗訴。

一方、Bの対象者のような人の多くは、稼ぐために当都市へ来ており、お金が稼げる残業は歓迎。
休日も宿舎ではやることがなく、街に出てもお金を使うだけなので、割増条件がよくて食事も出る休日残業は大歓迎。
むしろ、残業時間を法律の範囲内に抑制すると手取収入が減るため、大きな不満となり、離職してしまう。

ただ、これらは一般的傾向なので、実際には健康管理面や本人たちの意向も考慮して判断する必要あり。

三つ目の違いは、「実務における法的リスクの度合い」

Aは、訴えられればほぼ確実に敗訴し、未払い分を支給する必要がある。労働関係があれば遡及できるだけ遡及するため、巨額に上ることもあり要注意。
(例:Aではないが、仮に管理職や運転手の残業不支給が問題となると、月2,000元×12か月×10年×10人の場合で240万元)。
この他、労働監察大隊による監査などで指摘を受けると、違反した月数×対象者数で罰金処分を受けることもある。

一方、Bの場合、労働者の経済的損失がない(算定できない)ため、訴えられた場合のリスクはほぼない。
監査による指摘のリスクはAと同じく存在するが、政府の管理には労働者の損失や世論によって濃淡があるため、労働者側がむしろ残業を望んでいるBのような情況で、通常、政府が積極的に介入して残業抑制を指導することはない(とくに月50時間前後まで)。

実務では、法律規定だけでなく、実務における功罪やリスクを多面的に判断することを推奨します。

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