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コンプライアンス至上主義を再考する③

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2021年6月16日

最近のニュースを見ていると、コンプライアンス至上主義を再考するという本稿の観点から、色々と考えさせられます。

例えば、米国のトランプ前大統領や、フィリピンのドゥテルテ大統領を巡るさまざまな話。最高権力者自ら、ときに堂々と法律を破るような言動を取ります。
軍政が憲法や法律の執行を停止したり、国の指導者が超法規的処置を宣言したりするケースはあちこちに存在します。
日本だって憲法改正が大きなテーマになっていますが、これは現実の政治が、コンプライアンスを最優先していない情況を長期間続けてきたからです。

このように、冷静に考えると、法律を定めたり執行したりする立場の人たちでさえ、コンプライアンスを最優先していない事態は多々存在します。
私は法学部の末席を卒業した人間ですが、法律の成り立ちや時代背景、変化を知れば知るほど、法律とは社会を円滑に運営するために、生身の人間がつくった「相対的なルール」に過ぎないことを痛感します。

■ 法律とは生身の人間が決めた相対的なルール

「相対的」とは三つの意味を含みます。

一つ目は、運用が相対的であること。
原則として個別の問題よりも社会で決めたルールを優先するものの、原則より重要視するべき問題が出てきたら、原則が曲げられるのが現実。
現在の中国では、税務局、社会保険機構、工会などから「極めて強い程度の協力要請」があったり、労働仲裁などで「法的根拠を示さない敗訴判断」があったりします。
企業に不利なことばかりではなく、総合的判断から有利な処置を得られることもあります。

二つ目は、立法の時点で、誰かに有利という偏りが含まれやすいこと。
一般に、立法者や為政者の不利になることは、それが社会全体にプラスだとしても、簡単には規定されません。
為政者の支持母体が富裕層であれば、富裕層に有利なルールを設定しがち。
庶民人気に支えられている指導者であれば、富を持たない庶民に受けのいいルールを導入しがち。
そして、政治家を陰で支える(コントロールする)行政官僚は、立法の意思形成や草案の段階で、自分たちに不利な内容はそもそも外してしまいがちです。
アジアの多くの国で、相続や不動産に関する税制がものすごく緩かったり、そもそも存在しなかったりするのは、つまり「そういうこと」です。

三つ目は、時代によって妥当なルールが変化すること。
社会が変化すれば、社会を円滑に運営するための法律も変化する。
荘園の存在が当たり前だった時代、幕府が実権を握っていた時代、昭和の高度経済成長期と現在だって、社会の価値観や常識には大きな変化がありました。
仮にある時点で、真に公正・平等なルールを制定したとしても、50年も経たないうちに社会にフィットしない部分が出てきます。
現代の日本でも中国でも、喫煙や残業、環境保護などの法制は大きく変化しました。

●法律とは相対的なルール
□運用が相対的である
□立法時点で偏りが含まれる
□時代により妥当性は変化する

今回の話を見れば、コンプライアンス至上主義を再考するというテーマが、「できるだけ法律を守らなくてもいい」という結論にはならないことを理解いただけると思います。
法律が相対的ということは、遵守していても問題だと指摘されるリスクもあるし、当局の姿勢を見極めた他社がグレーゾーンを活用して競争力を高めているのに、自社だけ法令遵守に拘泥して市場で淘汰されるリスクもあります。
逆に、当局の姿勢変化を見逃せば、グレーゾーンの活用が経営に巨大なダメージを与えることもあります。
要は、法律との向き合い方は自社で自立して判断し、法を巡る環境変化に対しても機敏に対応していかなければならない、ということです。

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